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スイッチコラム

「ピープルアナリティクス」導入の先駆者が語る人材データ活用の第一歩、これからの時代の人事のあり方

2020.03.18

あらゆる領域で「DX(デジタルトランスフォーメーション)」への取り組みが活発化する中、「人事のDX」にも注目が集まっています。
人材に関連するデータを分析・可視化することによって、採用・育成・評価などに活かす「ピープルアナリティクス(People Analytics)」の概念も広がってきました。

今回インタビューを行ったのは、株式会社BtoAの事業開発を担当し、ピープルアナリティクス& HRテクノロジー協会の上席研究員も務める 中村亮一さん。 
日立製作所でのピープルアナリティクス専門部門の立ち上げ、ソフトバンクでのHR Tech・ピープルアナリティクス導入の経験を経て、今年3月よりBtoAで新たなチャレンジを開始した中村さんに、日本企業における「人事のDX」の課題、人事の将来ビジョンなどについてお聞きしました。

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中村亮一さん
株式会社BtoA(https://betterengagee.com/) VP of Business Development
大学卒業後、日立製作所に入社し、人事総務を担当。2017年4月よりピープルアナリティクス専門部門を立上げ、心理学を用いたエンゲージメント研究に従事。2018年10月よりソフトバンクにてHR Tech・ピープルアナリティクスの社内導入など、人事部門のデジタルトランスフォーメーション推進を担当。
2020年3月、エンプロイー・エクスペリエンス・プラットフォーム『BetterEngage』を提供する株式会社BtoAに入社。

人事の仕事は「KKD(勘・経験・度胸)」から脱却しなければならい

―― あらゆる業種・職種分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進されています。人事領域では「HR Tech」のサービスも生まれてきていますが、「人事のDX」に関して、日本企業の現状をどうとらえていらっしゃいますか?

中村亮一さん(以下、中村):企業の管理部門の中でも、「人事」に関してはDXへの取り組みが遅れがちです。経理・財務や生産管理、IT部門などは数値化がしやすいのに対し、人事は相手が「人」であるだけに数値で捉えることが難しく、データを見て論じるよりも、人の感覚によって判断が優先されてきた領域だからです。いわゆる「KKD(勘・経験・度胸)」に基づく意思決定の習慣が強く根付いているのが実情だと感じています。

―― それではもう通用しない?

中村:はい。その理由の一つは人事のマンパワー不足です。人事システムの発達や、BPOの推進により現在、人事担当者1人あたりの従業員数が増加傾向にあります。例えば、一昔前は50人の従業員に対し人事1人の割合だったのが、100人に1人などになっている。これでは一人ひとりの従業員を丁寧にケアすることは難しいでしょう。
もう一つの理由は、人材の流動化です。経団連が終身雇用について明言したように、1つの会社で長く働く時代ではなくなりました。従業員だけでなく、人事担当も入れ替わっていく中では、「人を知る」ことが難しく、勘も経験も効きづらくなっていきます。

例えば、今後、労働人口が減少していき、採用難が続く中、離職率も抑制しなければなりません。これまでは、「入社何年目で辞めたのか」「どういう理由で辞めたのか」などのファクト理解があいまいな状態でしたが、これをデータで正しく把握し、適切なアクションを検討する必要があります。そうしなければ、退職リスクを防止するための施策が的外れなものとなり、コストもムダになってしまうでしょう。
人事のマンパワーが不足していく中では、1人あたりの能力・適性をデータで可視化、把握して、パフォーマンスを最大化していくことが何より重要になります。
こうした背景から、人事領域では「データ活用」の意義が強くなっていると思います。

データ活用のカギは「バイアスリスクの除去」と「細分化」

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―― 中村さんはこれまで複数の大手企業で、人事の「データ活用」に取り組んでこられました。推進するためのコツなどはあるのでしょうか。

中村:「ピープルアナリティクス」という言葉は、使い勝手が良かったと思いますね。経営サイド主導で「システムを導入して、人事のDXを一気にやろう」ということはまずなくて。まずは現場で「何かデータ分析してみよう」というところから始まる。でもやっていくと、どうしてもデータが足りない、データが汚いという課題が浮き彫りになる。データを揃えるとなると、あらゆる部署に調査協力を要請することになりますが、いきなり「データが足りないので、性格テストを受けてください」とは、なかなか切り出しづらい。そのとき、経営サイドに対しても現場の長に対しても「ピープルアナリティクスを進めていきたい」と説明しました。「ピープルアナリティクスとは採用の強化や、社員の最適配置するための手法」と伝えれば、人事もそういうこと始めたのかと納得を得やすかったです。

―― 分析はどのような項目からスタートしましたか?

中村:基本的には「ハイパフォーマー」と「ローパフォーマー」の分析。つまり、高い成果を挙げている人・そうでない人をグルーピングして、性格データなどと照らし合わせます。どんな性格タイプの人が、その部門・職務で高いパフォーマンスを挙げているかを明らかにするということですね。それを採用の要件定義や選考基準の参考にもしました。

―― これからピープルアナリティクスの導入に取り組む人事担当者がぶつかる課題とは、どんなものが考えられるでしょうか。

中村:「教師データ(※)」の設定は、一つの課題です。

※教師データ:機械学習の「教師あり学習(事前に与えられたデータを例題とみなし、それをガイドに学習する)」において、人工知能のニューラルネットワークがあらかじめ与えられる、例題と答えについてのデータ。 この大量のデータをもとに、ニューラルネットワーク自体が出力結果の正否を判断し、最適化を行う。

つまり、現場長などに対し「優秀なハイパフォーマーとはどんな人か」を聞いたとして、そこには個人のバイアスがかかってきます。例えば、営業部隊などで分析すると、体力勝負で男性のほうが優位になるケースもある。この「バイアスリスク」をどう調整するかが重要となります。

そして、教師データとなるものをどれほどの数、準備できるか。これは、部門・職種ごとに、ある程度細分化した母集団内で行ったほうが望ましいですね。同じ管理部門内だからといって、企画・人事・経理財務などを一緒にしてしまうと、それぞれの職務に合う性格・志向タイプは異なるのでうまくいきません。
ただ、そのように細分化すると、今度は「分析対象人数が足りない」問題が起きてきます。これをカバーする方法はそれぞれに考えるべきところですが、いずれにしろデータを溜め続けるということが継続的な課題です。何年後に、どんな分析をするかというイメージを明確に持って、それに適した形でデータを集め続けることが大切です。

―― データが揃い、ピープルアナリティクスの活用が進んでいったとき、人事の役割・あり方はこれまでと変わるでしょうか?

中村:人事がいなくても、職場のマネジャーが人事マネジメントできる世界がベストだと、個人的には考えています。
自分の部署に必要な人材を定義する、自分の部署に合う人材を他部署や社外からスカウトする、メンバーの成長を促進する教育を提供する――これらを、現場やメンバーを一番よく知っているマネジャーが自身で行えればいいと思います。それを支援するのが、データであり検索機能です。

人事は必要なデータを蓄積し、現場のマネジャーがマネジメントに活用しやすい仕組みを整える役割を担えばいいと思います。
僕が企業人事としてデータ活用に取り組み始めた頃は「アナログからデジタルへ」を掲げていました。でも、途中で「何か違うな」と。考えた結果、「アナログとデジタルをつなぐ」へと、チームミッションを変更しました。
データの中身もデータを活用する人も「人」というアナログですから、データとアナログを適切に結びつけることが、今後の人事の役割として重要なのではないでしょうか。

データをオープンにし、「個人」のために活用する

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―― 中村さんは、大手企業においてピープルアナリティクスを実現してこられたわけですが、この先はどんな未来を見据えているのでしょう?

中村:データ数が豊富な大手企業で「ピープルアナリティクス」を手がけてきましたが、「個社データには限界がくる」と感じています。自社だけでデータの収集・分析を続けていくと、先ほども触れたようなバイアスリスクも高まるし、「変化」が起きにくくなってしまうのではないか、と。昨今は「ダイバーシティ(多様性)」経営が叫ばれていますが、「この組織にはこういう人材が合う」と決めつけてしまうと、それこそダイバーシティを崩してしまう事態が起きるのではないか、と。
ですから、人材の評価を、社内の視点・基準だけにとどめていてはいけないと考えています。もちろ、個人を特定できないように匿名性を保つのが前提ですが、人材データをある程度オープンにして、さまざまな視点から分析・評価していく取り組みが、今後進んでいくと思います。

ここで注目したいのは「個人データは誰のものか」ということです。会社が従業員の経験・スキル・評価などのデータを取って管理していると、会社のものと見なされがちですが、やはりその人自身のものだと思うんです。「データの個人主義化」は、今後進んでいくと考えています。
将来的にどんな仕組みが確立してくるかはわかりませんが、例えば当社が提供している人事データ管理プラットフォームを利用している企業間であれば、従業員本人が認めれば、データの共有や持ち運びも将来は可能になります。そのデータをもとに、適切な人材流動を図ることもできます。

例えば、Xという会社に、うまく成果を挙げられていないAさんという社員がいたとします。部署異動を図ろうにも、Aさんの特性を活かせる部署が社内にはない。一方、Yという会社ではAさんと同じ特性を持つ人たちが高いパフォーマンスを発揮している――こうした場合、X社とY社がデータを共有する関係にあれば、AさんはY社で新たな活躍の場を得られる可能性があるというわけです。

―― つまり、「適材適所」を自社内だけでなく多くの企業のネットワーク内で推進していく?

中村:まだまだ先の話ではありますが、そういう世界が出来ると良いなと思います。大手企業であっても、今や「終身雇用はできない」「自分のキャリアは自分で考えなさい」という方針なのですから、せっかく蓄積した人材データが退職と同時にゼロリセットされるのではなく、中長期的に個人のキャリア構築に活かせるようになればいいですね。これからは70代まで働く時代。個人のデータを活かすことで、フィットする仕事に早く出会えたり、アンマッチが起きにくくなったりするといいと思います。

僕はこれまで、「社員を幸せにしたい」という想いで人事の仕事に取り組んできました。でも、「幸せ」って、正直よくわからないです(笑)。一人ひとり価値観が違うので。だから「社員が不幸にならないために」を考え続けてきました。
本来、「働く」ということは、楽しかったり、生きがいになったりするはず。なのに、社員の中にメンタルを病む人が出てきてしまう。彼らは「自分はここから離れられない。ここで頑張らないといけない」という観念に縛られてしまっている。それを何とかしたいとずっと思っていたんです。

ピープルアナリティクスと、そのデータのオープン化は、この課題を解決できる手段の一つだと考えています。BtoAへの入社を決めたのも、それを実現できる可能性に期待を抱いたから。
一人ひとりが自分の能力を最大限に発揮し、人材としての価値を高め、仕事を楽しんでいける世界を創っていきたいですね。

取材・文/青木典子 撮影/渡辺 健太郎

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