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インサイトレポート

一緒に世界を変えよう――4年間で70件以上の協業を生み出した富士通のアクセラレータプログラムが重視する「事業マッチング」と「対等なパートナーシップ」

2019.10.29

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社会の変化のスピードが激しい昨今、大手企業であっても既存の事業やブランドの延長線上で勝負するだけでは、成長が望めないどころか衰退も危惧される状況。そうした中、多くの企業で新規事業に乗り出す動きが活発になっています。
新規事業開発の施策の一つとして増えているのが「アクセラレータプログラム」。オープンイノベーションの推進を目的に、スタートアップなどの新興企業に対して協業・出資を呼びかけ、募集を行うものです。

今回注目するのは『FUJITSU ACCELERATOR』。富士通では以前からスタートアップと手を結び新規事業創出に取り組んできましたが、2015年より本格的なアクセラレータプログラムをスタートしました。これまでに7回のプログラムを実施し、協業検討は120件以上、協業実績は70件以上に上ります。

プログラムの設計において大切にしていること、壁の乗り越え方、協業の効果などについて、代表の浮田博文さん、事務局メンバーであり「イノベーション鈴木」というニックネームで呼ばれる鈴木智裕さんにお話を伺いました。

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▲左:浮田さん、右:鈴木さん

富士通株式会社 FUJITSU ACCELERATOR代表 浮田博文(うきた・ひろふみ)さん
富士通のクラウドビジネスの立ち上げメンバーとして日本を含む世界8拠点への展開を実現。新規ビジネス創成の仕組み作りにも取り組み、TechShop東京の設立にも貢献。2019年4月にFUJITSU ACCELERATOR代表就任。

富士通株式会社 FUJITSU ACCELERATOR事務局 鈴木智裕(すずき・ともひろ)さん
2018年3月よりFUJITSU ACCELERATORに参画。360度画像を使ったインタラクティブなバナー広告“360度バナー広告”をオープンイノベーションにて開発し、 複写機メーカーであるリコーの広告事業への参入を実現させた実績を持つ。

出会いを協業へつなげるため、初期段階からキーパーソンを巻き込む

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―― 昨今、アクセラレータプログラムを実施する企業が増えています。御社ではどのようなコンセプトで運営されているのですか?

浮田博文さん(以下、浮田):我々はFUJITSU ACCELERATORの目的を明確に設定しています。「富士通の事業部門とスタートアップを掛け合わせ、世の中に新たな価値を提供する事業を創り出す」――そこにフォーカスしています。「支援する」というスタンスではなく、我々とスタートアップは「対等なパートナー」であり、そして、「いかに事業部門を巻き込むか」を重視して活動しています。

鈴木智裕さん(以下、鈴木):大手企業のアクセラレータプログラムには、「あるある失敗パターン」が大きく4つ存在すると考えています。

●何を実現したいか、目的を明確にしないままスタートする
●急に指名されたイノベーション担当者がとりあえずイベントを開催するが、その後の進め方がわからない
●事業部門がスタートアップ企業とつながりたがるも、検討プロセスが後回しになり、事業化まで進まない
●スタートアップ企業に対し、自分たちは「支援する側」と捉えてしまい、 上から目線でダメだしや評価ばかりし始める

これでは、せっかく応募してくれたスタートアップ企業に時間を浪費させてしまったり、負担をかけてしまったりする。その結果、「大企業のイノベーションごっこ」と揶揄されることになりかねません。このような失敗を招くことのないよう、肝に銘じていますね。

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―― 事業部門を巻き込むために、どのようにプログラムを設計されているのでしょうか?

浮田:まず、スタートアップとの協業・事業化に本気で取り組みたい富士通グループ内の事業部門のみが参加し、決裁者が全フェーズに主体的に参画するスタイルを取っています。
実はプログラム1期の頃は、事務局メンバーが応募頂いたスタートアップの方々と一緒に事業部門回りをしていたんです。マネージャークラスを対象に「この技術、いかがでしょうか」と声をかけ、打ち合わせを重ねていました。けれどそれでは時間がかかるし、決裁者までたどり着けないことも。そこで、ピッチコンテスト形式に移行し、各事業部門の決裁者に最短でアプローチできるようにしました。

直近に行われた7期プログラムでは富士通グループ内の23事業部門が参画しましたが、ピッチコンテスト前の書類選考の段階から、各事業部門の決裁者が書類すべてに目を通します。そして、ピッチコンテストでの各社のプレゼンテーション、協業検討の面談の場にも決裁者が出席し、協業検討フェーズに入るかどうかのジャッジを行います。

また、先ほど触れた「あるある失敗パターン」の一つに、「本業が多忙で、検討が後回しになる」ということを挙げましたが、それを防ぐために協業を検討する期間を「約4ヵ月」と定めています。

鈴木:このほか、富士通アクセラレータプログラムの特色として、「スタートアップ側が成果が出ないと判断したら、すぐに止められる」というルールも設けています。スタートアップ側から大手企業側に対しては、協業解除を申し出にくいもの。しかし、そこは「対等」であるべきだと思いますから。

そして、協業契約の際、「首都圏への移動」が条件とされるケースも多いのですが、我々のプログラムでは地方から遠隔での協業も可としています。そのため、海外のスタートアップからの応募も多く、全体の約3割が海外からです。

「参加したいが、行動に移せない」状況を、サポートチームが支援・伴走

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―― アクセラレータプログラムを運用していく上で、苦労する場面や壁にぶつかる場面はありますか?それをどう乗り越えていますか?

鈴木:プログラムに参画表明する事業部門は協業に対して本気なんですが、組織事情によっては行動に移しづらいこともあります。そんな場合は、彼らが動きやすいよう、より上位層のキーパーソンに働きかけます。プログラムの意義、そして協業成果が売上に結びついている実績を伝えています。とにかく、多くの人を巻き込むことが重要ですね。

浮田:私は2019年4月からFUJITSU ACCELERATORの代表に就任しましたが、その前は事業部門に所属していて、アクセラレータプログラムを通して協業先を探す立場にいました。そのとき、さまざまな課題を経験したので、それを払しょくするような対策を取っています。

例えば、事業部門にとっては直近の売上が重要なので、長期間を要する協業活動にはリソースを割きにくいですよね。そこで、人的側面では、アクセラレータプログラム専任のサポートチームのメンバーが活動に伴走します。事業部門側の人的リソースの不足を補い、また、事業部門とスタートアップの文化や価値観のギャップを埋めるように働いています。
もう一つは費用面です。「スタートアップと協業したいが、今年度は予算が組めない」といった場合、会社として資金面の支援を行える体制を整えています。

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―― 浮田さんは、どのような想いを持ってFUJITSU ACCELERATOR代表に就任されたのですか?

浮田:実は私は学生時代、スタートアップに入社しようとしていたんです。「新しいことにチャレンジできる」という憧れを抱いていて。新しいテクノロジーを用いたサービスを展開しているスタートアップから内定をいただいたのですが、親から大反対を受けてあきらめてしまいました。
しかし、幸い富士通に入社して数々の新規事業創出を手がけることができた。今、その経験を活かしてスタートアップと一緒に成長していく事業に関われるのはうれしいですね。

スタートアップの創業者や創業メンバーには、個性的な方々、熱い想いを持った方がたくさんいらっしゃいます。彼らの想いに応えるためには、こちらも相当のエネルギーを持って向き合わなければならない。「世の中に新しい価値を提供するために、一緒に頑張ろう」と、心を一つにしてチャレンジに向かえるのが、この仕事の魅力だと感じています。

―― 協業の成果はいかがでしょうか?

鈴木:4年間で7回のプログラムを実施した結果、協業検討は120件以上、協業実績は70件以上に達しています。
私が担当した事例としては株式会社ヒトクセ(https://hitokuse.com/)さんとの協業があります。同社の強みは、ネットユーザーがWebサイトを閲覧する際、スクロール操作やタップ位置などからページ内のどのあたりを見ているかを判断する「視線推測技術」。この技術を活用すれば、よりユーザーの興味関心に近い広告を表示したり、ページの中でより訴求力の高いコンテンツを分析したりすることが可能になります。
そんなヒトクセさんと協業したのは、デジタルマーケティング領域を得意とする「富士通総研」です。スマホの操作情報を使ってコンテンツ内の興味箇所の検知する技術を、ヒトクセさんと共同開発。最新技術を活用した興味ログ分析により、広告の訴求力・効率を向上させるサービスを展開するに至りました。

―― スタートアップと協業する意義はどのようなところでしょうか?

鈴木:スタートアップの素晴らしさは、特定領域に関して高度な知見とテクノロジーを持っていること、そしてスピードの速さ。ヒトクセさんとの協業では、PoC(概念実証)を経て開発に移ったとき、わずか3ヵ月ほどでアウトプットが出てきたのには驚きました。スタートアップと協業していく中で、このスピード感こそが刺激的であり、面白い部分だと感じます。

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お互いの「軸」と「想い」が掛け合わされたとき、新しい価値が生まれる

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―― 大手企業などに所属し、これからスタートアップとの協業に取り組もうとしている方も多いかと思います。そんな方々にアドバイスをお願いします。

浮田:大手企業は幅広い事業を展開しているだけに、「自分たちは何でもできる」と考えがちなところがあると思います。けれど、スタートアップと組む際には、何かしらの強みにフォーカスするべきです。軸足をしっかり持って付き合わないと、表面的な関係で終わってしまう可能性が高くなります。スタートアップの軸と自分たちの軸、それが明確であってこそ、歯車がかみ合って進んでいくと思います。

鈴木:加えて、「想い」も重要だと思いますね。「このスタートアップと一緒にやりたい」「このプロダクトを絶対に世に出したい」という、強い想い。新しいものを生み出そうとすると困難を伴いますが、困難を乗り切れるのは想いがあるからから。技術やビジネスの親和性などだけで手を組むのではなく、そのスタートアップに想いを乗せられるかを考えたほうがいいと思います。

―― アクセラレータプログラムに応募しようとしているスタートアップ企業に対しては、アドバイスやメッセージはございますか。

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鈴木:FUJITSU ACCELERATORに応募してくださる方々に対しては、「富士通から仕事をもらう」という期待ではなく、「富士通と組むことで成長したい」というスタンスで来ていただきたいと思います。もちろん、富士通に迎合してくれることも望みません。「対等な関係で、一緒にビジネスを創っていこう」「一緒に世界を変えよう」と伝えたいです。

浮田:我々のプログラムでは、どんなテーマを求めているか、細かく提示しています。それをもとに、協業のイメージを持って臨んでいただきたいですね。「こんな技術やアイデアを持っているが、何かに使えないか」ではなく、「この技術やアイデアを活用すれば、富士通とこんなことができるのではないか」という仮説を立てていただけると、こちらもイメージを膨らませやすく、協業検討がスムーズに進むと思います。

―― お二方のアドバイスは、御社に限らず、他のアクセラレータプログラムへの応募を検討している方々にも共通する、大切な視点だと思います。最後に、FUJITSU ACCELERATORとしての今後の課題、取り組みについてお聞かせください。

鈴木:これまでの協業事例について、うまくいっているもの、そうでないものなど、進捗状況を細かく把握し、ナレッジとしての文書化を進めています。うまくいっていない点については対策を練っていきます。
また、協業プロセスで得たノウハウやナレッジは、ともすると一事業部門の特定個人に偏ってしまいがちになるため、横展開できるように社内コミュニティ作りにも着手しました。スタートアップ協業の経験者による成功例・失敗例の情報共有会を定期開催しています。

浮田:プログラムは常に改善を続けていきます。そのため、運営チームとしてもワークショップを開いて、検討をしています。
チームメンバーも増えたので、「事業化に向けて我々が大切にすべきこと」を伝えようとキーワードを書き出したら、偶然にも「事業化」の「J」が付くものが多く、10の「J」が出揃いました。

「軸足」(自分の得意領域を明確に)
「事実」(現場・現実・現物を大切に)
「常識」(常識を疑う目を忘れない)
「熟考」(高い視点で構想を練る)
「迅速」(素早く動く、反応する)
「柔軟」(臨機応変に、変化を恐れず)
「実現」(一人の限界を知り、協力を得る)
「実績」(プロ意識を持ち、結果を残す)
「地道」(地に足をつけて謙虚にコツコツと)
「情熱」(最後までやり遂げる熱い思い)

この10の「J」を忘れずにプログラムの運用と改善を進め、スタートアップから選ばれる企業でありたいと思います。

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FUJITSU ACCELERATOR

取材・文/青木典子、撮影/大西知宏、編集/角田尭史(リスナーズ株式会社)

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