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自動運転からVRまで。社会システムを劇的に変える「5G」が必要な、3つのポイント

2018.07.20

2019年に商用化がスタート予定のモバイル通信技術「5G」(日本は2020年予定)。4Gよりも速いことはなんとなくわかりますが、実は新しい社会システムを実現するための重要な技術でもあります。そこで現在行われている実証実験を具体例にあげながら、なぜ5Gが必要なのかを紹介していきます。

現在モバイル業界やIT業界でいちばんホットなキーワードは「5G」です。5Gとは第5世代の通信規格という意味で、これまで通信規格はショルダーフォンや車載電話などに使われたアナログ方式の第1世代から、デジタル方式に変わりメールなどが利用できるようになった第2世代(2G)。さらに数Mbpsの高速通信に対応した第3世代(3G)を経て、現在主流となっているLTEなどの第4世代(4G)と進化してきました。

現状でも4Gの技術ならば、スマートフォンを使ってビデオ配信サービスで高画質の映像を観たり、パソコンから大容量のデータを送信したりできるので、なぜさらに5Gが必要なのか疑問に思うかも知れません。ですが実はこの5Gが、これからの社会を大きく変える技術の中心となる技術なのです。

5Gを規格化している中心企業のひとつクアルコム。モデムなど実用化に必要な機器類の開発は進んでいる。

5Gを規格化している中心企業のひとつクアルコム。モデムなど実用化に必要な機器類の開発は進んでいる

5Gの特徴は「高速大容量」と「超低遅延」、「多数端末接続」の3つ。この3つが実現されると、高いハードルにぶつかって開発や実用化が遅れている技術やサービスが一気に華開くことになります。

たとえば「高速大容量」では現在よりも多くのデータを送受信することができます。スマートフォンで動画を観る程度なら4Gのスピードでも問題はありませんが、この先の社会では人の行動がすべてデータ化されて、そのデータがモバイル通信でやりとりされます。たとえば人が1日生活すると、1.5GBのデータが生成されると言われています。現在一般的なケータイプランだと毎月のデータ通信量は3GBあたりが主流ですので、2日で使い切ってしまう量です。

さらに自動運転では1日に4TBものデータを生成します。1TB(テラバイト)は1024GBなので、1GBの約4000倍。またIT技術を導入してスマート化された工場は1日で1PB(ペタバイト、1024TB)のデータを生成すると予測されています。

インテルの発表によると、自動運転で生成されるデータは1日で4TB。そのデータをあらゆるクルマが送受信する時代が来る。

インテルの発表によると、自動運転で生成されるデータは1日で4TB。そのデータをあらゆるクルマが送受信する時代が来る

こういった大容量のデータをセンサーなどによって作り出す技術があるものの、それを送受信できるだけでの性能は現在の4Gにはありません。つまり通信速度が高いハードルとなっているわけです。

また「超低遅延」も重要なポイント。現在の技術では送信から受信までタイムラグが4Gの遅延は50ミリ秒未満。3Gはその倍の遅延が発生します。これが5Gになると遅延は1ミリ秒以下で、一気に4Gの50分の1の超低遅延となるわけです。

この超低遅延で華開く技術が「遠隔操作」です。現在のタイムラグでは遠隔地から指示をだしても、現場に反映されるまで時間がかかってしまいます。クルマの自動運転では緊急時などに遠隔操作に切り替えて運転することが想定されています。そのため、自動運転では回避できないような危険な状況になっても遅延がある場合は遠隔地からの操作が間に合わないという事態になってしまいます。

自動車の遠隔操作をする場合、クルマに装着したカメラの映像を遠隔地に送信し、その映像を観て操作。さらにその操作した情報がモバイル通信でクルマに送られ反応します。安全に運転するには、高解像度ではっきりとした映像データが必要ですが、その場合映像データの容量は大きくなります。その大きなデータを遅延なく遠隔地に送信し、さらにその反応をクルマに返信する。そこに5Gの「高速大容量」と「超低遅延」が生きてきます。

ソニーとドコモが共同で開発した5G対応の「ニューコンセプトカート」。自動運転だけでなく、車体の4Kディスプレーに高精細な映像を送信して映し出すといった機能を装備している

ソニーとドコモが共同で開発した5G対応の「ニューコンセプトカート」。自動運転だけでなく、車体の4Kディスプレーに高精細な映像を送信して映し出すといった機能を装備している

実際、5月に福岡で行われたKDDIの自動運転&遠隔操作の実験では、自動運転の走行テストを行っている場所から10km離れた地点で遠隔操作を行いましたが、遅延に対応するため時速は15km/hにおさえていました。このときの実験は4Gを使っていましたが、KDDIの説明によると5Gを使えば40km程度まで速度をだしても遅延は問題なくなるとのことです。

5月に行われたKDDIの自動運転で使用されたクルマ。障害物を検知すると自動で止まり遠隔操作に切り替わる。

5月に行われたKDDIの自動運転で使用されたクルマ。障害物を検知すると自動で止まり遠隔操作に切り替わる

10km離れた場所から遠隔操作に切り替わったクルマを運転。

10km離れた場所から遠隔操作に切り替わったクルマを運転

さらに5Gの技術はモバイル通信だけでなく、既存の無線通信の置き換えも考えられています。たとえば工場内の通信を5Gに置き換えて、ロボットや機械の制御に使用します。ここでも「超低遅延」の効果は大きく、機械の不具合を検知したときに瞬時に停止させられます。工場を安全に動かすにも5Gが必要というわけです。

「多数端末接続」は、ひとつの基地局にどれだけのデバイスが接続できるかということですが、ある意味もっとも一般的なユーザーが恩恵を受けられるポイントと言えます。現在の4Gでは、大人数があつまるライブやイベントで通信品質が悪くなる経験をしたことがある人も多いはずです

5Gでは、4Gと比べて100倍以上のデバイスを同時に接続できるように目指して規格化されています。4Gの場合基地局の性能にもよりますが、最大1000台のデバイスが同時に接続できます。その基地局にキャパシティーを越えたデバイスがアクセスすると、順番待ちのような状態になってしまいます。そのため人が多く集まるようなイベントで「アンテナマークではちゃんとつながっている表示なのに、ネットにつながらない」というケースが起きるわけです。

5Gではこの100倍以上なので、10万台のデバイスがひとつの基地局で同時に接続可能。人が多く集まるようなイベントでも安定した通信を確保できます。さらに「多数端末接続」の恩恵で、新しいサービスも提供できるようになります。

たとえばKDDIはプロ野球の試合会場で、5Gを使ったマルチアングルの映像配信実験を行っています。これはスタジアム内に複数のカメラを配置。5Gのアンテナと対応タブレットを使うことで、どのカメラの映像もチェックできるというもの。

6月に沖縄セルラースタジアムで実施されたKDDIの5Gを使った映像送信実証実験。50台のタブレットに複数のカメラからの映像を配信

6月に沖縄セルラースタジアムで実施されたKDDIの5Gを使った映像送信実証実験 50台のタブレットに複数のカメラからの映像を配信

5Gでの通信なので、データ量の多い高解像度の映像を送ることができ、超低遅延なので実際の試合とほぼ同じタイミングの映像がみられるわけですが、さらに「多数端末接続」なので、会場に訪れた複数のユーザーが使用できるわけです。

こういった中継ではタブレットではなく、VR用のHMD(ヘッドマウントディスプレー)を使って360度で3Dの映像を会場に集まったすべてのユーザーに配信するといった使い方も今後考えられます。そうなると今以上にデータ量も多くなり接続数も増えるため、「高速大容量」と「超低遅延」、「多数端末接続」の3つを活用する機会も多くなりそうです。

5Gに接続するデバイスはスマートフォンやタブレット、パソコンだけではありません。いわゆる「IoT(モノのインターネット)」で、現在でもスマートウォッチやテレビ、エアコンなどネットワーク対応機器がIoTとして登場していますが、今後さらにいろいろなものがインターネットに接続します。たとえばドコモが提供しているシェアサイクルの「ドコモ・バイクシェア」では、各自転車にモバイル通信機能を内蔵していて、レンタル時の解錠や位置の把握などに使われています。

ドコモの「ドコモ・バイクシェア」にはモバイル通信機能が搭載されているIoT機器のひとつ。

ドコモの「ドコモ・バイクシェア」にはモバイル通信機能が搭載されているIoT機器のひとつ

といってもIoT機器のなかには、高速大容量通信などが不要なものもあります。たとえば玄関のドアなどに使うスマートキーは、未使用時には通信はほとんど行わず、開閉の信号が来たときやドアが開いたときのデータを送受信すれば問題ありません。シェアサイクルの通信も同様です。

こういったあまり通信をしないIoT機器もスマートフォンなどを同じように基地局に接続しているのはもったいないため、5Gでは「ネットワークスライシング」という技術が導入されています。これは各デバイスが用途に合わせて送信するデータサイズの量をコントロールして、基地局との接続時間を柔軟に調整できる技術です。同時接続数が4Gの100倍になり、さらに接続時間も効率良くできるため、より多くのデバイスがストレスなく通信ができるわけです。

ファーウェイの卓上ルーターをはじめ、各メーカーとも5G対応の試作機は完成しており、あとは商用化をまつだけといった状態。

ファーウェイの卓上ルーターをはじめ、各メーカーとも5G対応の試作機は完成しており、あとは商用化をまつだけといった状態

自動運転やVRを使った映像配信技術、さらにIoTでのスマートホーム化などのIT技術やサービスが注目を集めていますが、実は本格的に普及するためには5Gが不可欠。ネットが速くなるだけではなく、社会を変える重要な通信技術です。日本での商用化は2020年を予定しており、新しい社会システムの登場が期待されます。


取材・文・写真/中山智(なかやま・さとる)
海外取材の合間に世界を旅しながら記事執筆を続けるノマド系テクニカルライター。雑誌・週刊アスキーの編集記者を経て独立。IT、特に通信業界やスマートフォンなどのモバイル系のテクノロジーを中心に取材・執筆活動を続けている。

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