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働き方改革を進めるのは、意外と簡単なこと!?『残業学』著者・中原淳さんが悩める中間管理職に送る「希望」のエール

2019.03.26

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▲『残業学』著者/立教大学経営学部教授 中原淳さん

近年、世間を賑わしている「働き方改革」のキーワード。戦後、連綿と続いてきた長時間労働に代表される日本人の「働き方」を見直さなくてはならないという議論がメディアを飛び交っています。しかし一方で、「働き方改革」の名のもと、現場の状況を顧みない施策が実施され、「やらされムード」が生まれてしまっている職場もあります。

2018年12月に出版された『残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?』(光文社新書)では、立教大学経営学部教授の中原淳(なかはら・じゅん)さんが人事領域の研究をする「パーソル総合研究所」と共同研究を行い、2万人の調査データを分析し、残業のメカニズムと実態を明らかにしました。例えば、残業は仕事のできる人に「集中し」、職場で「感染し」「遺伝する」性質があること。残業時間60時間を超えるような働き方をしているにも関わらず「幸福感」高く仕事に没入してしまう層がいること。こうした残業を発生させるメカニズムは、日々の習慣として職場に長く「蓄積」されています。それはつまり、今多くの企業で行われている「労働時間に上限を設ける」タイプの働き方改革だけに頼っていては、本当の意味で組織の働き方を変えることは難しいということです。生産性を高めつつ、働く人が「希望」を見いだせるような長時間労働是正には、職場ぐるみの取り組みが必ず必要になります。

中原さんは著書の中で、「働き方改革」の成否の鍵を握るのは部下を抱える中間管理職であり、そして「働き方改革」にひときわ苦労をしているのもまさにその中間管理職だと指摘します。働き方改革によって経験の浅い部下に仕事を振れなくなり、かえって仕事が増えてしまった、という声も聞こえてきます。中原さんに、中間管理職をめぐる課題と解決策を示してもらいました。

インタビュアーは、本メディア『Work Switch』の編集長の成瀬岳人(なるせ・たけひと)です。成瀬は編集長であると同時に、社内で働き方改革を推進する立場にもいて、「悩める中間管理職」の一人として、お話を伺いました。


中原 淳
立教大学経営学部教授。同大学ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)主査、リーダーシップ研究所 副所長。1975年北海道生まれ。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発について研究している。

成瀬 岳人
パーソルプロセス&テクノロジー株式会社 ワークスイッチ事業部 ゼネラルマネジャー/メディア『Work Switch』編集長。1979年静岡県生まれ。パーソルグループの中でも先進的な働き方を実験している組織「ワークスイッチ事業部」の働き方改革企画・推進を担当。

昭和的な働き方をアンインストールし、希望が持てる働き方をインストールする

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▲「残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?」(光文社・刊)

成瀬:中原さんがこのタイミングで「残業学」取り組まれたのは、なぜなのでしょうか?

中原:それは、今「大きな岐路」に立っていると思うからです。「働き方改革」と言われ始めたのは2015年の話で、それから4年が経ちました。メディアの報道を見ていると、まるで全ての企業が働き方改革に取り組んでいるのではないかと錯覚してしまいますよね。でも、実際のデータを見てみると、働き方改革に取り組んでいる企業は全体の5割ぐらいです。「もういいよ、働き方改革」という声も聞こえてきますが、半数はまだ動いていないことをちゃんと自覚した方がいいと思います。

成瀬:私はメディアの編集長以外に、事業部で働き方改革を推進する管理職として、4年前から、残業時間の削減やテレワーク導入などに取り組んできました。『残業学』を拝読して、これまでやってきたことを俯瞰して、整理してもらったような印象をもちました。

中原:ありがとうございます。読者からご評価いただいている点は、残業を構造で示したことです。従業員が悪い、管理職が悪いと「悪者探し」をする議論ではなく、上司・職場・給与制度のあり方・家庭の4つの要素が作用した構造から生まれているものであることを明らかにしました。一方でご意見をいただくのは、残業対策の箇所です。長時間労働を是正する具体的な取り組みとして、職場の風土改革「残業時間の見える化」と「残業代の還元」、中間管理職の力量形成を挙げましたが、それに対して「よくある改善の方法が書いてある」という声が聞こえてきます。ご意見は甘んじて受けつつも一方で、労働時間是正の問題は地に足の着いた地道な取り組みの蓄積でしかないとも考えます。一振りで全てをパーッと解決するような「魔法の杖」なんてないよ、と思うわけです。

成瀬:その話は、残業限らず、働き方改革そのものに当てはまりますね。私は、働き方改革を「体質改善」を行う取り組みだと認識しています。

中原:そうですね。働き方改革とは、長時間労働の削減に限らず、日本人の働き方に染みついてしまった昭和的な働き方を見直しアンインストールしながら、仕事に希望を持てるような働き方をインストールしていくことだと思います。

武器も防具もない中間管理職は「無理ゲー」状態

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▲もっと中間管理職を魅力的にしないと、この国から課長になる人がいなくなってしまう

成瀬:『残業学』を拝読して色々と勉強になったのですが、中でも私に一番刺さったのは、「上司はつらいよ、課長はもっとつらいよ」という箇所です。すみません。学術的でもなんでもないんですが……。

中原:本当にそうです。中間管理職は、会社から多くを求められる割に報われていません。僕自身が、比較的若い頃から研究部門を統括し、中間管理職のような仕事をしてきたので、強くそう思います。処遇、渡されているリソース、そして中間管理職になるために学び直さなければならない機会も全て割に合っていません。もっと中間管理職を魅力的にしないと、この国から課長になる人がいなくなってしまうのではないかとさえ思います。ビジネス書を読むと、マネジメントの定義について「ヒト・モノ・カネを采配すること、やりくりすること」とよく書いてありますよね。でも、今の中間管理職には渡されてない。RPGゲームに例えるならば、武器と防具を持たないまま敵と戦えと言われているようなものです。これでは、いわゆる「無理ゲー」状態です。

上層部を巻き込む「ボスマネジメント」のコツ

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▲部長や上司を巻き込んでやる気にさせる「ボスマネジメント」が大事です

成瀬:中小企業の中には、現場主導ボトムアップ型の働き方改革で成功している事例もあります。大企業の場合、トップダウン型の働き方改革になる傾向があります。中間管理職の中には主体的に動いているにもかかわらず、上層部が働き方改革に前向きでない環境にいる人もいるのではないかと思います。そういう人はどうしたらいいのでしょうか?

中原:簡単ではないのですが、「上をうまく巻き込むこと」が、とりわけ大事だと思います。いわゆる「ボスマネジメント」です。例えば、自分が課長職で上の部長を巻き込む場合に、「この問題は、会社でも注目されています。役員もこれに注目しているみたいですけど、やりますか?やりませんか?お手間は取らせません。一言だけ、ご挨拶いただければ」というように働きかけると、部長もやる気になったりします。マネジメントには人を動かす政治力も必要なスキルです。

成瀬:今の時代、働き方改革にまったく興味がないという人はさすがに減ってきているものの、取り組むべき優先順位が低いままの人はいると思います。ボスマネジメントという意味では、上層部が関心の高い課題やキーワードに働き方改革の施策を当てはめて、言葉をうまく置き換えていきながら、結果的に優先順位が高くなるように促すことも必要と思います。

中原:そうそう。そうなんです。

意外と簡単?!組織の中に「希望のストーリー」を蔓延させていく

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▲「長時間労働をやめてよかった」ってみんなに思ってもらう意味づけは、簡単にできるんです

成瀬:いやー、本当に大変ですね、働き方改革時代の管理職は…。日々、現場で奮闘している中間管理職の皆さんにメッセージをいただけますか?

中原:今、皆さんがやられているのは、従業員にとっても会社にとっても社会にとっても良いことだと思うんです。単に時間を削減しているということではなく、個人の仕事人生が長期化する中でそこを完走させるためのサポートだと思います。組織にとっては優秀な社員が入社して長く働けるようにするための組織作りになりますし、社会にとっては多様な人が働けるようになることで貧困に陥る人を減らす社会課題の解決につながります。変わる時には、それなりに痛い目に遭うし、反発もあります。ですが、中長期的に見て、やっていることは間違っていないと僕は信じています。

成瀬:そういう未来があると中間管理職が信じたときに、まず何をやったらいいでしょうか?

中原:なるべく早く、自ら成果を実感することであり、周囲に実感させることです。「長時間労働をやめてよかった」ってみんなに思ってもらうように、意味づけを行います。もちろん、自分が納得できることも重要でしょう。
ルーティン化したものを解除する時は、一時的にやっぱり不満感も高まるし、葛藤も起こります。僕も経験があるのでわかりますが、1カ月目か2カ月目に「もう無理です」みたいな声があがります。ただ、新しい働き方がルーティンになるのも早いですよ。「まあやればできるかな」「やってみればまあ、普通になっちゃうもんだよね」と。それをなるべく早く実感してもらい、「やってみてよかったよね」と意味づけてしまえば勝ちだと思います。

成瀬:意味づけが大事なのですね。どうしたら早く成果を実感できるのでしょうか?

中原:組織の中に「希望のストーリー」、つまり「長時間労働を是正してよかったね」という話を蔓延させることです。例えば、長時間労働を是正したことで学び直せた人、健康になった人、家族との時間ができた人、そういうストーリーを職場で共有していきます。そうすることで、長時間労働を是正することへの抵抗感や罪悪感があっても、胸のつかえがスッと降りるんです。

成瀬:お話を聞いていると、意外と簡単なことなのかもしれないですね。

中原:簡単なことですよ。例えば、チームの定例会議の前に3分でも5分でも「最近自分の生活がどう変わったか」をメンバーに話してもらうのもいいと思います。「最近、早く帰れ、早く帰れ、って課長が言うから帰りましたけどね。その結果、家族との時間が増えたんですよ」とか。良いことがあったら、それをきちっと意味づけていく。大事なのは、そういう地道なことだと思いますよ。だから、「魔法の杖」なんてないよって思うんです。

成瀬:より良い未来を信じて地道に取り組んでいこうと思います。本日はありがとうございました!

中原:こちらこそありがとうございました。

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▲より良い未来を信じて

取材/成瀬岳人、文/菅森朝子、撮影/千々岩友美、編集/藤田薫(ランサーズ)

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