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「働き方改革」より「休み方改革」。元陸上自衛隊メンタル教官・下園壮太さんが提唱する休み方の、「3つのR」って何ですか?

2019.02.01

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2016年9月に安倍内閣が提唱して以来、耳にするようになった「働き方改革」。なかでも長時間労働の改善は重要課題とされています。
「働き方改革」とは、裏を返せば「休み方改革」でもあるのです。とはいえ我々日本人はつい頑張りすぎてしまいがち。情報化社会の急速な発展・拡大により、「見えない疲労」を抱えているビジネスパーソンも数多く存在しているのです。
そこで、最も過酷な職業のひとつである陸上自衛隊の「心理幹部」として、自衛官のメンタルケアを担当してきた下園壮太さんに、仕事の効率さえも左右する「正しい休み方」について伺いました。

現代人は原始人より、過酷な状況で生きている

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▲現在は、大事故や自殺問題への支援で得た経験をもとに、独自のカウンセリング理論を展開している下園壮太さん

——日本は2013年に国連から長時間労働について異例の改善勧告を受けたこともある「働きすぎ」な国ですが、いざ「休んでいい」と言われても、「どう休んでいいかわからない」という声が少なくありません。「上手な休み方」についてお聞かせください。

下園壮太さん(以下、下園):私は当初、「働き方改革」に対しては「労働時間に上限を設けても、結局みんな働いてしまうだろう」と少し懐疑的でした。しかし、最近、労働量自体は減ってきているように感じます。

——いわゆる「持ち帰り残業」も減ったようです。

下園:はい。ただ、世の中には仕事が楽しくてもっと働きたいという人もいます。人間は「我慢」が一番疲れるため、休日こそ好きなことを我慢せず楽しむことが原則。でも、仕事そのものが楽しい人であれば、「休日だから」といって一律に休ませられることが「我慢」につながる可能性もあります。

——それがひいては疲労につながる、と。

下園:はい。労働時間に上限を設けていたのは「楽しくないのに仕事をさせられている人」が対象だったからです。それは、働き方改革でだいぶ改善されてきた。でも、世の中全員の働き方を一斉に規制するというのは、かえってよくないと思います。

——「多様な働き方を実現する」という、働き方改革の目的からずれてしまいますね。

下園:とはいえ、好きなことならずっとやっていいとは言えません。たとえばゲームが好きだからといって、睡眠をまったくとらなければ体は悲鳴をあげてしまいます。「働く」ということよりも「いかに休みをとるか」ということが大切。逆にいえば、「休みさえしっかりとっていれば、どれだけ働いてもいいよ」といえるのです。

——勤勉な日本人には、そのほうがしっくり来そうです。ただ、そもそも現代人は昔に比べて本当に働きすぎなのでしょうか?

下園:一つ言えることは、現代人は原始時代の人間より過酷な世界で生きているということです。
原始時代の生活は過酷そうですが、そのストレスは短期的かつ肉体的です。ある行動を続けようと思っても、空腹、喉の渇き、極端な疲労などで半ば強制的にブレーキがかかっていたため、ムリが行き過ぎることはなかったと考えられます。
いっぽう現代人は、栄養や安全は確保されましたが、頭脳労働を長期的に行うことで知らない間に「ムリ」が生じているのです。
情報化社会のいまは不安が持続かつ増幅しがちです。人は不安になるほどそれを分析したくなるため、ネットで検索してはネガティブな情報を探し出し、また不安になるという悪循環を繰り返しています。
こうした疲労も、肉体労働と同じくエネルギーを消費するため、ムリがいずれ限界を迎えたら、人は破綻。うつや自殺を引き起こすのです。

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▲安心したくて検索しても、ネガティブな情報ばかり目についてさらに不安が増幅…

頑張りすぎると、嫌になってしまうという逆転現象

——見えないところで、むしばまれていくんですね。

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▲ムリからくるストレスのメカニズムを理解することが、大事

下園:はい。上のグラフの通り「ムリ」には3段階ありますが、2段階目の、それもできるだけ早い段階で対処することが重要です。

——セルフチェックは可能でしょうか。

下園:一番多いのは、まずやる気がなくなってしまうこと。エネルギーが低下しているため、よっぽど重要なこと以外には力を出せなくなってしまうのです。

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——本能的に優先順位をつけるようになるんですね。

下園:そこから回復できないままでいると、今度は「この会社にいる意味があるのか」などと思うようになってしまいます。また、人間関係も多くのエネルギーを使うため、人付き合いも苦痛になってしまう。結果「やる気のない、扱いにくい人」と、周囲からの評価も下がってしまうのです。これでは本末転倒ですね。仕事を辞めたくなってしまう原因はエネルギーコントロールの失敗というケースが、現代はかなり多いと思います。

「ムリをしていないか?」チェックリスト

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▲深酒、タバコ、人嫌い、吐き気…自分のムリの程度をチェック!

前出の図「ムリの進行の3段階」の通りムリには3段階ありますが、2段階目までに気づいて対処することが、大事です。
下記はいずれもムリの2段階目に現れる代表的な症状。
以前の自分に比べその程度が強くなっていないか、チェックしてみよう!

1 やる気がわかない
2 寝付きが悪い、眠りが浅いなど睡眠の質が低い
3 頭痛や頭重感
4 目の疲れ
5 肩コリや腰痛
6 吐き気
7 関節痛
8 めまいや耳鳴り
9 酒、タバコ、甘い物などの量が多い
10 衝動買いなどの金遣いが荒い
11 人付き合いが面倒に感じる
12 無力感
13 自分だけがひどい目にあっているように感じる
14 責任を負うことが苦痛だ
15 食欲不振

あてはまる項目が…
0〜5個……「ムリ」はまだ比較的軽度な状態。これ以上進行させないように
6〜10個……「ムリ」の2段階目に入っている。本記事を参考に、早めの対策を
11個以上……「ムリ」の2段階目末期。大至急「休み方改革」が必要

休み方の「3つのR」。重視したいのはRest(休息)

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▲3つのRを実行して、早め早めに疲労をとることが大事

——では、エネルギーコントロールという観点から、どんな休み方が望ましいでしょうか。

下園:3つのRで考えるとわかりやすいですね。
1つ目は、Refresh(リフレッシュ)。人は何かに集中していると、知らず知らず追い詰められてしまいます。そんなときに、全く違うことをすると気分転換になり、気持ちがスカッとするでしょう。エネルギーがそこまで低下していなければ、このリフレッシュだけでだいぶ元気になれますよ。

——スポーツで汗を流したり、カラオケで熱唱したり、全く違うことに熱中するようなイメージですね。

下園:はい。その通りです。
次はRelax(リラックス)。こちらは緊張をゆるめる、といった意味です。流行りのマインドフルネスもこの一種でしょうか。先のリフレッシュがアクティブ系の趣味なら、こちらは癒し系の趣味に置き換えられますね。

——ヨガや美味しいものを食べに行くのもよさそうです。

下園:そして最後がRest(レスト)です。しかし多くの方は、休日は先の2つのR(RefreshとRelax)で過ごしがち。いずれもエネルギーの消耗を抑えるという点では有効ですが、失われたエネルギーを回復する手立てにはならない。そこで重要なのが、このレストなのです。

——確かに、まとまった休みがとれると旅行に出かけがちです。楽しいのですが、休みが終わるとヘトヘトです。

下園:そうなのです。これら2つは即効性が高く、充実感が得やすい点も共通しています。そのため、多くの人がリフレッシュとリラックスで一時的に自分をごまかすのですが、エネルギーはじわじわ低下。それでも、35歳ぐらいまでは回復力が高いのでなんとかなるのですが、年齢とともにエネルギーの「収支」がどんどん崩れてくると、やがて立ち行かなくなってしまいます。レストとは「休息」。物理的に体を休めることが、現代人には必要不可欠です。

休日は自分流のRest(レスト)を探す日だと、スケジュールに入れてしまう

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▲人は睡眠をとらないと、パフォーマンスがじわじわ下がります

——具体的にはどうしたらいいでしょうか。

下園:一番重要なのは睡眠です。休日に限らず、日頃からきちんと睡眠を取ることで、その日消耗したエネルギーを少しでも回復しましょう。アメリカで行われた研究(※編集部注・ペンシルベニア大学とワシントン州立大学で2003年に行われた実験)によると、1日平均7〜8時間睡眠をとる健康な男女の睡眠時間を1日6時間に減らすと、2週間後には2日間徹夜した人と同じぐらいパフォーマンスが低下していたことがわかりました。

——日本のビジネスパーソンなら、むしろ6時間睡眠のほうが多いでしょうね。

下園:しかも、2日徹夜した場合は本人も「寝ていない」自覚があるのですが、2時間ずつ睡眠不足が積み重なっていった場合は、自分で不調を認識できなかったそうです。それでも、パフォーマンスは2日徹夜した人と同レベル。当然、仕事の効率は下がり、さらに仕事が積み重なっていくという悪循環に陥ってしまうのです。

——個人の最適な睡眠時間はそれぞれでしょうが、日中眠気が起きるようだと、睡眠が足りていないと言えそうですね。休日の過ごし方はいかがでしょうか。

下園:これも人それぞれなので、検証していただくことをおすすめします。
私のクライアントでランニングが大好きな方がいるのですが、多忙なときほど自分を追い込むように走っていました。でも、ただでさえエネルギーが低下しているところに無理やり走るためにタイムも落ち、自己否定感が大きくなってしまっていました。
とはいえ、「走りたい」という欲求を全部我慢してしまうと、感情面でのストレスがたまってしまいます。
そこで、ランニングは2kmまでにして、土日のどちらかの午前中は、あえて自分の部屋にこもり、とにかく体力を消耗せずにできることをしてもらいました。読書や音楽鑑賞、もしかしたらゴロゴロするだけの日もあったかもしれません。すると3カ月ほどでパフォーマンスが上がっていったのです。

——エネルギー消費を極力抑えることが大切なんですね。

下園:はい。ただ、レストの効果は実感しにくく、即効性もありません。ですから、手帳に休日をどのように過ごしたか記録し、数日から2週間ぐらい後の仕事のパフォーマンスで「後追い検証」をしてください。調子がいいようだったら、その休み方が合っていたということです。

——スケジュール帳の休日の予定に「何もしない」と書くぐらいがいいのですね。

下園:その通りです。理性に働きかけることが大切です。

メンバーのRest(レスト)のために、リーダーができること

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▲相談しやすいリーダーが、部下の「ムリ」を食い止めるるんです

——では、部下がきちんと休めるためにリーダーができることとはなんでしょうか。

下園:人は育児や介護のほか、ご近所付き合いやクリーニング出しといった大小さまざまなプライベートなことを抱えたうえで、仕事というマラソンに参加しているものです。リーダーには、まずそこに目を向けてほしいですね。

——すべてを含めて「一人の人間」ですよね。

下園:その点、自衛隊というのはこのプライベートなところまですごく干渉するんですよ。これは旧軍時代から伝承されてきたもので、私が若い頃は、ある隊員がサラ金からお金を借りて法外な利子に困ってしまったときに、みんなで一緒に業者に行って「高すぎる」と利子をまけさせたことも(笑)。そこまで支援するから頑張れるのです。
当時ほどではないものの、いまでも「彼はいまこういう状態で、こういう悩みを抱えている」ということは、面接などを通じて把握しています。それによって、求めるパフォーマンスの期待値を下げるといった配慮ができるのです。

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▲部下の状況に応じて「期待値を変動させる」柔軟性が必要

——彼はいま大変だから、いつもの半分ぐらいできればいいかな、という。

下園:そうしないと隊員のモチベーションが下がるだけでなく、結果的にオーバーワークになってしまい、「ムリ」の坂を転げ落ちてしまいますから。

——どこまで踏み込めるかというのは組織によって異なるでしょうが、メンバーは仕事以外にもいろいろな問題を抱えているものだ、という前提に立つことが重要なんですね。

下園:はい。そういうことをきちんと上司に相談できて、上司も対応できる関係が構築できると、職場のエンパワーメントにつながると思います。

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▲心のエネルギーを取り戻し、元気に軽やかに生きましょう

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下園壮太さんは「今の時代は何をしていても疲れる時代になってきています。戦場と同じぐらい、つらく苦しい不安を抱えているものだと思ってください」と話します。
研究者によると、2045年には人工知能(AI)が人間の知性を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」に到達すると言われています。「ほとんどのことはAIが取って代わるようになるため、人間が人間であるためには、より精神性や文化的なものが求められるようになるでしょう」(下園さん)。これは、すでにIT化が進んだ情報化社会によって「見えないムリ」が蓄積している現代人にとって、注目すべき重大なテーマです。今後ますます「3つのR」を中心にした「休み方改革」が、重要になっていくでしょう。

「よく学び、よく遊べ」ならぬ、「よく働くためには、よく休め」。
こうした自律的かつ理性的なエネルギーコントロールこそが、「よい仕事」につながっていくでしょう。


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下園壮太(しもぞの・そうた)
1959年鹿児島県生まれ。1982年、防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊入隊。陸上自衛隊初の心理幹部として、自衛隊員のメンタルヘルス教育、リーダーシップ育成に携わるとともに、多数のカウンセリングを手がける。2015年退官。現在は現職時代の経験から培った独自のカウンセリング技術の普及に努めている。
『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れを取る技術』(朝日新聞出版)、『自衛隊メンタル教官が教える 折れないリーダーの仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)ほか、著書多数

オフィシャルHP
https://www.yayoinokokoro.net/

取材・文/吉田知未、撮影/五十川満、イラスト/IKARING、インフォグラフィック/小久江厚(ムシカゴグラフィクス)、編集プロデュース/藤田薫(ランサーズ)

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