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「カメラを止めるな!」に学ぶ、熱量を持った「自走するコミュニティ」の作り方。
上田慎一郎監督&市橋浩治プロデューサーに、単独インタビュー!

2018.12.30

© ENBU ゼミナール

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数ある大作を差し置いて、2018年、制作費わずか300万円の映画が社会現象を巻き起こしました。東京2館から全国353館へと拡大上映され、観客動員数222万人超、興行収入31億円超を記録した、映画「カメラを止めるな!」が、それです。各種の映画賞受賞はもちろん、流行語大賞へもノミネートされるなど、国内外で熱狂的な社会現象を巻き起こしています。
そんな「すごい映画」を作り出した上田慎一郎監督とプロデューサーの市橋浩治さんに、ワークスイッチが単独インタビュー。彼らが語る躍進の舞台裏には、ビジネスパーソンが学ぶべき地に足の着いたマーケティングや自走するコミュニティ、チームマネジメントのヒントがたくさん隠れていました。

最高かよ~! おい~!! Blu-ray&DVDも評価が高い「カメラを止めるな!」とは?

▲Blu-ray&DVDになって、さらに「感染者」拡大中! © ENBU ゼミナール

▲Blu-ray&DVDになって、さらに「感染者」拡大中! ©ENBUゼミナール

山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影中に本物のゾンビに襲われてしまう、ある撮影隊の姿をカメラが追いかけ続ける冒頭37分間。その37分のワンシーン・ワンカットが幕を閉じると、アッと驚くまさかの展開に…⁉

そんなネタバレ厳禁な仕掛けに驚き、伏線回収の見事さに感嘆、最後には感動・感涙…!
そうした最高の映画体験がSNSを中心に拡散され、ブームとなった映画「カメラを止めるな!」。

▲「それだよ、その顔! 出来るじゃないか〜!」本物のゾンビ出現に大喜びな監督 © ENBU ゼミナール

▲「それだよ、その顔! 出来るじゃないか〜!」本物のゾンビ出現に大喜びな監督 ©ENBUゼミナール

12/5からBlu-ray&DVDが発売され、メイキングや未公開シーンなど132分(Blu-ray)もの特典映像が収録されているとあって、再び話題に。その勢いはとどまることを知らず、Blu-ray Disc邦画ランキング(オリコン)で初登場1位、TSUTAYAレンタルDVD週間ランキングでも、邦画DVDジャンルで1位を獲得しています。

結果的に、略称“カメ止め”が新語・流行語大賞にノミネートされるほどの作品となりましたが、「興行的に当てるという発想で作られた映画ではない」と、本作のプロデューサー・市橋浩治さんが製作の背景を語ります。

キャストが受講料を払って参加したワークショップ

——「カメ止め」はENBUゼミナールのシネマプロジェクト第7弾作品ということですが、シネマプロジェクトとはなんですか?

▲市橋浩治プロデューサー

▲市橋浩治プロデューサー

市橋「ENBUゼミナールは、舞台や映画で活躍する俳優・監督を養成するスクールです。そこで2011年から毎年行っているのがシネマプロジェクト。才能はあるけど世に出るきっかけがない俳優や若手監督を集めて、ワークショップをしながら作品を作り、映画館で上映するという企画です。劇場上映することで、映画業界や芸能事務所の人に作品を見てもらえることで、監督や俳優たちのチャンスが広がると考えたもので、興行的に当てるという発想ではもともとないんです」

——上田慎一郎監督はどのように選ばれたのでしょうか。

市橋「もともと映画祭などで上田くんの作品を見ていて安心感があったので、第7弾の監督としてお願いしました。上田くんのこれまでの作風はどれも、ちゃんとストーリーがあって、コメディ要素もあり、そして“いい話”なんですよ。また、シネマプロジェクトは毎回2人の監督で2作品を作っているのですが、最初に『上田くんはどうですか』と言ってきたのは、(本プロジェクトの)もう1人の監督、岡元(雄作)くん。彼がいなかったら『カメ止め』はできてなかったかもしれません(笑)」

▲上田慎一郎監

▲上田慎一郎監督

——キャストはどのように決まったんですか?

市橋「『この2人の監督で作品を作ります。どっちの監督になるかわからないけど応募してください』と呼びかけ参加者を募集し、40人の応募者からオーディションで24人を合格者として選びました。そこから一回、両監督が24人のワークショップを行い、自分の作品に出てもらいたい12人を選抜するんです。そして『カメ止め』の場合、ワークショップで12人の人となりを見たうえで、上田くんは当て書き(その役を演じる俳優をあらかじめ決めてから、脚本を書くこと)をしました。例えば、録音マン役の山﨑(俊太郎)くんは予想できないことをやる人で、濱津(隆之)くんは周りから押されると『はい』と言ってしまいそうなタイプ、真魚はワークショップでも偉そうに前に出ちゃう(笑)。そういうところがキャラクターにちゃんとハマっていて、映画にも生きていますよね」

▲録音マン役の山﨑俊太郎 © ENBU ゼミナール

▲録音マン役の山﨑俊太郎 ©ENBUゼミナール

▲監督役の濱津隆之 © ENBU ゼミナール

▲監督役の濱津隆之 ©ENBUゼミナール

▲監督の娘役 真魚 © ENBU ゼミナール

▲監督の娘役 真魚 ©ENBUゼミナール

——内容は監督におまかせですか?

市橋「予算的におさまるか、危険はないかなどはチェックしますけど、基本的には監督が思うように進めてもらいました。ただし、キャストは基本的に受講料を払って参加しているので、ENBUゼミナールとしては彼らを守らなきゃいけない。なので極端な話、脱ぐことを強要したりはやめてくれとか、ちゃんと伝えています」

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通常の映画とは異なる手法で制作された映画「カメ止め」。
作られた現場ではどんな裏話があるのか、上田監督に聞きました。

12人全員に見せ場を作ったことでみんなが胸を張れた

——Blu-ray&DVDの特典映像では、舞台裏がたっぷりと収録されていますね。

上田「ファンの方は作品の舞台裏を見たいと思うので、メイキングは気合いを入れて作りましたね。“もう一つのカメラを止めるな!”みたいなことですから。まだ配役が決まる前のワークショップから、宣伝活動や打ち上げをしている姿まで入っているので、ぜひ舞台裏をのぞいてほしいなと思います」

▲「メイキングは気合を入れて作りました」(上田)

▲「メイキングは気合を入れて作りました」(上田)

——ワークショップでは、何か意識していたことはありますか?

上田「複雑な構造の映画なので、みんな出来上がりをなかなか想像できていなかったんです。そんな状況の中で、とりあえずここに来たら楽しいと思ってもらう努力はしていたかもしれないです。ワークショップでも飲み会でも、楽しめてない人が1人でもいたらその場は失敗だと思うので、全員が楽しめる場を作る努力はしていたと思いますね」

——みんなのモチベーションをさらに上げようと思ったら、どんなことをしますか?

上田「モチベーションは、僕以外の全員が100点満点中10点しかないとして、ケツを叩いて20点、30点にするのは困難だし、そんなことしたらみんなが不満を持つ可能性が大きいですよね。そうなったら、僕自身が200とか300になるしかない。そうすれば自然と『こんなに気合いが入っているんだ!』『ついて行かなきゃ!』と感じると思うんです。だから自分が誰よりも頑張るだけですね(笑)。映画作りに限らず何でもそうだと思うんですよ。ただ『カメ止め』の場合は、そもそも他の映画と違って参加費を払っている人たちなので、ベースのモチベーションが違うとは思います。この映画に賭ける気持ち、次につなげなきゃいけないという強い気持ちは、みんな根底にあったと思います」

▲「全員が楽しめる場を作る努力はしていたと思います」(上田)

▲「全員が楽しめる場を作る努力はしていたと思います」(上田)

——特殊な現場ならではのことは、他にもありますか?

上田「12人が参加費を払っているので、全員に見せ場を作らないと、という使命感がありました。普通の映画のように3、4人しか見せ場がないと、脇の人たちは熱を持って宣伝とかできないと思うんですよ。でも、12人全員に見せ場を作ったことで、誰もが胸を張れたというのはあるかもしれないですね」

▲出演者全員に、見せ場がある © ENBU ゼミナール

▲出演者全員に、見せ場がある ©ENBUゼミナール

——時間や予算が限られているなかで、難しいことも多かったのでは。

上田「撮影日数が8日間しかなかったので、現場に行ったらあとはやるだけという状態にしないといけない。だから例えば、新しく直した台本ができたら、みんなに送る時に『ちょっとでも納得できないことがあったら個別にLINEをくれ』と言って、一通一通対応していきましたね。指示をして納得してないなと思った時も、その場で聞いて、話をして、(納得いかない点を)つぶす。面倒ですけどそういう地道なことをちゃんとしないとあとで面倒くさいことになるので、マメにやることが大事なのかなと思います」

——上田監督の現場ではいつもそうですか?

上田「そうですね。逆に現場では、事前に固めたものを壊そうとするところはあります。実際動いてみた時に出たアイデアは積極的に取り入れるようにしていて。珍しいと思うんですけど、うちの現場では録音の人とかでも録音以外の領域について普通に意見を言ってくれるんです。よければすぐ採用するし、違うと思ったらすぐ引いてもくれる。そういうアイデアの出所が多いのは、映画にとってすごく大事なことですね。『これはうちがやる仕事なの?』みたいな議論(笑)は会社でもあると思いますけど、給料分を越える仕事をした人に、給料分以上のものが手に入ると思うんですよ。僕も、お金を払ってでもやったことの方が、あとに残っていることが多いですからね」

▲「給料分を越える仕事をした人に、給料分以上のものが手に入る」(上田)

▲「給料分を越える仕事をした人に、給料分以上のものが手に入る」(上田)

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そんな風通しのいい現場で作り上げられた「カメ止め」が、大ヒットしていった裏側を、市橋プロデューサーに迫ります。

誰もが自分の作品だと思う意識(自分事化)が、熱量につながる

——新宿K’s cinemaと池袋シネマ・ロサの2館で公開が始まり、直後から、満席で入れない、面白いらしい…と評判を呼んでいきましたね。

▲「地域活性にも役立ったなって、思いました」(市橋)

▲「地域活性にも役立ったなって、思いました」(市橋)

市橋「まずワークショップの仕上げとして2017年11月にK’s cinemaさんで6日間のイベント上映を行い、その後2018年6月から、声をかけていただいた2館で劇場公開が始まりました。この2館はどちらもネット予約ができない劇場なので、並ばなきゃいけない。正直、それもよかったんですよね。10館くらいから始めていたら普通に終わっていたかも(笑)」

——そして大手配給会社アスミック・エースが加わり、拡大公開へ。

市橋「メディアでも取り上げていただき、そこからはちょっと違うステージになりましたね。その前から独自に全国で30館くらい決めていて、その中の九州の別府ブルーバード劇場というおばあちゃんがやっている劇場が、連日満席だったんです。それをすごく喜んでくれて、『地域活性に役立ったな』と思いました(笑)。僕らはそういう地方のミニシアターを先にブッキングしていたので、拡大公開の際にその周辺のシネコンへブッキングするのは当初やめておきました。最初に決めていただいたミニシアターさんがインディペンデントの映画で潤うというのは、また違う喜びがありましたね」

——その影で、キャスト(役者)全員の総力を上げた宣伝活動も印象的でした。

市橋「キャストも都内エリアを分担して、飲食店や雑貨店とかにチラシやポスターを持って行き、置いてもらえたらツイッターに上げる、ということを宣伝の一つとしてやってました。キャスト全員がSNSで宣伝活動も。最初の頃は自ら発信して、公開後は見た方の感想を全員がいいね!かリツイートするとか。宣伝予算がないので、自力でできることを全部やろうと。公開してから毎日舞台挨拶もやっていたんですけど、仕事というよりお客さんとコミュニケーションをとること自体喜んでいました。みんなこの作品が大好きで、自分の作品だと思っているからこそ、宣伝に力が入るんじゃないですかね」

▲メーク役 しゅはまはるみ

▲メーク役 しゅはまはるみ

▲助監督役の市原洋

▲助監督役の市原洋

——作品への自信や自分事という思いが、熱量につながったんですね。

市橋「企業だと、開発担当、製造担当、宣伝担当など部署や担当がバラバラだと思いますけど、僕らの場合は、参加した全員が宣伝もやる。関わった人たちがみんな作品を好きで、自分のことのように動いていることが大きな熱量につながったんだと思います。そのあとは、見ていただいたお客さんたちが、広めていってくれましたよね!」

▲「熱々やろ!」が決め台詞。超適当プロデューサー役の竹原芳子 ©ENBUゼミナール

▲「熱々やろ!」が決め台詞。超適当プロデューサー役の竹原芳子 ©ENBUゼミナール

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ネタバレ厳禁だけど、SNSでつぶやかずにはいられない!
クリエイティブ(作品)にそう思わせる力があるのは大前提。そのうえで、監督・キャストらが自らSNSで拡散する「手作りのマーケティング」が功を奏し、「カメ止め」愛を共有する熱々の「コミュニティ」が形成され、自走していったのです。
また、キャスト全員が「自分の作品だ」と思える「カメ止め愛」を育んだ上田監督のマネジメント力は、リーダーシップやチームビルディングに悩むビジネスパーソンにも、大いに参考になるはずです!


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「カメラを止めるな!」Blu-ray&DVD発売中
価格/Blu-ray 4800円+税、DVD 3800円+税
発売・販売/バップ
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上田慎一郎
1984年生まれ、滋賀県出身。中学生の頃から自主映画を制作し、高校卒業後も独学で映画を学ぶ。2017年までに、長編映画「お米とおっぱい。」(2011年)のほか短編を中心に8本の映画を監督し、国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得。「カメラを止めるな!」が劇場用長編デビュー作

市橋浩治
1964年生まれ、福井県出身。ENBUゼミナールと日本ドローン アカデミー代表。若手監督や俳優を発掘する一方、2011年からシネマプロジェクトを立ち上げ、「あの女はやめとけ」(市井昌秀監督)や「退屈な日々にさようならを」(今泉力哉監督)など話題作をプロデュース。

取材・文/小林未亜(エンターバンク)、インタビュー撮影/千々岩友美、編集プロデュース/藤田薫(ランサーズ)

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