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海外旅行者から熱い視線を集める音声翻訳機「ili(イリー)」。
コミュニケーションがテーマという、スタートアップならではの商品開発とは

2018.10.05

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国内で今後成長が期待されている産業のひとつが、旅行業界。特に訪日外国人旅行者数は2013年に1000万人を越え2017年には約2900万人に達するなど、4年間で約3倍に増加する急成長を遂げています。そのため一般的な小売店や飲食店など直接旅行に関わる業種以外にも、訪日客の経済効果が波及している状態です。

ここでネックとなっているのが、コミュニケーション。言葉の違いがハードルとなって、せっかくの商機を逃してしまうことも。そこで注目を集めているのが音声翻訳機です。
2018年9月末に東京で開催された旅行業界の展示会「ツーリズムEXPOジャパン 2018」でも、複数のメーカーやサービス会社が音声翻訳機を展示していました。

▲ツーリズムEXPOジャパン 2018ではログバーのiliも出展

▲ツーリズムEXPOジャパン 2018ではログバーのiliも出展

スタートアップベンチャーである株式会社ログバーから発売されている「ili(イリー)シリーズ」も、そんな音声翻訳機のうちのひとつ。ただしほかの音声翻訳機とは少し違った機能や性能のアプローチで人気となっているデバイスです。

▲左がビジネス向けの「ili Pro」で右がコンシューマー向けの「ili」

▲左がビジネス向けの「ili Pro」で右がコンシューマー向けの「ili」

「オフライン」「ボタン1つ」「1方向」従来の翻訳機とは正反対のスペックを備えたili

現在「iliシリーズ」は、一般消費者が購入できるコンシューマー向けの「ili」と、小売店や飲食店などの接客用にカスタマイズされたビジネス向けの「ili Pro」がラインアップされています。どちらのモデルもほかの音声翻訳機と大きく違ういちばんのポイントは「オフライン」で利用できること。一般的な音声翻訳機はインターネットへの接続が必要。そのため飛行機の中や電波の届かない地下などでは使えないというケースもありますが、iliシリーズはいつでもどこでも利用可能です。

▲インバウンド向けに接客業などで活用できる

▲インバウンド向けに接客業などで活用できる

さらに、端末本体単体で翻訳作業を行っているので、インターネット接続が必要なほかの端末よりもレスポンスが早く、使い勝手が良いのも特徴となっています。

▲公式サイトでは草彅剛さんを使ったiliのアピールが展開されている

▲公式サイトでは草彅剛さんを使ったiliのアピールが展開されている

使い方も簡単で、スティック型の本体を持って前面の大きなボタンを押しながら日本語で話しかけて、話し終わったらボタンを放すだけ。すぐに外国語に翻訳された音声が出力されます。ほかの音声翻訳機のように双方向での翻訳はできず、コンシューマー向けのiliの場合、翻訳対応する言語は英語と中国語と韓国語の3ヵ国語が日本語から翻訳可能です。外国語から日本語への翻訳はiliでは非対応ですが、ili Proは可能。ただし対応言語は英語と中国語と韓国語の3ヵ国語という点と双方向の翻訳機能はないことは変わりません。


▲翻訳のレスポンスが速いのがポイント 言語切り替えもボタン操作でカンタン

そのほかコンシューマー向けのiliは翻訳エンジンを旅行に向けたカスタマイズがなされており、日本人が海外渡航時に使うように最適化されています。一方ili Proは、よく使うフレーズを保存しておくショートカット機能や日本のどこで使うか地域を設定することで、固有名詞などの翻訳精度をアップする機能を装備しています。

▲ショートカット機能などili Proには独自機能も搭載

▲ショートカット機能などili Proには独自機能も搭載

社内の反対を押し切って作ったログバーのCEO 吉田さんが語るiliシリーズの狙い

このようにほかの音声翻訳機とは違ったアプローチの機能や性能となっている「iliシリーズ」ですが、その狙いはなんなのか。発売元であるログバーのCEO 吉田卓郎(よしだ・たくろう)さんに、お話を伺いました。

▲ログバーのCEO 吉田卓郎氏

▲ログバーのCEO 吉田卓郎氏

ログバーは2013年に設立したスタートアップ企業。吉田さんは大学時代に海外に長く滞在していた期間がありました。そのため「設立当初から人と人とがつながるコミュニケーションをテーマとしたサービスや製品がテーマでした。社名にバーと入っているように、最初はソーシャルバーみたいなものが提供できないかと」会社のスタートについて説明。実際に2013年のiPhone発売日に、渋谷のAppleストアにiPhone購入のため並んでいる人たちに向けて、タブレットを渡してドリンクを提供したり、タブレットを通じてお店の中にいる他のお客様とコミュニケーションがとれるサービスを行っています。

次に吉田さんが取り組んだのが指輪型デバイスの「Ring」。指にはめて空中にジェスチャーをすることでスマートフォンを操作してメッセージ送信などができるコミュニケーションデバイスです。サービスやソフトウェアのスタートアップは経験済みだったものの、実際にモノを制作するハードウェアを作る経験が少なく方法がわからなかった吉田さんは、まずビデオを作成しユーザーへとアピール。毎年1月にラスベガスで開催されるCES(Consumer Electronics Show)にも出展します。

吉田さんは「今はRaspberry PiやArduino(※)といった汎用のワンボードのマイコンもあり、ハードウェアの開発自体は知識や技術があればできます。ただそれを製品として世の中に出すには、世間に知ってもらわなければなりません。それにはビデオで自分のやりたいコトを説明するのがいちばん伝わる 」と話しています。実際CESでも「Ring」のプロモーションビデオが大きな評価を受けクラウドファンディングも成立。ハードウェアスタートアップ企業としてログバーも大きく成長していきます。
※Raspberry Pi(ラズベリーパイ)、Arduino(アルドゥイーノ): CPUやメモリ、USBポートなどが一枚の小型基板に組み込まれているハードウェア(マイクロコンピュータ)。世界中でIoT製品の開発などに使用されている。

こういった経験をつんでログバーが開発したのが音声翻訳機の「iliシリーズ」です。海外在住経験もある吉田さんにとって、言葉のハードルを越えてコミュニケーションが円滑に行える音声翻訳機はまさに目指すべきデバイスともいえます。しかし吉田さんはこれまでの音声翻訳機について「いろいろと機能を詰め込みすぎて逆に使いにくくなっている。使い方がわからずまごまごしていると結局恥ずかしくて使わなかったり。もっとシンプルなほうが使ってもらえるのではないか」と、1ボタンで1方向というシンプルな設計になっている背景を説明。

▲スティック型でディスプレーもなくシンプル

▲スティック型でディスプレーもなくシンプル

実際iliの開発中には、社内からも双方向の翻訳機能を搭載したほうがいいという声もあったとのこと。さらに双方向に設計することも可能ではあったが、吉田さんは「実際に自分で使ってみて1方向だけでも十分相手に伝えられる」と判断。機能を豊富にすることでデバイスが使いにくくなるよりも、スムーズなコミュニケーションに比重を置いているわけです。

またインターネット接続が不要なスタンドアローンタイプとして開発したことについても、「Ringを開発してわかったのですが、電波を使うのは難しい」と、これまでの経験から学んだ設計であると語ります。インターネット接続が必要になるとモバイル通信やWi-Fi、さらにスマートフォンと連携させるならBluetoothといった電波での接続が必須となりますが、電波は環境によって大きく左右されるので、いつでもどこでも使えるという利便さはなくなります。また電波を使う場合各国で使用するための認証を取得するのもコストや手間がかかり大変。「iliシリーズに関しては、日本だけでなく世界中で売りたい」とも吉田氏は話しており、手軽に使えかつ世界中に販路を広げるという意味でスタンドアローンは正解という考えのようです。

▲ボタン類も少なく使いやすい

▲ボタン類も少なく使いやすい

ソーシャルバーからはじまり、Ringやiliシリーズとコミュニケーションをテーマにサービスや製品を提供し、日本のスタートアップ企業として大きく注目を集めているログバー。現在はスタッフの約半数が外国人で、カスタマーサポートもベトナムに設置するなどグローバル化も進んでいます。吉田さんはスタートアップについて「すべてはアイディア。極端なアイディアで勝負することが重要」と言います。さらに「尖ったサービスや製品じゃないとブーストできない。それにおもしろいと思ってもらえれば、誰かが助けてくれるので失敗をおそれないでチャレンジすること」が重要とも。

▲ログバーのオフィスでは洋の東西を問わず多くのスタッフが集まっている

▲ログバーのオフィスでは洋の東西を問わず多くのスタッフが集まっている

観光庁はオリンピック・パラリンピックの開催される2020年には訪日外国人の目標を4000万人としています。日本人は英語教育を受けているにもかかわらずしゃべれないと言われてきていますが、「ちゃんとしゃべれないと恥ずかしい」という精神的な障壁も大きいもの。接客業だけでなく、医療関係や各種ボランティアなどあらゆる場面で言葉の障壁があるとその目標は達成できません。その障壁を壊して失敗を恐れずに外国人ともさらに深いコミュニケーションがとれるようになる……シンプルさをポイントにした「iliシリーズ」は、そんな期待が込められたデバイスでした。

 


吉田卓郎
ログバー代表取締役兼CEO。学生の頃にサンフランシスコに1年半ほど在住。アメリカでのスタートアップ体験し、その後も毎年シリコンバレーなどを訪問し、自らのアイディアを売り込んで行く。2013年にソーシャルバーを提供する会社としてログバーをスタート。

ili
スタンドアローンタイプの音声翻訳機。インターネット接続が不要なためいつでもどこでも利用できるのがポイント。日本語から英語、中国語、韓国語への翻訳が可能。販売店やオンライン通販などで購入可能で、価格は1万9800円。ビジネス向けにクラウドサービス、「ili インバウンド」とセットになった「ili Pro」も提供中。
https://iamili.com/ja/

取材・文・撮影/中山 智

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