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スイッチコラム

クラウドサービスのスタートアップが大手に「株式譲渡」。決断の決め手、M&Aから1年を経た今を語る

2020.04.13

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2013年10月、起業。2014年5月、初のサービスをリリース。2015年、大型出資を獲得。
2016年、施策が空回りする時期を経て、2017年、新サービスをリリース。
2018年、新サービスに手ごたえを得て、2019年1月、パーソルプロセス&テクノロジー株式会社へ株式譲渡。

Bizer(バイザー)株式会社は、起業から5年で「株式譲渡」という選択をし、自社プロダクトであるタスク管理ツール『Bizer team』の売上拡大につなげています。
その成長と失敗のプロセス、株式譲渡に至った背景、株式譲渡して1年以上を経た現在について、代表取締役の畠山友一さん、主力サービスである『Bizer team』プロダクトマネジャーの田中秋生さんに語っていただきました。

畠山友一(はたけやま・ゆういち)
Bizer株式会社 代表取締役
1978年、東京都出身。2001年、富士通アドバンストエンジニアリング入社。2004年に株式会社リクルートに転職し、FNX(FAX一斉同報サービス)を中心に営業を担当し8千社あまりの法人へ提供する過程で、中小企業が自社の本業に集中できる環境を作るため、業務効率化、マーケティング支援の業務に従事。2011年グリー株式会社入社。グリーアドバタイジング株式会社の代表取締役を経て、2013年10月に独立。株式会社ビズグラウンド(現・Bizer株式会社)を設立し、代表取締役社長に就任。2019年1月にパーソルプロセス&テクノロジーに株式譲渡

田中秋生(たなか・あきは)
Bizer株式会社 執行役員 『Bizer team』プロダクトマネジャー
富山県出身。2002年、株式会社インテック入社、システムエンジニアとして販売管理系の基幹システムの開発に従事。その後、株式会社シープランニングにて人事、営業企画などを経験。2012年に入社したグリー株式会社では、広告代理店事業の運用部門立ち上げを行う。2014年にBizer株式会社に1人目の社員として参画。2017年より現職。

「業務効率化」をテーマに起業。大型出資を獲得するも、組織作りにつまずく

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――Bizerを起業された経緯を教えてください。

畠山友一さん(以下、畠山) 会社員を辞めようと決めたタイミングでVC(ベンチャーキャピタル)の方から出資の話をいただき、「業務効率化」をテーマに起業しました。これまで会社組織で働く中で、「無駄が多いな」と常に思っていたので、そのモヤモヤを解消するビジネスをやろう、と。

それまで、ゼロからサービスを創った経験はありませんでした。もともと斬新な発想力・発明力があるわけでもない。ただ、皆が当たり前のようにしていることを「無駄」と気付くセンスはあったのかな。複雑なことをシンプルにして、さっさとやる。言い換えれば「課題発見・改善」は得意でした。

起業後、さっそく「無駄」「複雑」を発見しました。役所の手続きや経理など、わかりづらく面倒なことが多い。そこで、自分と同じように困っている起業家や中小企業のバックオフィス業務をサポートするクラウドサービスとして、『Bizer』をリリースしたんです。Facebook、NewsPicks、ピッチイベントなどを介してユーザーが広がりました。

―― 2015年、大型出資を獲得されたそうですが、資金を得て何が変わりましたか?

畠山 マーケティング活動のほか、「人材採用」に資金を投じました。メンバーが一気に増えたので、組織の一体化を目指し、「ビジョンを決めよう」とか「ピザパーティでコミュニケーションを深めよう」とか、いろんな施策も打ちましたね。でも、結果的にはことごとく的外れでした。
組織作りに有効と言われている施策でも、「やらなくちゃ」という意識で、うわべだけでやっても全然楽しくない(苦笑)。本質を見失ってしまった時期でした。

投資を受けたから事業を伸ばさなければ、そのために人材採用をしなければ……という固定観念にとらわれてしまったんですね。「採用」「組織作り」自体が目標になってしまっていた。でも、人数増加に比例して売上が伸びたわけでもなく、次々と辞めていってしまいました。
もちろん、営業人材の拡充が事業成長につながることもありますが、まだそのフェーズではなかった、ということ。やみくもに人を増やすより、サービスのブラッシュアップに資金を投じるべきでした。
田中は当時産休中だったけど、気付いていたよね。「おかしいんじゃないか」と小声で言ってた。

田中秋生さん(以下、田中)「チーム」というものをはき違えていたな、と当時を振り返ると思います。仲間を増やして、すべてのことを皆の意見を聞いて話し合って決めるのが正義だ……という考えに傾いていたけれど、皆で決めると結局中途半端な落とし所になってしまい、それに対して誰も責任を負わない。うまくいかなかったとき、全員が「自分のせいじゃない」と。決めるべき人を明確にし、その担当者が「やり切るんだ」という意思を持つことが重要だったと思います。

「プロ」を尊重するチーム作りで、新たなプロダクトが誕生

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―― 失敗を乗り越えて、主力サービス『Bizer team』が生まれたのですね。プロダクトの特徴と成功要因を教えてください。

田中 コンセプトは「『仕事』をわかりやすく。かんたんに。」。チームでは「今、誰が何をしているのかわからない」「仕事が属人化している」「中長期的な課題に取り組む余裕がない」といった事態が起きています。それを解決するために、チームの業務プロセスを管理し、リアルタイムで進捗を共有できるようにしました。「タスク管理」というより、「チームの生産性アップ」を目的としたツールです。

畠山 従来のタスク管理ツールは、個人対象で、タスク情報は終わったら消えていく。一方、従来のチーム対象プロジェクト管理ツールは、機能が複雑で長期プロジェクト向きです。
『Bizer team』はチームを対象にしたシンプルな機能で、日々のタスク情報を「蓄積」していくことが可能です。導入企業さんからは「引き継ぎが楽になった」「リモートワークをしやすくなった」「メンバーが休んでもカバーできる」といった声をいただいています。
『Bizer team』の成功要因は、プロダクトマネジャーである田中の意思決定力ですね。『Bizer』を運営してきた中で、素材はたくさん持っていましたが、「田中の思想でやろう」と決めた。そして彼女は自分のコンセプトを確実にプロダクトに落とし込んでくれました。

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▲『Bizer team』の画面

田中 デザイナーもエンジニアもカスタマーサポートも、それぞれがプロとして自分の担当領域に責任を持とう、専門外のメンバーは意見はどんどん伝えよう、でも最後にはプロの決断を信頼しよう、という「チームのあり方」が確立されたのがよかったと思います。前年の組織作りの失敗から学んだことです。
畠山さんは、何かと「いいね!」と言うので、肯定されている自信が持てますね。

畠山 意識して言っているわけじゃないんですが、メンバーが私のものまねとして「それいいね!」ってやっているので、そうなんでしょうね(笑)。今のメンバーは、私にないものを持っている人ばかり。彼らがその領域のプロとしてアウトプットするものを尊重しています。

軌道に乗ったプロダクトをさらに伸ばすため、「株式譲渡」を選択

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―― パーソルプロセス&テクノロジーとは、どのような経緯でM&A締結に至ったのでしょうか?

畠山 2017年11月に『Bizer team』をリリースし、翌年の夏頃には「これはいける!」という手応えを感じていました。パーソルプロセス&テクノロジーとの出会いはその頃です。
もともと面識があったパーソルグループのVC部門の方から近況を聞かれ、『Bizer team』について伝えると、「パーソルプロセス&テクノロジーの事業と親和性があるのではないか」と、つないでくださったんです。

私としては、業務提携でもM&Aでも、どんな形でもいいので「ぜひとも組みたい」と思いました。Bizerが抱えていた課題を解決できる企業だからです。
『Bizer team』は大きな効果をもたらすツールですが、お客様側にツールを運用するリテラシーがないと「導入したものの使わない」ということになりがち。「提供するだけでは難しい」と感じていました。
その点、パーソルプロセス&テクノロジーでは顧客の内部に入り、一緒に業務改善を行います。その際、コンサルタントさんに『Bizer team』を持って入っていただけば、パフォーマンスを最大限に発揮していただけるのではないかと考えたんです。

ワークススイッチ事業部の役員である小野さんに直接プレゼンを行ったところ、デモ開始5分で「これはいける」と。コンサルタントが顧客の業務を可視化するために活用できる、との判断をいただきました。
パーソルプロセス&テクノロジーとしては、「内部に武器を増やしたい」という意向もあり、「業務提携」ではなく「M&A」の方向で検討。試しに約1ヵ月、『Bizer team』を売っていただいた結果、目標件数を達成し、締結へ一気に進みました。

―― 起業家には、会社を「わが子」のように思い、「養子に出す」ことに抵抗感を抱く方も少なくないと思います。そうした感情はありませんでしたか?

畠山 まったくありませんでした。「会社」とは、人が集まって仕事をしている団体の「肩書」にすぎないと捉えています。当時のBizerは上昇気流に乗っていたので、さらに伸ばすことができるなら、株が誰のものだろうと関係ない。よりよい形で成長していくために、自分の所有物である必要はないと思います。

ベンチャーと大手の資本提携・業務提携はうまくいかないケースも多い。中途半端な提携では、『Bizer team』をしっかり組み込んでもらえないかもしれない。中に入り込んだほうが、本気で向き合ってもらえるだろうと考えたんです。

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▲Bizerのオフィスにて

―― 株式譲渡について、メンバーの皆さんの反応は?

畠山 最初、不安はあったと思います。「口出しをされて、自分たちが思うように進められないのではないか」と。けれど、その不安については、小野さんとの事前協議で払拭していました。「組織もオフィスも働き方も、そのまま継続してほしい」「コンサルの武器を増やすのが目的であって、その開発過程に口出しするつもりはない」と言われていたんです。そういう条件だったからこそ、株式譲渡を決断しました。

田中 それまでにもM&Aのお話はありましたが、サービスではなく「人材」を取り込みたいだけなのかな、と感じるものもありました。パーソルプロセス&テクノロジーは、サービスの価値をちゃんと評価してくださったので、それを伸ばしていただけるのは当社にとっても喜ばしいことだと思いました。
小野さんは、私たちのオフィスにも足を運んでくださり、メンバーたちにしっかりと話をしてくださったので安心できましたね。

自社ではかなわなかった「新たな顧客層の開拓」を実現

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―― 株式譲渡から1年強が経ちます。この1年に起きた変化、そして今後の取り組みについてお聞かせください。

畠山 「Bizer株式会社」はそのまま残っていますし、サービス名称も『Bizer』『Bizer team』を使い続けています。オフィスも働き方も以前のままです。
株式譲渡後の立ち上がりはスムーズでした。大きな期待を感じるし、Bizer社とそのメンバーを尊重して自由にやらせていただいているので、パーソルプロセス&テクノロジーと手を結んだのはベストな選択でしたね。

パーソルプロセス&テクノロジーの営業力によって、事業は大きく成長しています。特に変わったのは、導入企業の規模。今では数万名規模の大手企業や金融機関でも『Bizer team』を利用していただいています。

田中 顧客層が広がった分、お客様から求められることも変わってくるため、この1年はセキュリティ関連や他システムとの連携などの開発に注力しました。機能やサービスはかなり充実しましたね。

畠山 ただし、企業文化のギャップはどうしてもあります。大企業とスタートアップでは、物事の考え方やスピード感などが違う。理解していたつもりでも、思った以上にギャップを感じることもあります。

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田中 私も以前は大手企業に勤務していましたが、スタートアップに何年もいるうちに「当たり前」の基準が変わっていたことに気付かされました。自分自身の当たり前をスタンダードと捉えるようになっていたけれど、パーソルプロセス&テクノロジーの中に入ることで、「世の中のスタンダードはこちらなんだな」と。より多くの人に使っていただくためにどうしていくべきか、気付けることがたくさんあります。それを取り入れて、サービスに落とし込んでいきたいと思います。

畠山 私は、役員陣がパーソルプロセス&テクノロジーのプロダクトの今後について検討するディスカッションにも招かれ、意見を求められます。冒頭でも触れたとおり、私は「無駄の発見」と「課題解決」を得意とするので、おかしいと思うものは遠慮せず、スバズバ言わせていただいています。パーソルプロセス&テクノロジーにとっては耳が痛いこともあるでしょうが、それを受け入れる文化だし、違う視点での意見を求められていると思うので。

また、今後はパーソルプロセス&テクノロジー内の営業組織に入り、営業の変革にも携わっていきます。営業組織では『Bizer team』の拡販も手がけるので、営業力の強化に貢献しながら、Bizerのさらなる成長にもつなげていきたいと思います。

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Bizer team

取材・文/青木典子 撮影/渡辺 健太郎 

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