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ビル・ゲイツが恐れた「パッションを持った学生」が集まる、世界最大規模の学生向けITコンペティション「Imagine Cup 2018」に行ってみた!

2018.08.13

33ヵ国49チームがシアトルのマイクロソフト本社に集まり、コンペが行われた

33ヵ国49チームがシアトルのマイクロソフト本社に集まり、コンペが行われた

マイクロソフトを創業したビル・ゲイツ氏はかつてインタビューで、「大企業は怖くない。怖いのはパッションを持って突き進む学生だ」と答えています。ビル・ゲイツ氏自身が学生時代に起業し、彼の若さと情熱のすべてを注ぎ込んでマイクロソフトを現在のような巨大企業に育て上げただけに、非常に重みのある言葉といえます。

そのビル・ゲイツ氏が、パッションをもった若者たちを飛躍させるために2003年にスタートしたのが、学生向けのITコンテスト「Imagine Cup」(イマジン・カップ)です。今年で16回目となる大会には、世界各国の予選を勝ち抜いてきた33ヵ国49チームが参加。シアトル郊外にあるマイクロソフト本社にて、熱いコンテスト繰り広げられました。

Imagine Cupの特徴は、単純にプログラミングの技術だけを争うのではなく、開発したソリューションがビジネスモデルとして成立しているかなども重要視されること。優勝チームには賞金8万5000ドル(約950万円)があたえられるなど、学生といえどもこのImagine Cupで勝利して、その賞金をもとに実際にビジネス化を狙う学生チームも多く参加しています。

募集要項はその年によって変化しており、以前は組み込みなどハードウェアがメインの部門もありましたが、今年は「世の中にインパクトを与える、革新的でクリエイティブなソリューションやサービス」をテーマに、ビッグデータやAI、AR/MRといった分野を使った作品を募集。さらにマイクロソフトのクラウドサービス「Azure」を使用することが望まれています。近年マイクロソフトはクラウドファーストを旗印としており、WindowsやOfficeだけではなく、ビッグデータやAI、AR/MRに注力していることがここからもわかります。

今回のImagine Cup 2018には、日本から3チームが参加。日本大会もプレゼンこそ日本語で行われましたが、基本的なレギュレーションは本大会と同じ。ソリューションの完成度に加え、マネタイズをどうするかなど厳しい審査を経て選ばれた3チームです。

日本からImagine Cup 2018に参加した3チーム

ezaki-lab(鳥羽商船高等専門学校)
【プロジェクト名: EFFECT】

魚などの養殖場に各種センサーを取り付け、AIによる自動で適切な給餌や魚の健康管理などを行うシステム。

魚の成長具合や天候など、海の状態などさまざまな要因を考慮して自動で給餌を行う

魚の成長具合や天候など、海の状態などさまざまな要因を考慮して自動で給餌を行う

Mediated Ear(東京大学)
【プロジェクト名: Mediated Ear】

人の声を学習することで、補聴器使用時に特定の人の声だけを大きくして聞きやすくするソリューション。

Mediated Earで使われている補聴器。スマートフォンと連携して、特定の人の声だけが聞き取りやすくなる

Mediated Earで使われている補聴器。スマートフォンと連携して、特定の人の声だけが聞き取りやすくなる

Team Emergensor(東京大学)
【プロジェクト名: Emergensor】

スマートフォンの移動情報などをもとに、テロなどの非常事態を検出してユーザーに安全な情報を提供するサービス

Team Emergensorのプレゼン資料。実際にフィリピンで実証実験を行い、その成果を解説

Team Emergensorのプレゼン資料。実際にフィリピンで実証実験を行い、その成果を解説

コンペティションの内容は、実際のビジネスシーンに近い状況で行われます。まず全チームが展示会のようなブースを設営。審査員が各ブースをまわりジャッジしていきます。筆者は海外の展示会を取材する機会も多いですが、まさにスタートアップ起業が展示会に出展している状況と同じ。自分たちの作品を正確にアピールすることはもちろんですが、短い時間でいかに印象を残すかがポイントになっています。

各チームにブースが割り当てられ、自分たちの作品をアピールする。雰囲気はスタートアップ系の展示会そのもの

各チームにブースが割り当てられ、自分たちの作品をアピールする。雰囲気はスタートアップ系の展示会そのもの

全チームの作品をチェックできるのはこのタイミングだけでしたが、全49チームもありすべてを見て回ることは、残念ながらできませんでした。ですが、それぞれレベルが高くお国柄もあって「パッション」を感じる作品ばかり。

気になったのは、第1次産業とITを組み合わせた作品が増えていること。日本のezaki-lab(鳥羽商船高等専門学校)もそうですが、たとえばマレーシアのチームは、パイナップルにかざすだけで糖度などがチェックできる機械を製作。ネパールのチームは、スマートフォンで植物の葉を撮影するだけで、その健康状態チェックできるソリューションなどです。これまで第1次産業は人の経験則が重要視されていた産業ですが、AIやビッグデータの活用により、ITを導入しやすい産業になっていると言えます。

パイナップルの糖度を固い皮を切らなくても計測できるマレーシアチームの計測器

パイナップルの糖度を固い皮を切らなくても計測できるマレーシアチームの計測器

 

ネパールチームは葉っぱの状態をスマホの写真で撮影して、その状態を把握するソリューション

ネパールチームは葉っぱの状態をスマホの写真で撮影して、その状態を把握するソリューション

ブース展示での審査の結果、日本チームのMediated Ear(東京大学)はセミファイナル(準決勝)への進出が決定しました。その後、別途行われた90秒でのプレゼンによるワイルドカード選出チームを加えた18チームによるセミファイナルを実施。セミファイナルはプレゼン形式で各チームが3分間のプレゼンを行い、さらに審査員が3チームごとに10分間の質疑応答を行うというもの。プレゼンや質疑応答の時間はしっかりと計測していて、オーバーした場合はその場で終了と、厳しいです。

プレゼン時間はモニターに表示され時間内に終わらなければ強制終了

プレゼン時間はモニターに表示され時間内に終わらなければ強制終了

このプレゼンも重要なポイントで、各チームともしっかりと練り込んだハイレベルな資料を提示しています。はっきり言って、下手な企業の発表会で使われるプレゼン資料よりも数段上。もちろん質疑応答は英語で行われますが、各国とも質疑応答では想定質問でしっかりとトレーニングをしている様子で、審査員からの質問にスムーズに答えていました。

セミファイナルはプレゼン形式。手前の審査員からの厳しい質問にいかにスムーズに答えられるかがポイント

セミファイナルはプレゼン形式。手前の審査員からの厳しい質問にいかにスムーズに答えられるかがポイント

セミファイナルに進出したMediated Ear(東京大学)も抜群のプレゼンでなんとファイナル(決勝)出場。日本チームがファイナルまで進出するのは2012年に出場した東京工業高等専門学校のチーム以来です。

Mediated Earのソリューションは、補聴器とスマートフォンを連携させたもの。開発のきっかけは、チームメンバーの知り合いが補聴器の利用者で「補聴器はすべての音を大きくしてしまい、音を聞き分けにくい」という欠点を解消したいという思いがあったから。あらかじめスマートフォンで相手の声を読み取って学習しておくことで、いろいろな音が混ざっていても、その人の声だけを抽出してボリュームをあげられるというもの。

声の学習時間は現在1分ほど。一度学習してしまえばアプリに記憶しておけるので、以降は学習の必要はありません。ビジネスモデルとしては、BtoBで補聴器メーカーなどに技術を提供することを想定しているとのこと。

実は数年前までは、Imagine Cupのレギュレーションとして、国連が「ミレニアム開発目標」として掲げる「極度の貧困と飢餓の撲滅」や「幼児死亡率の削減」など8つの課題を解決するというのがありました。現在はこのレギュレーションはありませんが、現在でも「人や社会に役立つ作品」が推奨されています。Mediated Earがファイナルにまで進出できた背景には、身近な社会問題をテクノロジーで解決するという点が評価されたのではないかと思います。

ファイナルに進出したのは、Mediated Ear/日本に加え、各種センサーを搭載したデジタル義手のsmartARM/カナダと、スマートフォンやスマートスピーカーを使い、乳幼児の泣き声が何を欲しているかなどを判定するiCry2Talk/ギリシャの3チーム。

筋肉の動きを技手に伝えて指なども動かせる義手を開発したカナダチーム

筋肉の動きを技手に伝えて指なども動かせる義手を開発したカナダチーム



ギリシャチームは乳幼児の泣き声をスマートスピーカーなどで把握するシステムを開発

ギリシャチームは乳幼児の泣き声をスマートスピーカーなどで把握するシステムを開発


ファイナルにはマイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏も登壇。シアトル市内のホテルに会場を移し、参加全チームが見守るなか審査員の前で再度プレゼンと質疑応答によるコンペが行われました。審査の結果優勝はカナダのsmartARMに。日本のMediated Earは3位。残念ながら優勝とはなりませんでしたが、世界大会での3位は立派な成績です。

ファイナルでプレゼンを行うファイナルでプレゼンを行うMediated Ear(東京大学)

ファイナルでプレゼンを行うファイナルでプレゼンを行うMediated Ear(東京大学)



ファイナルのステージには現マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏も登壇

ファイナルのステージには現マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏も登壇



優勝はsmartARMのカナダチームに

優勝はsmartARMのカナダチームに

IT企業のなかでも、これほどまでの学生向けのコンテストを開催している企業はマイクロソフト以外にありません。しかも今回で16回目と歴史もある大会となっています。筆者は7年前から取材をしており、以降日本大会は毎年、世界大会は4回目の現場取材です。7年の間にITの技術は進化しており、学生の作品も時代によって変わってきていますが、変わらないのは彼らの情熱です。残念ながら敗退してしまった、日本のezaki-lab(鳥羽商船高等専門学校)とTeam Emergensor(東京大学)もコンペのあとでのインタビューで、「自分たちの作品には自信がある」と作品の質やそれにかける情熱ではほかのチームに負けていないことを力強く語っていました。

ビル・ゲイツ氏が恐れていたパッションをもった学生がこれだけたくさんいれば、IT業界もまだまだ発展するのではと思わせる大会でした。そしてIT業界の発展によるテクノロジーの進歩が、身近な社会問題をさらに解決していくのでしょう。


取材・文・写真/中山智(なかやま・さとる)
海外取材の合間に世界を旅しながら記事執筆を続けるノマド系テクニカルライター。雑誌・週刊アスキーの編集記者を経て独立。IT、特に通信業界やスマートフォンなどのモバイル系のテクノロジーを中心に取材・執筆活動を続けている。

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