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インサイトレポート

楽しいの裏側 -vol.1 フィギュア原型師・森脇 直人ー

2018.03.19

『仕事』と『楽しいこと』はしばしば対義語的に使われがちです。
では『楽しいこと』の裏側にはどんな仕事があるのでしょうか?
この連載では、『楽しいこと』を支える人たちの素顔や、思いにせまります!

第1回 フィギュア原型師・森脇 直人

記念すべき第1回は、フリーランスでフィギュアの原型師を続けている森脇 直人さんにインタビュー!
どうして原型師という道を選んだのか?その中でもなぜフリーランスとして活動を続けているのか?根掘り葉掘りお伺いしました!
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■原型師×フリーランスという仕事
Q、原型師の道に入った経緯を教えてください!
A、高校を卒業してからしばらくふらふらとしていて(笑)。20歳になって「そろそろ何かをやらなきゃな…」思った時に、子供の頃から好きで読んでいた模型雑誌の裏表紙に掲載されていたい代々木アニメーション学院フィギュアアーティスト科の募集要項が目に留まったのがきっかけです。プラモデルを作る事が好きだったし、実家がステンレスの工場をやっていてモノを作る仕事に抵抗も無かったので、「好きな事をそのまま仕事にしよう!」と思い立ちました。
一旦はアルバイトとしてメーカーに就職した後に、自分のやりたい事をやりたいと退社。
ワンダーフェスティバル(※世界最大のガレージキットイベント)などのイベントで活動する中でメーカーから声を掛けて頂いてお取引をしていくうち、自然とフリーランスという働き方になっていきました。以来10年間、フリーランスとして活動をしています。

Q、20歳の時、好きな事を仕事にする、という風に決意できたのはなぜでしょうか?
A、元々勉強が嫌いで大学に行く気も無かったんですが(笑)、高校を卒業した時に就職も決まっていなかった。
ちゃんとした仕事はしたいと思っていたので、じゃあ自分に何が出来るだろうと考えた時に『好きな事なら頑張れるんじゃないか?』と考えたんです。
今思えば、選択肢がそんなに多くなかったのが良かったんでしょうね。選択肢が多すぎてどうしようかと悩んでいたら、こういう選択はできていなかったと思います。この道に進んでいる人は、そういう人たちが多いんじゃないかな?

Q、今後作っていきたいものなどありますか?
A、毎期新しいアニメーションも始まりますし、情報収集が大変です(笑)。片っ端から録画予約していきながら作品を常にチェックして、次にどんな仕事が出来るのか備えています。結局メーカーから声を掛けて頂かないとお仕事にならないので、ワンダーフェスティバルの様なイベントで『自分はこういう作品が作れる』という事をアピールするのが不可欠です。最近だとtwitterで作品を見て声をかけて頂く事もありますね。

Q、今の時代、個人が発信をしやすくなった事は追い風ですね。
A、そうですね。昔はSNSもここまで広がっていなかったので、イベントで声をかけて頂くのが中心でした。後は、元々のメーカーとのつながりでお仕事を頂く事もありましたね。
そういう意味でも、一度メーカーに就職していた経験は非常に活きていると思います。二社をあわせて2年弱程アルバイトで勤めていましたが、基本は全てその時に叩き込まれました。

■作品は“誰”の物?
Q、森脇さんが作品を作る際の、魂の入れどころは何処でしょう?
A、人によって何の為に作るか、何を求めて作るかは違うと思います。僕がずっと大事に思っているのは『誰に届けるのか』
版権元があってメーカーがあって、その先に僕たち原型師がいますが、結局手に取って頂くのはそのキャラクターを好きな人達です。ゲームセンターのプライズ等もありますが、安くはないフィギュアを手に取ってくれるファンの人達に喜んで貰える、納得してもらえるような造形を心掛けています。例えばこのフィギュア(※写真1参照)を作った時には、『ちゃんとしたものを食べられていないんだろうな』『無駄な贅肉等は付かないような生活だろう』等、そのキャラクターの背景まで考えて制作しました。キャラクターの事を考えて、そのキャラクターの事を好きな人たちが求めている物は何かを考える。もちろんファンの人もそれぞれの好みがあると思いますが、出来るだけたくさんの人の求める物が作れればと思っています。
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<写真1:イベント用に作成したガレージキット。『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のキャラクター、オルガ・イツカ。背中で語る男を見事に体現。>

Q、好みという話が出ましたが、森脇さんご自身の好みもあると思います。それに沿わない様なお仕事の場合は断る…といった事もありますか?
A、自分より適任がいるのでは…とは悩みますが、お仕事で頂いている話ですし、基本的には試されていると思ってお話を受ける様にしています。実際にやってみると、これまで自分に無かった表現が見つかったり、自分にとってプラスになる事も多いですね。
例えば、女の子を作ったのはこの2作(※写真2参照)が最初でしたが、先輩方の作品を参考して作っていく中で勉強になる事も多かったです。また、3Dプリンタが身近なものになった事でデジタルの原型師さんが最近増えています。武器や鎧などカッチリしたものはデジタルの方が圧倒的に優れているので、最適な手法を選択出来るようにデジタルの勉強も始めています。
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<写真2:バンダイのFigure-riseBust[フィギュアライズバスト]シリーズから、『機動戦士ガンダムSEED』ラクス・クライン(左)と『マクロスΔ[デルタ]』フレイア・ヴィオン(右)。フィギュアではなく、なんとプラモデル!>

■“正解”の無い世界で
Q、1体のフィギュアで、大体どの位の制作期間なのでしょう?
A、このフィギュアの場合は、別に仕事をやりながらイベント用に作ったものなので塗りまで含めて3ヵ月くらいです。
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Q、同じ机の上で同じ様にフィギュアを作っていても仕事と趣味がはっきりと分かれているのですね…!
A、全部同じ机の上の話ですけどね(笑)。何時からはこちらのイベント原型をやる、とか粘土の固まり待ちの間に別の原型をさわる…という風です。フリーになって初めてのころは、そのキャラクターを理解するために常にアニメを流しながら1作品を集中して作っていましたが、経験を重ねるうちに複数並行して作れるようになりました。

Q、スランプなどはあるんでしょうか?頭で考えている映像と、手元の像が一致しない…というか。
A、僕は感覚で作っている人らしくて、あまり頭の中でイメージして作るという事がないんです。実際に手を動かしながら、ここをこちらに動かしたらどうかな?とか別の角度から見てどうかな?など試しながら作品を固めていっています。ですので、頭の中の想像と違う…といった葛藤は無いですね。

Q、それは凄い…そうすると、逆に『この絵通りに作って欲しい』というオーダーが来た方が大変なんですか?
A、いや、そちらの方が楽です。自分が作りたくて作っている物ならともかく、依頼があって作るものは版元さんやメーカーさんのイメージが先ずあるので、それにそぐわない物は直さなければいけない。正解の絵があれば、“この絵通りに作ってますよね?”とコミュニケーションが取れるので、明確なガイドがあるとありがたいです。

Q、人を作るにあたって、人体の勉強などはされたんでしょうか?
A、最初のハードルがまさにそこでした。特に肩周りが難しく、人間の腕はメカと違っていきなり生えている訳では無く、鎖骨や肩甲骨との関連性などを理解しないと人体としておかしくなってしまうので、メカから人体に移った時に非常に苦労した覚えがあります。最近のアニメは人体の描写もその辺りがちゃんと意識されていますね。

■原型師という職業の『楽しさ』
Q、最近、ゲームセンターで原型師×作品名、という様な打ち出しのプライズを目にする事も多く、原型師さんが前面に出てき始めているのかな?と思うのですが、日が当たってきている実感などありますか?
A、どうなんでしょう。個人的には逆に、原型師の名前は陰に隠れてメーカーの名前を皆さん気にする様になってきていると感じます。量産品に求められるのは安定感なんです。フィギュアは先ず原型のデコレーションマスター(※原型に色を付けた物)の写真を撮影して受注を始めます。量産品の写真を撮ってから受注を始める訳では無いので、お客さんは『本当にこの写真通りのフィギュアが届くのか?』が気になる訳です。どんなに原型師の方が優れていたとしても量産過程で品質が下がっては意味が無いので、デコレーションマスターと遜色の無いフィギュアを届けてくれるメーカーに、お客さんは注目するのだと思います。実際一時期からよく名前を見る様になったメーカーは、その量産品質が認められて脚光を浴びていますね。

Q、原型師、という職業についてもっと日が当たって欲しいという想いはありますか?
A、SNSが普及して、目立つ人は勝手に目立つのではないかと思います。今の世の中これまで表に出てこなかった才能がSNSで発掘をされるという事もよく聞きますし、実力のある人は自ずと出てくるんじゃないかな。

Q、昨今世の中で副業が活発になって来ていますが、副業として原型師はすすめられると思いますか?
A、納期に間に合えば良いと思います(笑)。最近はアニメのサイクルも非常に速いので、必然的に原型のサイクルも早いんです。ビッグタイトルの続編であれば放送前からお話を頂いて作り始める事もありますが、基本的にアニメは幾ら前評判がよくても放送してみないとわからないもの。
結局アニメがヒットしなくてはフィギュアも売れないので、アニメが始まった後に様子を見て、そこから原型を造り出すというのが一般的です。そうなると、アニメが終わる事にようやく原型ができて予約を開始、アニメが終わって半年後にフィギュアが手元に届く、といったサイクルになるのですが、その頃にはすでにお客さんの熱も他の作品に移っていて予約がキャンセルになる…といった事もざらにある位、流れが早い業界です。

Q、仕事をしている時に一番楽しいと感じるのはどんな時ですか?
A、お客さんの手元に届いて、喜んでもらえている反応が見えた時ですね。もちろん作ることも好きなんですが、基本的に作っている瞬間は孤独との闘いというか、このキャラクターを任せてもらえたのだからという責任感の方が大きいので。

Q、では、店頭で実際に自分のフィギュアを手に取ってくれている人を見る瞬間が…
A、ところが、フィギュアって基本的に高くてネットが買うのが基本なんです…。なので、そういう意味ではプラモデルは店頭に並ぶので反応が見えて嬉しいし、イベントに出展するのも欲しいと思っている人の顔が間近で見えるから、という理由が一番ですね。
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■好きな事を仕事にするということ
Q、最後に、好きな事を仕事にしたいけどその一歩を踏み出すか迷っている若い人に、メッセージをお願いします!
A、楽しい事は沢山あります。辛い事の方が見えがちですが、仕事なんてそもそも好きじゃなくても我慢してやっている人の方が圧倒的多い。その中でも楽しさを見つけることは出来るはずですし、僕が今こうして好きな事を仕事にしているのは単なるラッキーだと思っています。上手い人なんていくらでもいる中で僕がやれているのは、僕に才能がある訳では無くて、たまたま今の時代と合っていたり、こうやって仲良くして下さる方、応援して下さる方がいるからです。僕は、好きな事をやり続ける事によって好きな事を同じくする人達が集まってくれる環境をこそ愛し、続けているのだと思います。

Q、今回取材に利用させて頂いたこの秋葉原工作室など、まさにそんな場所ですね
A、はい、仕事柄中々出不精になってしまうのですが、工作室には同じ物を好きな仲間がいつもいるので用が無くても立ち寄ってしまいます(笑)

=森脇 直人さん紹介文=
1982年生まれ
代々木アニメーション学院 フィギュアアーティスト科卒業後アルバイトでフィギュアメーカーに勤務

退社後ワンダーフェスティバル等のイベント活動を経て、フリーランスで様々なメーカーの商業フィギュア原型に携わる

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