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「小学校からのプログラミング教育必修化」を誤解していませんか?
課題解決型の思考方法を習得するためのカリキュラム、実は大人にも効果的!?

2018.10.30

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2020年から始まる小学校でのプログラミング教育。パソコンを習得するのではなく、プログラミング的思考を養うことを目的としてスタートする。そこで使われるカリキュラムや教材は、実は子供だけでなく大人にも効果的な学習効果が得られそうだ。

パソコンでカタカタ打ち込むのが「プログラミング教育」ではない

2020年は日本の社会が大きく変わる分岐点と考えられています。そのひとつの要因としてあげられるのが、「小学校からのプログラミング教育必修化」です。ところがひとくちに「プログラミング教育の必修化」といわれても、ピンとこない人も多いはず。一般的にプログラミングというと、パソコンに向かい合って難しい開発環境を使いキーボードでカタカタと作業を進めるイメージ。ですがこのイメージのまま2020年から始まる小学校でのプログラミング教育必修化をとらえるのは、大きな勘違いです。

▲文部科学省の「プログラミング教育ポータルでは、具体例などをあげながらどういったカリキュラムに使われるか解説している https://miraino-manabi.jp/

▲文部科学省の「プログラミング教育ポータルでは、具体例などをあげながらどういったカリキュラムに使われるか解説している https://miraino-manabi.jp/

まず基本的なポイントとして、「プログラミング」という新しい教科が誕生するわけではありません。算数や理科、総合的な学習の教科のなかで「プログラミング的思考」を学びます。つまりパソコンの使い方やプログラミング言語を覚えてプログラマーを育成するのが目的ではないのです。

文部科学省では「プログラミング的思考」について、下記のように定義しています。

「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力」

つまり何か問題や課題を解決するために、どういった手順や作業を行えば良いか考える問題解決型の思考です。たとえば家庭科で「サンドイッチを作る」という課題があった場合、提示されたレシピどおりに作るのでなく、レシピを見ずに提示された材料や調理器具を使って、手順を考えトライ&エラー繰り返すことで見本通りのサンドイッチを仕上げる思考方法というわけです。

タッチ操作でのプログラミングがポイント

「プログラミング教育必修化」がプログラミング自体を学ぶのではなく、プログラム的思考を身につけるのが目的なため、教材もパソコンの使い方をマスターしていなくても取り扱えるものが提案されています。

たとえば、イギリスで開発された教育向けのコンピューター「micro:bit」。micro:bitにはボタンや加速度など各種センサーが組み込まれていて、装備されているLEDの点灯がプログラミングで制御できるようになっています。

▲インテルが主催したプログラミング教室で使われたmicro:bit。スティックの根本にあるのがmicro:bit本体で、スティック部分はインテルオリジナル

▲インテルが主催したプログラミング教室で使われたmicro:bit。スティックの根本にあるのがmicro:bit本体で、スティック部分はインテルオリジナル

micro:bitを動作させるにはパソコンを使ってプログラミングが必要ですが、一般的なプログラミング言語のようにテキストをタイプする必要はありません。各種処理がブロックとして用意されているので、ドラッグ&ドロップで順番に配置していくだけです。たとえば入力に関するブロックは「ボタンAが押されたとき」や「ゆさぶられたとき」など。そのほかLEDには「点灯 x y」といったブロックがあります。ちなみにxとyは光らせるLEDの位置を表していて、5×5の計15個のLEDのどれを光らせるか数値(0~4)で指定できます。

▲micro:bitのプログラミング言語の画面。ブロックを配置していくだけなのでカンタン

▲micro:bitのプログラミング言語の画面。ブロックを配置していくだけなのでカンタン

ここで「ボタンAが押されたとき」と「点灯 x y」のブロックを組み合わせて、xとyを数値で出しています。すると画面上のエミュレーターで動作が確認でき、Aボタンをクリックすると指定したLEDが点灯します。これだけで「特定のLEDを光らせる」というプログラミングが完成です。もちろんmicro:bitの実機があれば、パソコンからプログラムを転送すれば実機でも動作確認ができます。

ちなみにmicro:bitのプログラミング言語は、公式サイトからウェブブラウザーでアクセスして無料で利用可能です。実際に試してみると、どういったことができるかよくわかると思います。

実際にインテルが2018年8月に子供向けのプログラミングイベントを開催したときも、このmicro:bitを使っていました。参加した子供は未就学児から小学校高学年までと幅広い年齢層でしたが、いずれの子も簡単なレクチャーを受けただけでプログラミングを楽しんでいました。多くの子はキーボード操作自体初めてですが、micro:bitのプログラミング言語は画面のタッチ操作でもできるので、生まれたときからスマートフォンやタブレットが身近にあるタッチ操作ネイティブにとってハードルは低いようです。

▲小さな子供でもちゃんとプログラムができていた

▲小さな子供でもちゃんとプログラムができていた

さらにLEDが点灯したりと、結果の成否がひと目でわかるのも子供たちの興味をひくようです。もし思ったように動作しない場合は、ブロックを見なおしてどういった処理が足りないのか、なにか間違ったブロックを置いていないか判断する力を養えます。

micro:bitのような、タッチ操作メインで手軽にプログラミングができるアイテムはほかにもリリースされています。たとえばソニーの「MESH」シリーズ。LEDや動きセンサー、ボタン、人感センサーといった単機能が割り当てられたブロック形のアイテムです。それぞれのブロックは無線で連携でき、人感センサーブロックが人を検知したら、LEDブロックが発光するといったプログラミングができます。

▲ソニーのIoTブロック「MESH」は、スマートフォンからもプログラム可能

▲ソニーのIoTブロック「MESH」は、スマートフォンからもプログラム可能

もちろんプログラミングはブロックをドラッグ&ドロップでつなげていくビジュアルプログラミンで、スマートフォンからもプログラミング可能です。


▲MESHワークショップ(ソニー・サイエンスプログラム 2017年)

さらにパソコンを使わない「CS(コンピュータサイエンス)アンプラグド」という、学習方法も提案されています。下記のビデオはニュージーランドのUC Computer Science Educationが提案しているCSアンプラグドの課題のひとつ。


重さの違う10個のフィルムケースを天秤ばかりを使って計測し、重たい順に並べるというもの。量りにのせていいフィルムケースは1個ずつで、計測回数をより少なくするにはどうすれば良いかという課題です。

ビデオでは総当たりのように重い順にみつけて並べていくよりも、まず基準となるケースを決めてそれより重いグループと軽いグループにわけてから、それぞれのグループで計測して重い順を調べる方が計測回数は少なくて済みます。これはコンピューターでいうところの「整列アルゴリズム」が学べます。

プログラミング的思考は、現代の大人にこそ必要

これまでのコンピューター教育は、キーボードやマウスを使ったパソコン自体の使い方や、ワードやエクセルなどソフトウェアの習熟がメインでしたが、2020年から導入されるプログラミング教育はそれとは大きく違うことがわかります。指定された手順や内容を学ぶだけでは、柔軟な思考は身につきません。プログラミング教育によって、課題解決型の考え方を身につけた子供が成長し、新しいサービスや社会を生み出してくれることを期待しているわけです。

さてここまで「小学校からのプログラミング教育必修化」について書いてきましたが、ポイントがプログラミング的思考、すなわち課題解決型の学習方法の習熟ならば、大人にも効果的ではないでしょうか。新入社員の社員研修などでは課題解決型のセミナーは定番となっています。

micro:bitやMESHは子供だけでなく、大人が使っても問題ありません。プログラミング言語もウェブサイトなどから無料で使えるので導入の費用も抑えられます。プログラミング教育を受けた子供が成長するのを待つのではなく、「大人のプログラミング教育」も実施、チャレンジすれば、社会の変革スピードをさらに速めることができるかもしれません。

 


取材・文・写真/中山智(なかやま・さとる)
海外取材の合間に世界を旅しながら記事執筆を続けるノマド系テクニカルライター。雑誌・週刊アスキーの編集記者を経て独立。IT、特に通信業界やスマートフォンなどのモバイル系のテクノロジーを中心に取材・執筆活動を続けている。

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