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スイッチコラム

そのコミュニケーション、本当に大丈夫ですか? 今日から使いたい「なんか感じが良い人」と思われる大人の伝え方とは?

2019.08.14

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▲「大人の伝え方ノート」著者 矢野 香さん

多くの若手社員が抱える「ビジネスコミュニケーションの壁」。信頼される社会人になるためには、その場にふさわしい言動が求められます。でも、どんなコミュニケーションが正解なんでしょうか? スピーチコンサルタルトの矢野香さんは、元NHKキャスターとしての現場経験と研究者としての心理学の見地から、政治家や経営者から学生まで幅広い層に指導しています。このほど『大人の伝え方ノート』を上梓した矢野さんに、ワークスイッチ編集部が悩める若手社員へのアドバイスを聞いてきました!


矢野 香(やの・かおり)
国立大学法人長崎大学准教授。元NHKのキャスターとして17年の実績。NHK在局中から、心理学を根幹とした「他者からの評価を高めるスピーチトレーニング法開発」を研究し、博士号を取得。ビジネスや日常においてスピーチを必要とする幅広い層への実践的なコンサルティングを続けている。著書に『その話し方では軽すぎます!――エグゼクティブが鍛えている「人前で話す技法」』(すばる舎)、『【NHK式+心理学】一分で一生の信頼を勝ち取る法―NHK式7つのルール― 』(ダイヤモンド社) などベストセラー多数。

コミュニケーションの基本は「一挙手一投足、意図を持って話す」こと

大人の伝え方ノート
▲「大人の伝え方ノート」(SBクリエイティブ・刊)

——さっそくですが、コミュニケーションにとって本当に大事なことって、何ですか?

矢野香さん(以下、矢野):私はいつも、「一挙手一投足、意図を持って話す」ということを申し上げています。その理由の1つにリスクマネジメントという観点があります。たとえば、スピーチコンサルティング依頼のなかには「謝罪会見」という場があります。

——「謝罪会見」ですか。確かに、最近ニーズは多そうです。

矢野:謝罪会見でよく見られるのが、「そんなつもりで言ったんじゃなかったのですが…」と後で訂正して謝罪すること。そうならないために、そもそもどの方面から切り取られても悪い意味に受け取られることがないように準備をしてから伝えることが大切なんです。

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▲「一挙手一投足、意図を持って話すことが大事です」

——そこで、一挙手一投足、意図を持って話すことが大切になるんですね。

矢野:はい。
「なぜいま、その言葉を使うのか?」
「なぜいま、その声なのか?」
「なぜいま、その表情なのか?」
など、話し方には「理由」や「意図」がなければならないのです。

また、学生のときは個人としての発言がほとんどでしょう。つまり「公私」の「私」です。学生時代はそれでよくても、社会人になってからは「公私」の「公」の部分で話すことが圧倒的に多くなります。その切り替えもとても大切です。
たとえば田中さんという人が、自分では「田中」という「私」の意見を述べたつもりであっても、仕事の場では「○○社の田中さんが言った」、あるいは「○○社はこういう意見だった」と、「私」が削除されて「公」の意見として相手に伝わります。

——個人の感想と仕事での発言とは違いますからね。

矢野:人間のコミュニケーションには、「目的なく口を開かない」という特徴があります。何かの目的のために話すのが、本来の行動パターンなんです。
そこで、その場の「わかりやすさ」や「好感度」だけでなく、「その後の人間関係」も考慮した伝え方を「大人の伝え方」と定義づけ、この本のタイトルにしました。

ビジネスで良好な関係を築きたい、あるいはプライベートの付き合いにもつなげたい、などが目的です。
そういった「これから先どうしたいか」という目的によって、話し方や言葉遣いも変えるべきだよ、ということが、この本で一番お伝えしたかったことです。

学生ノリの「コミュ力」を企業は求めていない。軽すぎるコミュニケーションは、信頼を失う原因に

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▲(上段)学生時代の「ノリ」重視コミュニケーションでは宴会部長にしかなれないが、(下段)控えめな性格でも全体を俯瞰できるコミュニケーション能力を企業は求めている

——では、矢野さんから見て若手社員にありがちな「ビジネスコミュニケーションの問題点」はありますか?

矢野:一言で言うと「軽すぎます」(笑)。それは、「コミュニケーション」を「仲良くなること」と誤解しているからです。

——同じように聞こえますが・・・。

矢野:実は違うのです。
以前、私の研究室で企業の人事担当者を対象に調査をしたことがあります。その結果、学生が思っている「コミュニケーション能力がある人」と、企業が考えている「コミュニケーション能力がある人」には、差が認められたんですよ。

学生の多くは「コミュ力(りょく)がある」というと、「ノリがいい」とか、「すぐ友達になれる」ことだと思っていました。しかし企業は、必ずしもそれらを求めていませんでした。企業が求めていた「コミュニケーション力」とは、たとえば「チームで働く上で自分の役割を明確に理解し協力ができる」とか、「他者の話を傾聴しニーズを掴み取ることができる」などだったのです。つまり、場面に応じて必要なことを読み取れる力なんです。

——コミュニケーションに対する捉え方がそもそも違うんですね。

矢野:そうですね。そこで食い違いが生じてしまうため、学生時代の感覚のまま「自分はコミュ力がある!」と思っている人は、社会人になるとどこまでも軽くなっていってしまう。結果、宴会部長みたいになってしまうんです。
一方で、本当は「全体を俯瞰する力」など企業が求める力を持っているにもかかわらず「自分は(控えめな性格だから)コミュニケーション能力がない」と思い込んでいる人もいます。「パソコンしか相手にしないコミュ力が不要な仕事を選びました」と卑下してしまうのはもったいないことです。

つまり、得意ではないのに暴走しているか、本来得意なことを気がつかずに逃げているかという二極分化が起きているとも言えるでしょう。
こうした誤解を防ぐには、自分の業界や会社で通用するコミュニケーション能力とは具体的にはどんな内容なのか、一度上司や先輩に率直に聞いてみることをおすすめします。あなたの可能性が広がるかもしれませんよ。

「入社何年目か」は関係ない。プロとしての“けじめ”を持とう

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▲社会人何年目でも、プロ意識を持って仕事しましょう

——「自分の職場で本当に求められているコミュニケーション力は何か」を把握するべきなんですね。
最近は若手社員でも経営層やクライアントがいる場でプレゼンをする機会が増えています。でも、同席したミドル層が若手の言い方や態度を注意すると「教わっていない」と返されてしまうこともあるとか。ミドル層も部下のコミュニケーション力を養成するのに苦慮しているようです。

矢野:若手社員がプレゼンをするときは、教わった、教わっていない、という以前に、「聞き手にはあなたが何年目でも関係ない」と思っていただきたいですね。
以前、こんなことがありました。ある番組の収録打ち合わせでディレクターさんから開口一番「私、今日初めて1人で担当するんですよ!」と言われたんです(笑)。

——本人は親しみを込めてコミュニケーションしているつもりなんですね。

矢野:はい。とても初々しくて可愛らしい女性でした。プライベートであれば好印象でしょう。しかし仕事として考えると、そのような情報はやはり不安になってしまいますよね。厳しく申し上げれば、仕事をする前から「言い訳をしている」と捉えられてしまう危険性もあるんですよ。

——「初めてだから、失敗しても許して」という。

矢野:はい。上司も、まだ1人で担当させられないという能力であれば任せないはずです。ですから、たとえ若手社員であっても自信を持ってほしいのです。いろいろ言い訳をすることは、任せてくれた上司に対しても失礼にあたります。
もちろん、社内や身内の間では、いくらでも「緊張します」などと言っても構いません。しかし、社外の方には言わない。外部の人から見て自分はどういう肩書の人間に見えているのかをちゃんと意識して、切り替えることが大切です。何年目であろうと、それが「プロのけじめ」です。

——先程の「学生と社会人のコミュニケーションは違う」というお話に繋がります。

キーワードは「再現性」。常に安定した結果を出すのがプロ

——最近では働き方そのものも、雇用からフリーランスへと多様化しています。若手社員世代で組織に学べないフリーランスの人はどうしたらいいでしょう。

矢野:今後はフリーランスなど、新しい働き方をする方がますます増えていくでしょう。「組織」に学べない時は「過去」、つまり「歴史」に学べばいいのではないでしょうか。
たとえばフリーライターなら、過去の小説やエッセイなど自分が気に入った文章があった時に「なんでこの文章は感動するのかな」と分析・体系化する。歴史上の名作、名言といわれるものを研究するのです。名文の組み立てを考えると自分も同じように書けるようになる「再現性」が高まります。

これはどんな職業でもいえることです。ビジネスにおいては、再現性がないと結果が安定しません。結果が安定しないものは「趣味」に過ぎません。どんな状況においてでも、平均かそれ以上の成果を出すのが「プロ」なんです。

——その中で、「大人の伝え方」は、社会人としての安定をもたらすスキルなんですね。

矢野:そうですね。結果として、「○○さんだったら任せられる」「やってくれる」と、周りから信頼されるということです。

今日から使いたい!「大人の伝え方」の極意7!

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▲心理学をベースとしたコミュニケーションをとっていきましょう

——それではここから、若手社員が身につけるべきコミュニケーション、「大人の伝え方」の極意を教えてください。

矢野:まずは、コミュニケーションの基本である「暗示」について知ってください。マナーや言葉遣いが少し崩れていても「なんか感じの良い人だな」「また会いたいな」と思わせる人がいます。
一方、敬語や姿勢、名刺交換の方法などしっかりマナーを守っていても「もうこれっきり」という人もいます。
この差を生んでいるのが、心理学でいう「暗示」なのです。

[伝え方①]
基本となるのは「暗示」

心理学では、言葉や表情、仕草などが相手の無意識に伝わり、その後の人間関係に影響することがわかっています。

たとえば「箸の持ち方」。以前、テレビのある情報番組で「交際相手の箸の持ち方がおかしいと気づいたら、付き合いを考え直す」という意見が多いということが紹介されていました。
なぜかというと、箸の持ち方がおかしいという行動から「この人はきちんとした躾(しつけ)をうけていない」「親がきちんとした人じゃない」「そういう家庭の人と結婚していいのか?」などと連想するからですね。これも「暗示」の一種です。

この「暗示」における「言葉遣い」バージョンが、挨拶や敬語です。敬語や言葉遣いがおかしいと「この人に仕事を任せて大丈夫?」と不安になるわけです。ですから、ひと言ひと言、1文字1文字、言葉遣いを気をつけようね、となるわけです。

バーバルコミュニケーションとノンバーバルコミュニケーションに一貫性を!

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▲バーバル(言語・右)とノンバーバル(態度・左)の不一致は、信頼をなくすことの原因になります

矢野:メールではきちんとした文章だったのに、会ってみるとダメダメだったり、LINEではとてもフレンドリーだったのに、会ってみたらそっけなかったり。
そういった行動では、「この人、どっちが本当なの?」と信頼を失ってしまいます。心理学でいう「ダブルバインド」の一種です。言っていること(バーバル)と態度(ノンバーバル)が一致するように気をつけましょう。大切なのは一貫性です。

[伝え方②]
ノンバーバルコミュニケーションの真髄は「なんか、感じがいい」

ノンバーバルコミュニケーション(態度)は声のトーンや速度、イントネーション、話す時の表情、立ち居ふるまいのことです。これらの違いによって、「なんかこの人感じいいよね」と思われます。相手の無意識に語りかける「なんか」の部分にあたります。ぜひ意識してみましょう。

[伝え方③]
相手の話を聞くときは「アイブローフラッシュ」

アイブローとは「眉」のこと。ヒトの表情で最も感情が表れるのは眉であることがわかっています。眉(アイブロー)を一瞬上げてすぐ戻す(フラッシュ/閃光)という動きです。誰かの話をきくときは眉を意識してみましょう。しっかりと自分の話を聞いてくれている、と相手が感じます。

[伝え方④]
「パーソナルスペース」を広げることも意識

「パーソナルスペース」とは、「他人に近づかれると不快に感じる空間」のことです。心理学では、より近く、より多く会った人に好感を持つという「単純接触効果」の法則があります。
しかし、ビジネスの場などでせっかく会っていても、相手との間にノートパソコンなどを広げていては自分と相手の距離をそこで遮断してしまうことに。パソコンは、正面ではなく自分の少し斜め前に置いて、相手との間に何もない空間を確保しましょう。

ひらがな1字で伝わり方は変わる。信頼される言葉遣いを習得しよう

[伝え方⑤]
的確な日本語を使ったコミュニケーションを

たとえば、「コーヒー“が”いいです」と「コーヒー“で”いいです」ではどちらのほうがより積極性を感じるでしょう?
たったひらがな1字でも、伝わるニュアンスは大きく変わります。その場にふさわしい日本語を話せると、それだけ信頼できる大人であることが相手に伝わります。

[伝え方⑥]
質問するときは「クローズドクエスチョン」

若手社員であれば、仕事上でわからないことも多いことでしょう。そんな時は「どうしたらいいですか?」ではなく「こうしておけばいいですか?」と具体案を出した上で、周囲に質問するようにしましょう。
前者は「オープンクエスチョン」、後者は「クローズドクエスチョン」と言います。前者だと頼りない指示待ち人間に見えてしまいますよ。後者だと積極さをアピールできます。

友達になるのが目的ではない。「自己開示」と「自己呈示」の違いを知ろう

[伝え方⑦]
「自己開示」は学生のコミュニケーション。「自己呈示」で目的に沿ったコミュニケーションを

さきほど学生と社会人のコミュニケーション力の違いについてお話しましたそこで気をつけていただきたいのが「自己開示」と「自己呈示」の使い分けです。
「自己開示」とは自分自身に関する事柄をすべて話すことです。親密さが深まり相手との距離も縮まりますが、ビジネスの場では不要なときもあります。
たとえば商談中に、自分の彼女の話をしても、取引先にとっては興味がないどころか「時間の無駄」になってしまうからです。

そこで、意識していただきたいのが「自己呈示」。英語では「Self-presentation/セルフプレゼンテーション」といい、他者が持つ自己の印象を統制しようとすることです。つまり、目的によって狙った部分を自己開示する行為です。たとえば高齢者のお客様が多い場合に、「私の祖父母も●●で…」と話せばジェネレーションギャップを埋められるかもしれません。
その場で「公」の自分は相手からどう見えているのか、目的は何かを考えて、「自己呈示」できるようになれるといいですね。

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矢野香さんはインタビューでも著書でも、「一挙手一投足、意図を持って話す」「コミュニケーションに一貫性を持つ」と、繰り返し述べています。人間関係をより良く築き、維持するためには、正しい「伝え方」が必要ということなのです。
ちょっとした言葉の使い方で損をしている方や、自分は大人しくてコミュニケーション能力が無いのではないかと悩んでいる方も、遅くはありません。矢野さんから学んだ「伝え方」の極意を、まずは身近な方に実践してみては?

取材・文/吉田知未、撮影/千々岩友美、イラスト/大津まやな、編集プロデュース/藤田 薫(ランサーズ)

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