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スイッチコラム

「テレワーク制度があっても7割はまったく利用せず」。テレワーク実態調査の結果から、ビジネスパーソンがテレワークをあたりまえに選択するための組織マネジメントを考える

2019.08.20

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▲右/椎葉怜子さん 左/成瀬岳人

2019年7月25日 ワークスイッチコンサルティングは、インターネット調査を利用して『首都圏ビジネスパーソンの通勤とテレワークに関する実態調査』を行いました。
(調査リリースはこちら:https://www.persol-pt.co.jp/ws/news/news/447
本調査結果で明らかになったのは、「テレワーク制度があっても利用は週「0日」が7割、 制度だけでなく実施しやすい雰囲気や環境の整備が求められている」という実態でした。この結果を受けて、テレワークの有識者を招いてのセミナーを8月28日に実施予定ですが、セミナーに先駆けて、登壇予定の専門家にお話しを伺いました。
※本記事は、2019年8月20日に公開したものです。2019年8月28日のセミナーは、すでに終了しております。


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話し手:椎葉怜子
ルシーダ代表取締役社長、日本テレワーク協会客員研究員、大妻女子大学非常勤講師、国家資格キャリアコンサルタント。著書は「テレワークで働き方が変わる!テレワーク白書2016」(共著/インプレスR&D)、「テレワーク導入・運用の教科書」(共著/日本法令)など。

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聞き手:成瀬岳人
パーソルプロセス&テクノロジー株式会社 ワークスイッチ事業部 ゼネラルマネジャー/メディア『Work Switch』編集長。1979年静岡県生まれ。パーソルグループの中でも先進的な働き方を実験している組織「ワークスイッチ事業部」の働き方改革企画・推進を担当。

テレワークという働き方が、なぜ今、必要とされているのか?

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▲テレワークとは、ICTを活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです(椎葉)

ワークスイッチコンサルティング 成瀬岳人(以下、成瀬):椎葉(怜子)さんは日本テレワーク協会の客員研究員として推進活動をされていますが、まずテレワークについて、あらためてご説明いただけますか。

日本テレワーク協会 椎葉怜子(以下、椎葉):テレワークとは、ICT(情報通信技術=Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。「tele」は離れたところという意味で、テレフォンやテレビジョンの「テレ」と同じです。形態としては、自宅で作業をする「在宅勤務」、顧客先や移動中にパソコンや携帯電話を使って働く「モバイルワーク」、勤務先以外のオフィススペースを利用する「サテライトオフィス勤務」と、働く場所によって3つに分けられます。地域活性化や少子高齢化、政府が目指す一億総活躍社会といった社会問題の解決手段として期待されている働き方です。

成瀬:特にここ数年は、注目度が高まっていきていますよね。

椎葉:それは国や東京都が、来年の東京2020オリンピック・パラリンピックに向けた交通混雑回避のための施策の中で、テレワークを重要施策として取り組んでいるからです。2020年東京オリンピックの開会式にあたる7月24日を「テレワーク・デイ」と位置づけ、2017年からテレワークの一斉実施を呼びかけています。今年は本番の1年前ということもあって、7月22日から9月6日までの約1カ月間にわたって、約3,000団体60万人以上の参加を目指して実施しています。

成瀬:私は、テレワークは今や「事情がある人のための在宅勤務」だけではなく、多様な職種・人材がICTツールを活用して最適な場所・時間を自身で選択できる働き方になってきたと考えています。モバイルデバイスや、クラウドサービスが普及している現在、多くの方がテレワークできる環境にあると思うのですが、働く人たちはどのくらい意識しているのだろうという疑問もあり、今回『首都圏ビジネスパーソンの通勤とテレワークに関する実態調査』を実施しました。

『首都圏ビジネスパーソンの通勤とテレワークに関する実態調査』で見えてきたもの

椎葉:調査レポートを拝見しましたが、ワーカー側に立った視点で、とても興味深い内容でした。

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▲現在、あなたが勤務する会社に「テレワーク制度」は導入されていますか? (2019年最新版 首都圏ビジネスパーソンの通勤とテレワークに関する実態調査/ワークスイッチコンサルティング より)

成瀬:テレワークの実態調査は、企業向けのレポートは多いのですが、個人に向けたものが少ないと感じていました。だから今回は“ビジネスパーソン”、個人の方の実態という部分にこだわりました。疑問に対する私の仮説は、個人としてはあまりテレワークを活用できていないのではないかというものでした。それは調査結果にも表れていて、「制度が導入されている、または制度はなくても実際テレワークできる状態にある」が、400人中145人と一定数います。しかしその145人に「週どれくらいテレワーク勤務していますか」と問うと、週0日が105人もいました。椎葉さんは、この実態調査の結果について、どのような印象を受けましたか?

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▲あなたは普段週に何日「テレワーク」を実施していますか(2019年最新版 首都圏ビジネスパーソンの通勤とテレワークに関する実態調査/ワークスイッチコンサルティング より)

椎葉:そうですね。「週0日が7割」というデータは、推進する立場の人間からすると、非常に残念な結果ということになります。ただ一方で、週1日利用が24名、週7日が7名、5日が2名もおり、以前に比べれば着実にテレワーク利用者が増えてはきていることがわかりました。まだまだ少ないですし、もっと制度を利用してもらわないといけないのですが。

成瀬:調査は「通勤に対してどう考えていますか」というところから入っています。通勤対策の手段として、選択肢は「引っ越し」「時差出勤」「テレワーク」「その他」となっていて、残念ながらテレワークは3位。けっして少ない人数ではないのですが、総数が400名に対して半分もいかなかったのは、まだまだ認知度自体が足りないのかなと感じました。

椎葉:その通りですね。「テレワーク」という言葉は知っていても、具体的な働き方のイメージはわかない、という人も多そうです。総務省の調査では、テレワークを導入している企業でも約半数が、利用している社員は5%未満というデータがあります。残念ながら、制度が導入されていても利用者が少ないのが現状です。政府や東京都はテレワークの助成金も用意していますし、推進する私たちもセミナーを開催するなどしていますが、テレワークのメリットや推進・定着のための具体的なノウハウをもっと発信していかなければと感じました。

テレワーク導入組織における試行錯誤

成瀬:今回の調査では、テレワークに期待することで「移動時間のムダが削減できる」「プライベートの時間が増える」といった回答が多くみられました。椎葉さんはテレワークを推進する立場として、様々な企業と接してこられていますが、その中で予想以上の成果をあげられていると感じたケースはありますか?

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▲私が感じているのは、テレワークが定着した会社というのは、確実に次のフェーズに進んでいるということです(椎葉)

椎葉:私が感じているのは、テレワークが定着した会社というのは、確実に次のフェーズに進んでいるということです。たとえばある大手の食品メーカーさんでは、男女、管理職関係なく、多くの社員が自宅やサテライトオフィスでテレワークを実施していて、ムダな移動時間の削減に成功している。さらに、始業・終業時間を早めたことで、生活が「朝」「昼」「夜」の3区分から、昼と夜の間に「晩」という時間ができ4区分になった。「晩」の時間を利用して資格の勉強に行ったり、スポーツジムに通ったりできるようになった。これだけでも画期的なのですが、今までテレワークは無理だと考えられていた工場でもテレワークが行われているのです。報告書の作成や生産計画立案などのデスクワークを在宅勤務でおこない、何かあればWeb会議システムをつないで現場に指示を出す。テレワークがこれまでの生活や働き方の常識を覆し、新たな価値を生み出す重要なキッカケになっているのです。

成瀬:テレワークをきっかけに新しい概念が生まれ、プライベートを充実させることができたわけですね。

椎葉:それは従業員にとってのプラスであると同時に、会社にとってもメリットになっているのではないかと思います。ほとんどの仕事がそうだと思いますが、自分が生活者としての立場を理解していることは、とても重要なことです。たとえば食品の会社であれば、毎日ちゃんと食事と向き合う時間を作ることはマーケティングの発想にも大きく関係してくるはずです。

成瀬:なるほど。一方で課題も見えてきています。もっとも多かった回答は「オンとオフの切り替えができない」です。これはセルフマネジメントの問題ですね。個人的に気になっているのは、次いで答えが多かったコミュニケーションについてです。

椎葉:特に管理職の方たちは大変ですよね。今までは同じフロアに席があって、「わからないことは直接聞いてね」でよかったのが、テレワークになるとそういうわけにはいきません。LINEやチャットといったコミュニケーションツールに対して、50代以上の管理職世代はまだ抵抗のある方が多いのですが、これからはあたりまえのように使われるようになってくるはずです。管理職の方にも新しい価値観を受け入れる度量が必要となってきます。

成瀬:私の組織も20代の若い世代が多く、しかも全員がテレワーカーです。目的に応じて、どこで仕事をするのかを、オフィス、家、サードプレイスも含めて自分で考えようと。するとコミュニケーションは必然的にチャットでのやりとりが多くなってきます。チャットはものすごく効率的で便利なツールなのですが、今度は人と人のコミュニケーションが希薄になるのではないかという不安が出てきました。

椎葉:それは私もすごく実感しています。チャットはスマホからも簡単にやりとりできるし、同期と非同期の中間のような感覚で使いやすいのですが、どうしても用件のみになってしまう。プライベートな話をしたくなる時もありますが、しづらいし、してはいけないという意識もある。

成瀬:そこで弊社では「日常会話の部屋」というものを作りました。ビジネスチャットは、「導入してはみたけれど普及しない」という話をよく聞くのですが、我々は会話の代替と考えています。「昨日のお客様との飲み会がすごかった」みたいな(笑)、そういうこともチャット上でやっています。またスタッフとは週に1回くらいしか顔を合わさないのですが、毎月1回は(オフラインで)食事会をやろうと決めています。8割くらいの人間とはそこで会うことができます。

椎葉:チャットで雑談する場を用意するというのはすごくいいアイデアですね。また実際に顔を合わせて雑談できる場を、組織として意図的に作られているのも素晴らしいと思います。

成瀬:ありがとうございます。もちろん飲み会ばかりではなくて(笑)、社内勉強会、部内勉強会のようなものを、若手中心に運営してもらったりしています。意図的に集まる機会を作ろうという意識は持っています。

椎葉:テレワークが普及することによって、あらためて社員同士のコミュニケーションについて考えるきっかけになったんですね。今までは時間のわりに密度が低い会議などもあったと思います。それが週に1回しか会わないから、「この1時間で、ここまでは絶対に進める」という気迫が生まれる。一方で雑談の機会が減るから、そこは別途補完しようと。成瀬さんの会社では、新しいコミュニケーションに向けたマネジメント変革が始まっているんですね。

組織マネジメントから見る「利用しやすい雰囲気作り」

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▲あなたが「テレワーク」という働き方をする上で、会社に整えて欲しいことは何ですか(2019年最新版 首都圏ビジネスパーソンの通勤とテレワークに関する実態調査/ワークスイッチコンサルティング より)

成瀬:今回この調査を行って良かったなと思っているのが、最後の問い、「テレワークをするうえで会社に整えて欲しいこと」についてです。多かったのが「利用しやすい雰囲気作り」でした。これだけ多くのビジネスパーソンが期待しているという事実を、今後企業側にどのように、具体的にお伝えしていこうかと考えています。椎葉さんはテレワークの中でも組織マネジメントをテーマにされていますが、「利用しやすい雰囲気」「上司の理解」といった意見が個人から出ていることに関してご意見はありますでしょうか。

椎葉:私も関わっているのですが、国土交通省もワーカー視点からの調査を平成29年に行っています。テレワークの模範になるような企業が対象で、ワーカーがテレワークに感じている不安に対して、「マネジメント」「システム」「制度」の3つの面からどのような取り組みをしているのかを調査しました。システムの整備や制度の策定は比較的取り組みやすいと思うのですが、テレワークを利用しやすい雰囲気づくりは、後回しにされがちです。国土交通省の調査でも、テレワークの定着が進んでいる企業では、「利用しやすい雰囲気づくり」や「上司の理解」にマネジメントの観点から積極的に取組まれていると感じました。

成瀬:働き方が変わっていく中で、管理職も新しい観点や価値観が必要になっていると現場にいて感じます。長く管理職を経験されてきている方になってくると、これまでと異なる働き方の制度導入に対して、抵抗勢力と言われることがあります。今までは朝早くから夜遅くまで、決められた時間に決められたオフィスに来て仕事をすることが良しとされていたので、テレワークの推進は、価値観を根底から覆されるように感じてしまっている。もちろん彼らは彼らで、それぞれの立場で仕事を頑張っているのですが、ただやはり変わらなくてはいけないという中では、すごく悩んでいる方も多い。

椎葉:たとえば先ほどのチャットですが、管理職の方の中には、チャットは部下が何をやっているのかわからなくて不安だという人がいます。もっと単純な理由で、新しいアプリケーションを導入するのが面倒だと考える方もいらっしゃいます。一方で若い人は新しいツールを使うことに抵抗がありません。便利だと感じればどんどん使ってみたいと考えている。だからこそ部下が「こういうのを使ってみたい」と言った時に、上司は否定せず、応えられるようにITリテラシーを磨いていくことが大事なんです。若い人が意見を言いやすい環境を作ることが、まず第一歩。これまでのやり方を変えていくことはとても勇気がいることですが、上司、管理職自体の脱皮、成長が求められてきているというのはすごく感じます。

管理する側がテレワークを“自分事”として捉える

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▲将来の働き方の理想像をイメージすることも大事です(椎葉)

椎葉:私は企業の経営者や働き方改革の推進リーダー向けの勉強会を定期的に開催していていますが、テレワークに真剣に向き合っている企業に共通しているのは、マネジメント層、管理職の意識改革の部分で、かなり手厚い働き方改革の研修をやっておられることです。テレワーク推進担当者は、「制度を作りました」「社内報を出しました」ということで達成感があるかもしれないのですが、それだけでは制度が使われることはまずありません。やはり現場の上司が「使いましょう」という雰囲気を作り出さないと利用されない。そのために管理職向けの働き方改革であったり、テレワーク研修であったりを、頻繁に開催している会社が多いという印象です。

成瀬:そういった企業は、具体的にはどのような対応をしていらっしゃるのでしょう。

椎葉:管理職の方に、最低1回のテレワークを義務付ける会社が多いですね。そうすることで、管理職の方がテレワークを自分事として認識することができる。さらに、テレワーク経験がある管理職やグループマネージャーに中心となってもらって、自分のグループの働き方について考えるワークショップを開催してもらったり、テレワークの推進に協力的なグループマネージャーの組織を選んで、トライアルを実施して成功事例を作り、他の組織に横展開する、といったことも行われています。

成瀬:管理職やグループマネージャーに、テレワークを自分事として感じてもらう。とても大切なことだと思います。

椎葉:目先の働き方でテレワークを導入してしまうと、どうしてもイメージがつきにくい。そこで「この働き方で10年先も本当に大丈夫なのか」という発想が必要になってきます。たとえば30代後半くらいになってくると、10年先の40代後半、50代が現実的に見えてきます。「親の介護があるかも」「郊外に家を買っているかも」など、いろいろな制約を意識せざるを得なくなってくる。さらに10年後に入ってくる新入社員は、長時間の残業や毎日出勤するという感覚はなくなっているでしょう。そこを認識できれば5年先、10年先、将来の働き方の理想像がイメージしやすくなるのではないでしょうか。

成瀬:そのためには企業側の努力も必要なのではないかと思います。制度を作って満足するのではなく、どういう意図で作ったのか。どう使ってほしいのか。そういう部分を具体的に伝えていく。研修を1回やって終わりではなくて、何かの機会があるたびに伝え続けていく。変化するまではそういう機会を作っていくというのは、会社側の努力ではないかと思います。ただし、これは画一的にこうすればいいというやり方はありません。会社ごとに、テレワークを必要とする理由や根拠があり、導入後、10年先どうなっていくのかというビジョンを明示できるかが大事になってきます。

自立自走型の働き方で求められるのは現場の判断力

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▲現場で起きていることは、できるだけ現場で判断してほしいと思っているんです(成瀬)

成瀬:自分の会社の話で恐縮なのですが、実は毎週オンラインで実施している管理職会議を、オンライン任意参加でメンバーにも参加してもらっています。発言しているのは管理職だけなのですが、全員が聞いていいよと。ここで「このままではここの数字が達成できない」とか、「この問題はどうするの?」みたいな会話を、全部公開しています。

椎葉:とても大胆でユニークな試みですが、なぜそういうことをしようと思ったのですか?

成瀬:従来型の日本の組織は、上で決まったことに対して「これは伝えよう」「これはまだ伝えなくていい」という情報統制と指揮系統でなされてきました。しかし弊社の場合は社員に自立自走してもらわなければいけないので、現場で起きていることは、できるだけ現場で判断してほしいと思っているんです。その判断の数を増やしてほしいですし、判断できる難易度も上げてほしい。上司の指示を仰いだうえで、意思決定して判断するというやり方は、管理職の負担を増やすことになるし、現場から「判断する機会」を奪うことにもなります。ではなぜ判断できないのか?それは“現場が経緯や背景を知らないから”ではないかというのが私の考えです。

椎葉:管理職だけでなく、ワーカー側の意識改革も含めての施策ですね。会社が向かっている方向であるとか、今現在の温度感のようなものがリアルタイムでわかれば、自分でも判断できるだろうということですね。管理職同士で話している内容も、「別に秘密にしなくてもいいんじゃない?」というものも案外多いですし(笑)。

成瀬:実はもうひとつ、評価の納得性という面も考えています。会社・職種にもよりますが、我々のようなコンサルタントという職種では、自分だけでは決められないアサインのツボのようなものがある。「決められたことをやっているのになぜ評価されないのか」という話は、ずっと昔からあります。でもそれは、ここまでの背景や、なぜその人に任せるのか、なぜそれが今なのか、すべてに意図があるんです。そういう経緯や流れを評価面談の時に初めて聞かされるのと、日常の中で認識できていることとでは違うのではないかと。

椎葉:まさに経営者の方々との研究会でも、これからの人材マネジメントの課題で、評価の納得性というのは重要なキーワードとしてあがっています。これまでは目の前にいる部下の勤務態度や作業過程なども含めた、主観的な評価が多かったと思います。それがテレワークを活用すると、部下がどこで働いていようが評価をしていかなければいけない。上司の評価スキルのアップが必要になるということですね。部下も時間ではなく、内容で評価してもらいたいと考える。そうなると、どこを具体的に評価したのかを知りたくなるわけです。会社の目指す方向性やアサインの意図、そういうことが日常からインプットされていると、お互いにとってハッピーなのではないかと思いました。

管理職に求められる新しいマネジメントスキルとは

椎葉:テレワークをきっかけに、会社が取り組むべき課題が見えてくるということはあると思います。特に社員の働き方が自律的に多様化してくると、マネジメントする管理職側も価値観を変えていかないといけません。

成瀬:2年ほど前に、約半数がママさんというチームのマネジメントをしていたのですが、実はあまりうまく機能させることができませんでした。後々気づいたのですが、彼女たちが言い続けていたのは「何を期待しているんですか」「具体的に要求してください」と、この2つのことに集約されていたんです。それは指示とは違うんですよね。組織としての目的やミッションをきちんと明示して、そのうえで個人レベルでの期待や要求を明確化していく。この考え方は今後、多様な方の活躍を支援していく中で、重要になってくるのではないか思っています。

椎葉:そこは今回の答えかもしれませんね。短時間労働の方であれば、短い時間で成果を確実に出して認められたいという思いが強いはずです。だからこそ個人レベルでの期待値を明確にして、結果に対して具体的なフィードバックをする。それはワーカーの成長にもつながっていきます。ちゃんとしたフィードバックがなければ、部下は自分がやっていることがどう評価されているのか判断できないし、成長を求められていないと感じてしまいます。そんなことが積み重なっていくと、モチベーションの低下につながるのは明白です。

成瀬:グサッときます(笑)。価値観が違えば、それぞれなりのパフォーマンスの出し方も当然違ってくると思います。その先に生産性の向上があると捉えると無視はできないですね。

椎葉:男女、世代、個人個人を見ていくという、非常に難しいマネジメントの時代になってきたかと思います。そこを超えたところに、会社としての「生産性向上」や、働き手個人の「幸福度」があるのではないでしょうか。

変化する組織マネジメントと、生産性向上に向けて

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▲多くの企業の中期経営計画で「テレワークを導入して生産性向上」と掲げられるようになってきています(成瀬)

成瀬:8月28日に、パーソルプロセス&テクノロジー株式会社ワークスイッチコンサルティング主催で行うイベントは、「働き方改革時代の生産性向上」と銘打っています。今、「生産性向上」というキーワードは、「テレワーク」という言葉とセットのような形で、バズワードになっています。
イベントリンク(https://www.persol-pt.co.jp/ws/news/seminar/381

椎葉:確かに、テレワーク導入企業と未導入の企業を比較した調査で、「導入企業では労働生産性が1.6倍になった」という総務省のデータも話題になりました。

成瀬:そのようなデータが出ていることもあって、多くの企業の中期経営計画で「テレワークを導入して生産性向上」と掲げられるようになってきています。それ自体はいいのですが、気を付けないといけないのが、導入さえすれば生産性が向上するわけではないということを理解されているかどうかです。「テレワークを導入したのにダメだった」というような風潮になるのは避けたいところです。

椎葉:おっしゃられたように、「テレワーク導入=生産性向上」というのは、少し乱暴な考え方だと思います。テレワーク導入による経営効果を測る指標は理論的にはまだ確立していないんですよ。この指標を使えばテレワーク導入の生産性向上を把握できる、という正解がない。テレワークを導入して経営効果をあげている企業では、業務の見える化・効率化が徹底的に行われているという共通点があります。ビジネスチャットやWeb会議システムなどのコミュニケーションツールの活用にも積極的ですね。テレワークによる生産性の向上は、意識改革やシステム・制度の整備といった土台ができた上で、幅広い社員が自律的に活用してこそ、実感できるといえます。

成瀬:現時点では、テレワークの導入と生産性向上とを直接的に関連付けることは、時期尚早ということなんでしょうね。画一的に推し量ることは難しい。

椎葉:そうですね。ただ、そうはいっても経営層はテレワーク導入による定量的な効果を知りたがります。そこで、各社のテレワーク推進リーダーの方々は、社員満足度調査の結果や、印刷代・旅費交通費・賃料の削減額、定着率や採用力の向上など、各社の実態に合った指標を悩みながら設定されています。これもテレワーク推進リーダーの方々からの学びなのですが、テレワークの利用条件を「出社時よりも生産性が向上すること」とするとハードルが上がりすぎてしまう。だから「出社時と同等、またはそれ以上の生産性を保てること」とするのがテレワークを推進、定着させるポイントだそうです。

成瀬:今回のイベントでは、「テレワークを導入すれば生産性が向上します」と言いたいわけではありません。まだ明確な解が出ていないことにまで踏み込んで、それぞれの「解」を見出していただくためのヒントを投げかけていきたいと考えています。椎葉さんにもご登壇いただく予定ですが、椎葉さんが取り組まれている「組織マネジメント」という視点からお話いただければと思っています。

テレワークの普及が「幸福度」を高めてくれる?

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▲テレワークによって社員の幸福度を上げることができれば、定着率や採用力向上の効果を生み、企業の持続的な成長を促してくれると考えます(椎葉)

成瀬:ところで先ほど出た「幸福度」という言葉を、最近よく耳にします。実は私が今後に期待しているキーワードのひとつなんです。現在だけでなく、数世代先までの欲求を満たす「持続可能な社会」が標榜される中、幸福度がどのように指標となっていくのか注目していきたいと思っているのですが、テレワークと幸福度の関係については、どのようにお考えですか?

椎葉:テレワークは生産性向上とセットで語られがちですが、個人の幸福度との関係にも注目してもらいたいなと思います。テレワーク導入企業のテレワークを利用する社員向けのアンケート結果を見ても、テレワークが主観的な幸福度を上げることは間違いないと思いますし、海外の複数の調査でもテレワーカーの方が主観的な幸福度が高いという結果が出ています。テレワークによって社員の幸福度を上げることができれば、定着率や採用力向上の効果を生み、企業の持続的な成長を促してくれると考えます。

成瀬:先ほどの食品会社の例では、新しい価値観の発見というお話もありました。こういったことも幸福度を高めていく要因になっていく気がします。制度を導入することで生まれる想定外の成功例は、これからも次々と出てくると思います。それらが具体的につながっていくようになれば、テレワークの捉え方も大きく進んでいくのではないでしょうか。

椎葉:ある会社では、テレワークを活用している人の働き方を、具体例として社内報や社内ポータルで継続的にアップしています。「この部署ではこういう使い方をしています。参考にされてはいかがですか?」と。実際にテレワークを経験した方の情報を共有していくことで、自分に合った働き方の発見につながっていきます。これが企業間を超えて共有されるようになっていけば、テレワークが一層活性化していくだろうと期待しています。

成瀬:日本は圧倒的に少子高齢化が進んでいて、労働者人口は減少する一方です。テレワークという働き方は、政府が推進している「一億総活躍社会」とも合致しているし、今後も加速的に進んでいくと思われます。最後に、椎葉さんのお立場から、あらためて今後のテレワーク推進についての考えをお聞かせください。

椎葉:日本の現状からテレワークがより推進されていくことは間違いありませんが、成瀬さんもおっしゃっていましたが、今やテレワークは「事情がある人のための在宅勤務」だけではありません。企業の立場としての生産性向上。ワーカー個人の立場からの幸福度。その両方で、より高いレベルで定着させていくのが私たちの役目だと思っています。そして個人的な希望ですが、オリンピックのレガシーとしてのテレワーク…後世に残す遺産として、テレワークという新たな働き方を定着させたいという希望があります。1964年のオリンピックでは、新幹線やモノレールといった新しいインフラが後世に残りました。2020年は、私たちの“働き方”というソフトをレガシーにしましょうと。その実現のためにも、絶対に後戻りはしないという決意で進んでいきたいと思います。

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インタビュー/成瀬岳人、文/小貫正貴、撮影/土井一秀、図版/小久江厚、編集/藤田薫(ランサーズ)
図版出典/2019年最新版 首都圏ビジネスパーソンの通勤とテレワークに関する実態調査(パーソルプロセス&テクノロジー株式会社 ワークスイッチコンサルティング・発行)

ワークスイッチコンサルティング主催セミナー Work Switch DAY 2019「働き方改革時代の生産性向上」

本記事でお話いただいた日本テレワーク協会客員研究員 椎葉怜子さんをゲストにお迎えし、「テレワーク導入後の組織マネジメント」をテーマにパネルディスカッションを行います。
他にも、「働き方改革時代の生産性向上」についての最新情報を学べるセッションを開催します。第2部では、登壇者や他の参加者と情報交換を行っていただける懇親会を開催します。皆さまのご参加をお待ちしております。

Work Switch DAY 2019「働き方改革時代の生産性向上」
日程:2019年8月28日(水) 15:00~19:35 (受付開始 14:30)
場所:渋谷ソラスタコンファレンス4階
参加費用:無料
URL:https://www.persol-pt.co.jp/ws/news/seminar/381
※ワークスイッチコンサルティング主催セミナー Work Switch DAY 2019「働き方改革時代の生産性向上」は、終了いたしました。

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