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テクノロジーで人事を進化させるために、日本企業が乗り越えるべき壁とは? HRTechベンチャー社長インタビュー【前編】

2019.12.13

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▲左/石原史章さん 右/竹下百里

人事の業務や施策に最新テクノロジーを活用する「HRTech」領域が活発化。さまざまなツールやサービスが登場しています。日本企業の人事・組織マネジメントは、HRTechによってどう変化していくのでしょうか。

今回は、従業員体験(Employee Experience)を効率的に高めるプラットフォーム「BetterEngage」を展開する株式会社BtoAの代表取締役CEO・石原史章さんをゲストにお招きしました。
ワークスイッチコンサルティングの人事コンサルタント・竹下百里が聞き手となり、アメリカで開催されたHRTechフォーラムに参加しての感想、日本企業のHRTech活用の展望について(記事前編)と、石原さんご自身の創業~現在に至るプロセスなど(記事後編)について語っていただきました。

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話し手:石原史章さん
株式会社BtoA(https://www.btoa-company.co.jp/)代表取締役CEO。
2015年にBtoAを創業し、エンプロイー・エクスペリエンス・プラットフォームである「BetterEngage(https://betterengagee.com/)」を提供。People AnalyticsやHR Transformationなど国内外の人事トレンドや事例に精通。

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聞き手:竹下百里
パーソルプロセス&テクノロジー株式会社 ワークスイッチコンサルティング 人事コンサルタント。
2006年新卒入社後、OS部門に配属。ITILを用いたシステム運用改善や電子書籍案件の企画運営等、複数プロジェクトのリーダーを経て、2013年現ワークスイッチコンサルティングへ異動。人事領域に特化したパッケージ製品やクラウドサービスを活用したソリューションを提供。2017年より人事コンサルティング部門の責任者として着任し現在に至る。

HRTechで、将来、どんな人事マネジメントが実現するのか

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2019年10月1日~4日、HRテクノロジーをテーマとした世界最大級のイベント「HR Technology Conference&Expo 2019」がアメリカ・ラスベガスで開催されました。
22年目を迎えた同イベントでは、450以上の出展企業が製品デモを行うほか、HRTech領域の著名人などのセミナー・セッションも実施されました。
このイベントを視察したBtoA代表取締役CEO・石原史章さんに、同じくこのイベントを体験したワークスイッチコンサルティングの人事コンサルタント・竹下百里が、その所感と日本のHRTechの展望についてお聞きしました。

ワークスイッチコンサルティング 人事コンサルタント 竹下百里(以下、竹下):イベントに参加されて、HR領域に関するグローバルと日本の課題認識の違い、あるいは共通点をどうご覧になりましたか?

BtoA 代表取締役CEO 石原史章さん(以下、石原):アメリカで開催されたイベントだけに、ダイバーシティ(多様性)推進や、無意識なバイアスや賃金格差といった課題が注目されていました。とはいえ、日本との共通課題も結構多いと感じましたね。例えば「採用難」「リーダーシップ」「エンゲージメント」といったものです。いい人材を採用するために、いかに企業の採用ブランドを高めるかという課題感はアメリカでも強い印象でした。

竹下:「システムで解決できないことを従業員との信頼関係でカバーする」といったテーマも多く取り上げられていましたよね。石原さんが注目した仕組みや技術で、「日本にも導入されるといいな」と思ったものはありましたか。

石原:HRTechはマーケティングテクノロジーから3年ほど遅れていると思いますが、マーケティング領域で実現されたものは、HR領域でも実現しつつあります。
例えば「レコメンド(勧める)」のシステム。ショッピングサイトを利用すると、閲覧履歴や購入履歴をもとにそのユーザーが興味を持ちそうな商品が表示されますが、同様の機能が企業向けのe-ラーニングやマネジメント等のシステムにも搭載されています。つまり、上司と部下の1on1面談により「3年後にこのポジションを目指すなら、現在・1年後・2年後にこんなスキルを身に付けなければならない」という育成方針が決まれば、そのタイミングごとに学ぶべきプログラムをレコメンドしてくれる、と。
さらにそれが、以前であればe-ラーニングシステムにログインしなければならなかったのが、Slackなどのコミュニケーションツールと連携し、社員が日常使うシステムでレコメンドされるようになっています。
例えば従業員が朝出社してSlackを開くと、Google カレンダーとの連携により、「この移動時間中に10分で閲覧できる営業スキルアップ動画」などがレコメンドされたりします。

あとは、従業員のサーベイデータとその上司の性格診断をもとに、上司に対して「このメンバーは最近モチベーションが下がっているので、こんな声がけをしてみてはどうか」というレコメンドがされるとか。こういったシステムは実現されつつあり、いずれ日本企業にも導入が進んでいくでしょう。

竹下:組織の目標や従業員の志向性・経験を解析して、従業員一人ひとりに対し「こういうことをしたほうがいい」とサジェストしていく。そんなシステムがこれから拡大していきそうですね。

石原:日本のHRTechは今のところ業務効率化が主流だけど、USではAIがビルトインされていて、そのデータを活用してコミュニケーションや育成につなげる仕組みの導入が進んでいる。それを実感しました。

HRTechで人事を進化させるために、日本企業が乗り越えるべき壁とは?

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竹下:日本ではまだまだ「データを蓄積する」という段階に至っていないので、まずはそこからですね。
日本のHRTechが進化していくために、障壁や課題となることは何だと思われますか?

石原:まず「データばらばら問題」の解消が大きな課題ですね。「履歴書は紙やPDFで管理」「人事評価はExcelで管理」…といったように、ばらばらで管理されているデータを1ヵ所にまとめなければならない。それと、ばらばらになっている表記の統一。従業員氏名のデータで全角・半角表記が混在していたり、同じことを指すのに複数のワードを使っていたりするのを統一する必要があります。こうして、データの参照や解析がしやすい状態にするのがファーストステップかな、と思います。

竹下:USでは業務の標準化やシステム活用が進んでいることもあり、データをシンプルに蓄積することができているように思います。一方、日本はカスタマイズ文化なので、ベンダーもそれぞれの企業の業務に合わせてシステムをカスタマイズ提供するし、企業はいろいろなシステムを組み合わせて運用を行ったり、データを手で加工したりもしている。それがデータの蓄積を阻んでいるように思うので、ベースの環境をつくることが先決ですね。石原さんの会社がプラットフォームの無料提供を行うのも、そんな環境整備を目指してのことですよね。

石原:今後のシステムは基本設計がガラリと変わると思っています。企業のニーズとしては、職種や雇用形態などに合わせて、「勤怠システムはこれ」「営業の評価システムはこれ」「エンジニアの評価システムはこれ」と、それぞれに最適なツールを使いたい。
USでは、企業がシステムやデータベースを構築する際、特定のベンダーやアーキテクチャーにこだわらず分野ごとに最適な製品を選定して組み合わせることを「ベスト・オブ・ブリード」と呼びますが、日本でもその発想になっていくだろうと思います。

例えば、iPhoneにさまざまなアプリをインストールして使うのと同じ仕組みがHR領域にも来るはず。中央に大きなデータベースとインターフェースがあり、その上で動くアプリケーションを自社に合わせてベスト・オブ・ブリードの思想で導入する、というスタイルになっていくのではないでしょうか。そのようなワンプラットフォーム型のシステム設計になるべきだし、必ずなっていくだろうと思っています。
人事としても、いろんなツールを穴埋め的に入れるのではなく、「3年後に従業員にどんなサービスを提供したいか」という青写真を描いた上でツールの導入を検討していただきたいと思いますね。

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竹下:そもそもなぜツールがばらばらでデータがうまく蓄積されてこなかったかというと、人事の役割意識にも原因があるように思います。今までは、労務管理や採用業務中心で「人と向き合うこと」に重きが置かれていました。経理・財務などは数値データを分析して、経営戦略に活かすわけですが、昨今は人事にもそうした役割が求められるようになってきました。「戦略人事」という言葉が広がりつつありますが、労働人口減少や採用難に直面した今、さまざまなデータを活かして事業成長の観点で、人や組織のパフォーマンスを上げていかなければならない。そんな「経営目線」が必要になっていると思います。

石原:「ピープルアナリティクス」と呼ばれる、社員や組織に関するデータを収集・分析し、組織づくりに活かす手法が注目されています。その事例は、さかのぼると1900年代初頭にあるんですよね。自動車メーカー「フォード」のヘンリー・フォード氏が、Model T車の製造生産性を高める目的で、フレドリック・ウィンズロー・テイラー氏と連携し、科学的管理法を導入しました。製造ラインでの従業員の仕事の仕方を観察・解析し、改善を行い続けた結果、1台の新車の製造にかかる時間を93分にまで短縮しました。その過程の中で、生産性を鑑みて、当時当たり前とされていた9時間労働を、もっとも生産性が高いのが「8時間労働」だと判断し、定着させました。だから、ピープルアナリティクスというのは、実は目新しいことでも何でもない。歴史上でも、人にまつわるデータをもとに戦略に寄与してきているんです。

テクノロジーが進化した今、人事は「経営課題」を見据え、経営戦略実現のために人事関連データを活用していく役割が求められている。だから、データ収集・分析の前に、まず「課題設計」が重要なんだと思います。5年後・10年後、会社はどうなっていたいのか、そのために今、人事がやらなければならないことは何なのか、を考えるということですね。例えば「売上を上げる」という目標に対し、「ハイパフォーマー比率を高める」のか「エンゲージメントを高める」のか、その会社にとって効果的な施策は異なりますから。

竹下:企業の事業成長のために、今いる社員がどんな経験・能力を持っているのか、今後どんな人材が必要なのかを正しく把握する必要がありますが、それができていない企業が多いと感じます。HRTechは適切な人材管理、採用設計を行うための手助けになるものだと思います。

【後編】に続きます。後編では石原さんの創業~現在に至るプロセスを伺います。

関連リンク
株式会社BtoA
BetterEngage

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インタビュー/竹下百里、文/青木典子、編集/高島優季、撮影/渡辺健太郎

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