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超絶すぎる「働き方改革」は現代でも通用するのか!? 激ヤバな“昭和初期”のビジネス書を、読んでみた!

2018.03.30

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ビジネスパーソンの皆さーん、ビジネス書、読んでますかー!?
「スキルを磨くため」「自己啓発のため」「トラブル解決のヒントを得るため」などなど、ビジネス書を手に取る理由は人それぞれでしょう。ビジネスパーソンにとって良いビジネス書は心強い味方です。

ですが、時代の変化が激しい今、去年のビジネス書に書かれていたことが、今年の状況にはそぐわない、ということもあるのではないでしょうか。
そんなトレンド変遷の速さも、ビジネスセンスバリバリな方には問題ないかもしれませんが、ビジネスセンス皆無の筆者のような人間には厳しかったりします……。

じゃあ、もういっそのこと、最先端を追うのではなく、温故知新の精神でGO BACK TO 昭和初期! 現代にも通用する何かを得られるんじゃないかと期待して、昭和初期(1930年代~)に出版されたビジネス書を読んでみました!!
なお、紹介する本で使われている漢字は旧字体なのですが、引用する際は読みやすさを優先して常用漢字に変えています。
(読み仮名は編集部)

自分の本を臆面もなく大プッシュする講談社社長

まず、1冊目は野間清治の『栄えゆく道』(大日本雄辯會講談社/昭和7年・1932年)。
野間は講談社の創業者で、“雑誌王”とまで呼ばれた人物。成功した起業家がビジネス書を出すことは現代でもよくありますが、この時代にも有名社長は本を出していたわけです。
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野間は本書で、当時の国民的雑誌『キング』創刊時のエピソードなどの実体験をまじえながら、仕事のノウハウや人生訓などを説いています。
たとえば、新商品を作る際には他のライバル商品に勝てる「少なくとも三つ四つの強味が無い場合には、寧(むし)ろ始めない方が良い位です」「兎に角(とにかく)私は五つ以上の強味が数へられない以上は、始めたくないと思つて居ります」といった野間のスタンスは参考になりそうです。

ビジネスにおいて金銭的な利益だけでなく、「信用、名誉、其(そ)の他無形の利益の算盤を採らなければならぬ」という野間の考えも印象に残りました。信用などの無形の利益は、「やがて有形の金に変つて還つて来て、名実併せ得る事が出来る」というのが野間のモットーなのです。

さまざまな自分の考えを書く野間ですが、創業時に金策で苦しんだことや、借金返済の督促の電話にビクビクしていたことなどを正直に書いていることに好感が持てました。
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ちなみに、野間はこの本を自分の会社である講談社から出しています(大日本雄辯會講談社は講談社の旧社名)。野間には他にも著作があるのですが、その大半を講談社から出しているんです。
『栄えゆく道』の発売時、講談社の雑誌には同書の紹介記事などが掲載されたのですが、『少女倶楽部』昭和7年(1932)11月号に載った自社広告の文面がなかなかすさまじいので、全文引用します。
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日本中大評判の野間社長の本『栄えゆく道』
『栄えゆく道』は驚くほど売れます。こんなに売れる本は日本では初
めてだといはれてゐます。之を読めば一家は栄え、世の中は明るくなり、日本はキツト盛んになるのです。まだお家の方でお読みにならない方がありましたら、ゼヒおすゝめ下さい。


まったく照れずに自社商品(しかも自分のとこの社長の本)をここまで超絶プッシュする。この姿勢が実は、いちばん学ぶべき点なのかもしれません。

人間は理想的な機械だから長時間労働もOK!?

続いては、経済関係の本をたくさん書いた経済評論家の谷孫六の『千人力物語』(春秋社/昭和7年・1932年)。

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谷自身が前書きで「別に怪力武勇伝でないことだけはお断りして置く」と書いたとおり勇ましい物語が展開しそうなタイトルではありますが、要は能率的な働き方や組織運営などを論じた本です。

「人間の身体ほど精巧な理想化された機械はありません」とギョッとするような表現も出てきますが、当時の科学的な考えにもとづきながら、健康や労働環境の大切さも説いています。

ただ、労働時間に関しては、「国家が特別の状態に置かれてある時には、国民の多数が多少の犠牲を忍んでも、わりに長く働いて国運の快復につとめなくてはならぬでせう」とブラックなことも書いてます。先述の『栄えゆく道』でも労働時間に関しては、「勤務時間の如(ごと)きは社内では殆(ほとん)ど問題に致しません」「全社員各自の自発に依って任意に、長時間の勉強をして呉れて居る」などと恐ろしいことが書いてありましたし、そういう時代だったということでしょう。

とはいえ、本書に書いてあることがすべて時代遅れで参考にならないかというと、そうではありません。本書は“様々なことを詳細に記録して、その記録にもとづいて計画を立てて、仕事の能率を上げていく”という精神で貫かれているのですが、これは十分に応用がききそうです。

たとえば、記録することで自分の作業のスピードを正確に把握して、それによって日々の作業にかかる時間を算出し、詳細かつ無理のないスケジュールをたてる、といった感じでしょうか。
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また、自分の短所を知ることが重要という考えから、「集中力」「時間厳守」などの項目のある表を作って自己採点することも薦めていて、これも応用できそうです。ただ、自己分析以外に「友人なり上役なりに採点して貰つて」「性格の調査が自分で出来なかつたら著者迄お送り下されば著者自身の判断を記入して差し上げてもよろしうございます」とも書いてあるのですが、そんなのどっちもノーサンキューですよ!

たとえ死んでも財産は手放したくない!

最後に紹介するのは、経済ジャーナリストでダイヤモンド社の創業者でもある石山賢吉の『金と人間』(千倉書房/昭和10年・1935年)。
実在の人物の実名とそのエピソードを出しながら、人の金銭欲を描いた読み物です。
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副業の貸金業で財を成した、銀行頭取だった老人のエピソードなどが描かれます。老人には莫大な財産があったものの、それを遺す妻も子もいませんでした。老人は財産の使い道に悩みますが、学校や病院や慈善事業への寄付は馬鹿らしいと考え、結局、死後も自分の財産を保存するためだけに財団法人を作ります(ちなみにこの財団法人は実在していて、平成30年・2018年現在も存続しています)。

石山はこの老人の欲求について、人間には「理屈なしに、一旦、手に入れた物は、放したくないと云ふ、本能欲がある」とするどく指摘します。

兜町の成金相場師たちのゴシップ的なエピソードも紹介しています。個人的に一番興味深かったのは、「斎藤」という新進の相場師の話です。斎藤は帝国大学の法学部を卒業したインテリで、当時としては珍しく「四十三歳の今日でも未だに独身」。家庭教師をやりながら相場を研究して相場師になります。自身に大した資本はありませんでしたが、やがてその能力を評価されてスポンサーがつき、金山のオーナーになるほど大儲けしました。

本書では斎藤のことを兜町の老事情通が「現代人」「相場の研究が科学的ぢやよ」と評します。つまり、旧来の相場師は勘で勝負していたけれど、斎藤のような新しい相場師はデータを分析して成果を上げた、ということのようです。
ロジカルに行動して勢力を伸ばす人物が、ちょっと得体の知れない新人類として扱われるのは(石山や老事情通は斎藤に対して好意的なのですが)、最近でもよく見られる傾向なんじゃないでしょうか。

『栄えゆく道』『千人力物語』『金と人間』を読んで分かったのは、“成功した社長は語りたがり”、“労働では能率が求められ”、“人は死んでも金を手放したがらない”などという、今とあまり変わらぬ事情です。
人間は変わらないのだなあ。

武富元太郎(たけとみ・げんたろう)
1974年生まれ。フリーの編集者兼ライター。映画などのエンタメを取り扱う媒体で主に活動。編集を担当した書籍は『人間コク宝』(吉田豪・著)、『特撮魂 東宝特撮奮戦記』(川北紘一・著)など。

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