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スイッチコラム

AIに代替されない「オリジナルな答え」を出すには? 「自分の頭で考え、自分なりの答えを出す」クリティカル・シンキングのコツ、教えます

2019.09.10

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▲狩野みきさん

近い将来、人間の仕事の半分以上がAIに代替されると言われている時代。世界経済フォーラム(ダボス会議)でも、必要とされるスキルトップ10が2015年と2020年のわずか5年で大きく変動しています。核となるのはAIに代替されない、「人間として」「自分にしかできないこと」ですが、そこで欠かせないのが「正解のない問題について考え、自分だけの答えを出す」ことです。
慶應義塾大学を始め各大学で20年以上「考える力」と英語を教える狩野みきさんは、その長い経験を活かし、このほど『ハーバード・スタンフォード流 「自分で考える力」が身につく へんな問題』を上梓しました。ベースとなるのは、今後ますます必要とされるスキル「クリティカル・シンキング」。一度は耳にしたことはあっても、一体何? というワークスイッチ読者のために、狩野先生ご自身の経験も踏まえその内容を伺ってきました。「へんな問題」、例題つきです!


狩野みき(かの・みき)
「自分で考える力」イニシアティブ、THINK-AID主宰。慶應義塾大学、聖心女子大学、ビジネス・ブレークスルー大学講師。20年にわたって大学等で「考える力」と英語を教える。子どもの考える力教育推進委員会、代表。著書に『世界のエリートが学んできた「自分で考える力」の授業』(日本実業出版社)、『「自分で考える力」が育つ 親子の対話術』(朝日新聞出版)、『超一流の自信思考』(大和書房) など多数。

正解のない「へんな問題」って何? 何はともあれ挑戦してみよう

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▲500円でかなえたい夢のアイデアを、出しつくしましょう!

さっそくですが、以下の問題に挑戦してみましょう。

問題①
「軍資金500円、制限時間1週間。この条件で最高にハッピーになる方法を考えてください」

※この問題に「正解」はありません。
※軍資金の他に携帯電話や人脈など、自分が持っているものは何を活用してもかまいません。ただし、追加のお金はNG。使えるお金は軍資金500円のみです。

この問題を解くときに気をつけるべきは
①「最高にハッピー」を自分なりに定義する
②軍資金500円=500円全部使わなければならないというわけではない
③制限時間1週間=1週間以内に終われば、1分でも3日でもよい
という、3点

「ハッピー」を定義するときは、思いっきりわがままに考えること。
さて、どんなハッピーを思いつきましたか? 小学生と大学生の解答を載せておきます。

解答例/小学生
500円を使って、電車に乗ってママの会社に行く。ママをギューっと抱きしめて、また電車に乗って帰って来る。ママはギューされるのが好きだし、すごく嬉しそうにしているママを見ることが、ボクにとって最高のハッピーだから。

解答例/大学生
500円で缶ビールを2本買い、恋人と山に登って山頂で一緒にビールを飲む。
なぜこれが最高にハッピーかというと、
1 僕は登山が大好きだから、
2 登山の道のりは辛いことも多く、辛いことを乗り越えた後のビールは特に美味しいから、
3 大好きな人と飲むビールは最高に美味しいから、
4 山頂の絶景という最高の環境だから。

——これは、著書『へんな問題』に実際に掲載されていた問題です。今回こちらをワークスイッチ読者向けにチョイスしていただいたのはなぜでしょうか。
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▲『ハーバード・スタンフォード流「自分で考える力」が身につく へんな問題』(SBクリエイティブ・刊)

狩野みきさん(以下、狩野):この問題は、スタンフォード大学の授業風景を描いた『What I Wish I Knew When I Was 20』(Tina Seelig著。邦訳『20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』CCCメディアハウス・刊)に紹介されていたものを、若干アレンジして使わせていただいたものです。まず、「正解のない問題」を考えてみてほしかったこと。そのとっかかりとしてちょうど良いと思い、この問題を選びました。

——狩野さんの著書では、この500円の問題に限らず、「正解のない」まさに「へんな問題」がたくさん紹介されています。この本を書こうと思ったきっかけとも繫がると思いますが、狩野さんはなぜ「正解のない問題」を考えることを重視しているのですか?

狩野:ビジネスパーソンにとって、とても重要なトピックをお話しします。毎年1月~2月に世界を代表する企業のトップや政治家、学者らがスイスのダボスに集まり、世界経済や環境問題など幅広いテーマで意見交換する「世界経済フォーラム」(通称ダボス会議)という年次総会があります。このダボス会議でかつて予測した、2015年・2020年に「必要とされるスキルトップ10」で大きな違いがありました。

〈必要とされるスキルトップ10〉

2015年2020年
1位複雑な問題解決力複雑な問題解決力
2位人間関係調整力クリティカル・シンキング
3位マネジメント力クリエイティビティ(創造力)
4位クリティカル・シンキングマネジメント力
5位交渉力人間関係調整力
6位品質管理心の知能
7位サービス・ディレクション判断・決断力
8位判断・決断力サービス・ディレクション
9位アクティブ・リスニング交渉力
10位クリエイティビティ(創造力)認識の柔軟性

1位はどちらも「複雑な問題解決力」ですが、それ以外はかなり動きがあります。たとえば、2020年2位の「クリティカル・シンキング」は2015年の4位から浮上し、3位の「クリエイティビティ」は10位からの躍進。そのほか、自分や他人の感情を近くし、自分の感情をコントロールできる力である「心の知能」や「認識の柔軟性」は圏外からランクインしています。

AIが当たり前のようにある環境で人間にしかできないこととは? を考える

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▲これからはオリジナルな答えを出せる人が「優秀」と言われる時代になります

——これが意味するところは何でしょう。また、「クリティカル・シンキング」はあまり馴染みのない単語です。

狩野:よくぞ聞いてくれました(笑)。クリティカル・シンキングはこの本のベースになっているもので、欧米では「読み書きそろばんに次ぐ、第4のスキル」と言われているものです。こちらについてはこの後も説明します。
まずランキングがここまで変動した背景について説明すると、AIの存在があります。

——「やがてAIが人間の仕事の半分を奪う」と、著書『へんな問題』にも書かれていました。

狩野:そうです。そうした環境で人間は何ができるでしょう? 2020年に必要なスキルのランキングは、「人間にしかできないこと」は何なのかという問いに対する答えとして出されたものです。「心の知能」なんてまさにそうですよね。機械が得意なことは機械にまかせ、人間は人間の得意なことに精を出さないと、本当に仕事を奪われてしまうでしょう。

——その人間の得意なことの1つが「正解のない問題を考えること」というわけなんですね。

狩野:はい。日本ではとくに戦後以降、どんな問題にも正解があるとする、いわゆる「正解主義」を重視する傾向がありました。
学校だけでなくビジネスでも社会でも「模範解答」があると信じ、そこに載っているであろう正解を確実に叩き出せる人こそが、優秀とされてきたのです。

——確かに、テストも○か☓かで採点されてきました。

狩野:でも、「正解」があるということは、「解き方」があるということ。それこそAIが代替するようになるでしょう。
つまり、これからは誰にもコピーされないオリジナルな答えを出せる人が「優秀」と言われる時代になる。そのオリジナルな答えを出すためには、「正解のない問題を考える」力が大切だというのが、この本で伝えたかった真意です。

クリティカル・シンキングで「動じない自分」になる

——その「考える力」と、クリティカル・シンキングが関係しているんですね。

狩野:その通りです。クリティカル・シンキングとは、「自分の頭でじっくり考えて、自分で納得のいく答えを出すスキル」のことです。これを実践することで、「なんで?」と言われたときに動じない自分になり、自分の考えていることに対して責任を果たすことができるようになります。

——まさに、「自分オリジナルの答え」が出せるようになるんですね。責任を果たせるというのは、ビジネスシーンでも信用が得られそうです。

狩野:そうなんです。アメリカのハイスクールではおなじみの手法ですが、日本では「自分で考える力」をあまり教えてこなかった。そこで、このクリティカル・シンキングとハーバードや、スタンフォード大学のメソッドを参考にして出版したのがこの本になります。

正解のない議論を聞くことが好きだと気がついた講師時代

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▲ある学生が「大学は、役に立たなそうなことを勉強できる唯一のチャンスだと思う」と、私に打ち明けてくれたんです

——そうでしたか。いっぽう先生ご自身は、このダボス会議に先駆けて20年以上も「考える力」と英語を教えています。きっかけはなんだったのでしょうか?

狩野:もともと私、帰国子女なんです。そこから慶應義塾大学に入学したんですが、卒業後、就職する自分がイメージできなくて。そのまま慶應の大学院でイギリス文学を学び、博士課程まで行ってしまったんです。

——大人の仲間入りをしたくなかったんですね(笑)。

狩野:そうですね(笑)。ただ、私が大学院を卒業した1990年ごろは大学院を英文科で終えると必然的に英語の非常勤の枠が待っておりましたので、そのまま母校で英語を教えるようになりました。

——英語の授業とは?

狩野:ディベートとTOEIC対策講座です。対策講座は「これをやってください」と言われて「はいはい」と受け持ったんですが、なぜか非常に息苦しくて本当に嫌でした。
教えることは好きなはずだったんですが、「この授業だけはすごく気が重い」と。

——何が原因だったんでしょうか。

狩野:それを気づかせてくれたのが、同時に同じ慶應の法学部の学生向けに教えていた、ディスカッションの授業だったんです。

——いわゆる「英語」とは違う授業だったんですね。

狩野:はい。そこで「大学は実践的なことを教えるか否か」という議論を学生たちがしていたんです。慶應は一応「実学主義」なので、創立者である福澤諭吉を引き合いに「やっぱり実学がいいんじゃない?」という学生が多かったのですが、そのときある学生が、私に「僕は大学っていうのは、役に立たなそうなことを勉強できる唯一のチャンスだと思うんです」と打ち明けてくれたんです。

——確かに大学生の特権ではありますね。

狩野:ええ。彼が「それ(役に立たないこと)を自分の中にどれだけ持っていられるかが、その後の人生のヒダを作るんじゃないかな」と言うのを聞いて、ああ、私は「正解が決まっていないものを学生がアウトプットできる」授業のほうが好きなんだ、と気づいたんです。

じゃあTOEICの授業は? というと、本当に英語道場みたいな感じで、過去問をどんどん解かせていたんです。そこには明確に正解があるので、別に私がやらなくても、虎の巻読めばいいんじゃない? と思うようになってしまいました。

発信することのしんどさに気づいた記者時代の「餃子体験」

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▲外国人の同僚に「餃子が食べたい」って言ったら「なんで?」って

——それこそ、いずれAIで代替できそうですね。

狩野:そうですね。また、同時期に英字新聞の記者もしていたのですが、職場の半分ぐらいが外国人だったんです。とくにハワイ出身の女性上司が怖くて、原稿を提出すると「ミキ、これは本当なの!?」としょっちゅう聞いてくる。

——…迫力がありそうです。

狩野:そりゃもう(笑)。私が「I think so …」と答えると「think じゃない! YESかNOだ!」と、よく怒られました。

——日本ではよく使う表現ですが…。

狩野:ええ。でも、無責任に聞こえたのかもしれませんね。
また別のある日、外国人の同僚に「ミキは今夜、何が食べたい?」と聞かれたので「餃子かな?」と答えたら、すかさず返ってきた質問が「なんで?」。

——そんなことを聞かれることのほうが、私たちにとっては「なんで?」です!

狩野:でしょう? でも、一応「なんでだろう」と自分でも考えてみたんです。それで「うーん、雑誌で紹介されていたから」と答えたら「そっか! オッケー!」って。
海外国籍の人は特に「理由付き」で主張する方が多いですよね。例えば職場では、入社2年目ぐらいの若手でも契約更新や給与改定の際に、聞かれてもいないのに「私はこう思います。なぜならば…」と主張をしてくる。ただ言いたいことを言うのではなくて、常に理由もセットになっているんです。そこで、「発言する」って理由をセットにしなければならない分、自分が思う以上にしんどいことなんだなと気づきました。

「正解」におびえ続けた子ども時代。クリティカル・シンキングで自己肯定感が高まった

——餃子の話も「正解のないことを考える」エピソードですね。それにしても、発言することのしんどさに気づきながらも、「自分で考える力」の魅力が色褪せなかったのはなぜでしょうか。

狩野:うーん。ひと言で言えば、「自分で考える力」が身につくと自己肯定感が高まるからです。実は私自身、ものすごく自己肯定感の低い子どもだったんですね。

——ご経歴からは想像もつきませんでした。

狩野:いえいえ(笑)。例えば、親に洋服を買いに連れて行ってもらうとする。そうすると、自分はどの服が欲しいか、ではなく「どの服が親の思う『正解』なんだ?」と考えてしまうんです。常に「正解におびえ続けた子ども」だったんですね。
でもそこから大人になって、知り合いから『クリティカル・シンキング・アン・イントロダクション』(アレク・フィッシャー・著)という本をもらったんです。そこで「人の意見は正しい・正しくないではなくて、説得力があるか・ないかだ」という言葉に触れて、とても救われた気がしたんです。
それで、誰に言われるでもなく「どこかに正解があるはずだ」と思っている自分のような人に「みんなと同じでなくても良い」と伝えて救いたいという妙な使命感に駆られるようになり、現在に至ります(笑)。

——空気も「読みすぎる」と、相手の顔色を窺ってばかりになってしまいますね。

狩野:いまの日本はまだ、人と違うことを主張して胸を張っていられるという人は、少数です。とくに若者は傷つくことを嫌がって、昔より議論したがらなくなっているように感じます。でも、「時と場合さえ間違えなければ、人と違う意見を言ってもいい」と私は思います。また、クリティカル・シンキングを実践すると自分の選択や行動に説得力が生まれるので、それこそ自己肯定感も上がるんですよ。

——自分で自分の発言を信頼できるんですね。まさに「自信」がつく。

狩野:ええ。議論することの楽しさも知り、何にでも○☓をつける画一的な考えからも解放されます。

自分でルールを見つけ、効果的に話す力も身につけよう

狩野:ですから、「自分なんてどうせ」とか「自分には発想力がない」と思っている方にこそ、本書の問題をやってほしいですね。1人ではなく仲間と「酒の肴」としてワイワイやることで、自己肯定感を得られる人もいると思います。
せっかくなので、もう1問やってみましょうか。

問題②
「『そして、今日も、ガリガリ君を食べた』で終わるお話を400字以内で書いてください。」

※ガリガリ君というのは、国民的アイスの「ガリガリ君」のことです。想像力をフルに使って、「そして、今日も、ガリガリ君を食べた」で終わるお話を自由に考えてください。
※ただし、お話には最低1つ「」付きで誰かのセリフを入れてください。

この問題のポイントは、今日「も」ガリガリ君を食べた、というところにあります。つまり、そこまでガリガリ君を愛する理由や、特別な事情があるということです。その「理由・事情」を自由に考えて、お話を作ってみてください。

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▲「ガリガリ君を毎日食べずにはいられない特別な事情」というルールを、自分なりに設定してみましょう

狩野:これは、「自分でルールを見つけ、効果的に語る力」を鍛える問題です。日本人の多くは「ちょっとしたエピソード」つまりストーリーを語ることを苦手としていますが、エピソードを語る力は大事です。グローバル時代、国も文化も違う相手に伝えていくためには、相手が受け入れやすい伝え方を模索していかなければなりません。

誰かのセリフを再現するのはストーリーを語る際のお約束。日本人がやりがちなのは「きれいにまとめる」ことですが、これでは話は実につまらなくなってしまいます。具体性と臨場感を持って、自分が「どう感じたか」を入れることで、その人だからこそ語れる価値が生まれるんですよ。

常に「なんで?」を繰り返すことで、クリティカル・シンキングは磨ける!

——最後に、日常的にクリティカル・シンキングを磨くコツがあれば教えていただきたいです。

狩野:常に「なぜ?」を繰り返すことです。「当たり前」と見過ごしてきたことも、改めて問うてみてください。
たとえば、日本三大昔話の1つである「桃太郎」で、なぜ犬は桃太郎の腰につけているのがきび団子だとわかったのでしょう? 当時はビニール袋もないだろうから、見えていたわけじゃない。布だとしたら、ニオイ? 旅人が持ち歩くのはきび団子と当時は決まっていた? …などなど。
我が家では子どもたちともよく、「なぜ?」を話しあっていますよ。

——材料は無限にあるんですね。

狩野:そうです。たとえば今日、私はたくさんご用意いただいた飲み物のなかでこのお水を選びましたが、その理由をいまここで聞かれても、10個は言えると思います(笑)。まずは喉が渇いていたから、単純に飲み物が欲しかった。そして、コーヒーはさっき飲んだので違うものが良かった。お腹を冷やしたくないので、冷たいお水より常温の…

——も、もう大丈夫です!(笑)。

狩野:あはは、すみません。話が永遠に終わらないのが玉に瑕です(笑)。
でも、「なぜ?」から始まる「自分で考える力」を英語文化の産物だけにしておくのはもったいない。「自分で考える力」を日本人も身につければ、私たちはもっと自信や自己肯定が育める。グローバル社会で自信をもって、生きていけるはずだと信じています。
かつての私のように自己肯定感の低さで悩んでいる人には、「難しく考えないで、とにかく面白いからやってみて〜!」とお伝えしたいですね。

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自分の頭で考えることは、決して難しい事ではありません。なぜならば、答えは1つだけではないからです。その場の正解を探すことをやめて身軽になり、じっくりと自分の頭で考え、自分なりの答えを出す。そんな「自分で考える力=クリティカル・シンキング」を身につけ、新しい時代を乗り切っていきましょう。

取材・文/吉田知未、撮影/千々岩友美、イラスト/大津まやな、編集プロデュース/藤田薫(ランサーズ)

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