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インサイトレポート

「隣の芝生は青い」を検証する社員シェアリングサービス。個人と企業、それぞれが「複業力」を高める社会実験とは?

2020.03.31

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▲左から佐野創太さん、松田光憲さん、中村寛大さん、松井健太郎さん、宮先慶徳さん、五十嵐政貴さん

「他社と人材交流がしたいが、社員が流出してしまうのではないか」「転職はしたくないが、他社で経験を積んでみたい」
組織と個人は常に「隣の芝生が青く見える」悩みを抱えています。では、本当にその芝生は青いのか?その「誰もが知りたいけれど踏み切ない領域」で実験を続けている集団が『Tonashiba(トナシバ)』です。
Tonashibaを利用すれば、個人は企業に在籍しながらも、他社の研修やプロジェクトに参加して新たな知見やスキルを得ることができ、相性のいい企業に出会えれば転職する道も選べる。企業側も、自社にはない多様な知見やノウハウを取り入れることができる――そんな仕組みを実現しているTonashibaについて、立ち上げを手がけた松井健太郎さんをはじめ、プロジェクトメンバーの皆さんにお話を伺いました。
社会実験集団だからこそ見える「これからの企業と個人の関係性」とはどのようなものなのでしょうか?

「社員シェア」「お試し転職・社外留学」などで越境を促す理由

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―― まず『Tonashiba』とはどういうシステムなのかを教えてください。

松井健太郎さん(以下、松井):2018年1月にリリースした、個人と会社と仕事の新しい関係性を支援する「社員シェアリングサービス」です。

五十嵐政貴さん(以下、五十嵐):サービスとしては、「社員シェアリング」、「副業・複業のマッチング」、「お試し転職」などです。でも、これらのサービスを提供することが目的ではないんですよ。あくまで手段です。

松井:というのも、Tonashibaは「社会実験」なんです。個人と企業、それぞれの「複業力」を高めることで、個人と会社の関係をよりよいものにしたい。それが社会に広がっていけばいいな、と考えています。

―― なぜ「複業力」を高める必要があるのでしょうか?

松井:いまは終身雇用の終わりを大手企業が示唆する時代だからです。個人は一社だけでなく複数の会社で通用する力を身につける。企業は社員だけで価値を出すのではなく、多様な人材を受け入れて価値を出す。これが「複業力」です。

―― どんな背景から『Tonashiba』は生まれたのでしょうか?

松井:Tonashiba設立時の運営母体は、不動産ソリューション事業を展開するダイヤモンドメディア株式会社なんです。その会社の創業者の武井浩三さんとはランニング仲間でして。ある日、カフェで会社組織や人材採用について議論していたとき、「会社を辞めることが『悪』であるという考え方を変えられたら面白い」という話になりました。
ダイヤモンドメディアには、もともと「個人の能力を一番活用できる場で働く」ことを重視する文化があり、メンバーが他社に出向してそのまま移籍することも複数回あったんです。
そこで、「もっと柔軟性のある働き方を世の中に提供したい」という想いが一致。僕は業務委託契約で『Tonashiba』の事業化に取り組み始めました。

―― Tonashibaは何を目指しているのでしょうか?

五十嵐:僕らは「循環装置」であり続けたいと思っています。水って、流れないとよどんでしまいますよね。人も組織も、流れなければよどむ。だから流れを適切に作るための装置を提供するのが僕らの役割だと考えています。

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佐野創太さん(以下、佐野):「人と組織のよどみ」で例えると、個人と企業の関係が「正社員限定」だとよどみやすい。本当は転職した方が活躍できるのに、企業にしがみついてしまっている状況は散見されます。企業側もアルムナイ(退職した人材の集まりを企業内でつくる仕組み)の流れはできつつも、転職した人を裏切り者扱いしてしまう傾向は根強く残っています。

宮先慶徳さん(以下、宮先)副業・複業、フリーランス、業務委託など、よどみを解消する方法はいろいろあるので、それを形にしていきたいと思います。実は、ここにいるメンバーたちも全員、他に仕事を持っていて、フリーランスの立場で契約の形は業務委託としてTonashibaに参加しているんです。

―― みなさん自身の働き方も実験的なんですね。

中村寛大さん(以下、中村):そうなんです。僕は、現在のTonashibaの運営母体でもあり、海外インターンシップ事業を行うタイガーモブ株式会社のCOOを務めながら、Tonashibaのメンバーでもあります。自分たちが実際に複数の職場で活動する「越境」しているから、越境を通じて個人がいかに自分の可能性を広げられるかを実感しています。

松田光憲さん(以下、松田):私はインターネットサービスを運営するオズビジョンという会社に所属しながら、Tonashibaメンバーでもあります。組織の立場から見ると、「多様性ある組織にしたい」と考えてもどう受け入れるかは大きな課題です。私はTonashibaを通じて越境してきた人材を受け入れた経験があるので、企業に対しても「越境人材を受け入れると会社はどう変わるのか」を実体験ベースでお話しできます。

「自社にない知見」と「メンバーの成長促進」、社員を越境させる会社の「欲張りな意図」

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―― 『Tonashiba』に賛同している企業は、どのような理由・目的で利用しているのでしょうか?

松田:Tonashiba人材を受け入れた立場から話すと、メンバーの成長機会をつくりたい、新しい刺激を与えたいという意図があります。企業側は「自社内での経験だけでは、メンバーが多様な視点を身に付けられない」という点を課題視しています。

松井:オズビジョンでは「オフィス移転を他社の人材を交えたらどうなるか」実験をしたんですよね。

松田:はい。本社の移転を計画していて、Tonashibaを通じて、他社さんから本社移転プロジェクトの経験を持つ方に週1回・2ヵ月間来ていただきました。

―― 他社の人材を受け入れてみて、実際にいかがでしたか?

松田:彼女に出会えなければ、無事移転できていたかどうかわかりません(笑)。オズビジョンにはない経験と知識をお持ちの方が来てくださったので、移転を主導してくださったと言っても過言ではありません。

宮先:新たな事業や施策にチャレンジする際、その知見・スキルを持った人材を採用するのが難しいケースが多いですよね。そこで、Tonashibaを通じて、他社から一時的にプロジェクトに参加してくれる人材を迎えるというわけです。

佐野:「転職したいわけじゃない。自分の力が他社でも通用するか試したい」という方はたくさんいらっしゃいます。いわゆる転職潜在層と言われる方もこういった傾向があります。企業としては転職市場や正社員という枠組みの中では出会えない人材に出会えるメリットは大きいはずです。

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―― でも、企業側としては、社員を他社に送り出すことに対し、「転職されるのでは」という危機感を持つということはないですか?

松井:もちろんありますよ。「他社に行ってみて、そちらのほうが魅力的だったら転職されてしまうんじゃないか」という懸念ですよね。そういう企業さんにはTonashibaはフィットしないし、利用もされません。

五十嵐:Tonashibaを活用している企業のトップや人事責任者の方々は、自社のために働いてもらうだけでなく、メンバー一人ひとりの「最適な成長」を大切にしています。「より自分が輝ける場所がうちでなくて他社なのであれば、そちらで頑張ったほうがいい」と、素直に背中を押せるような会社さんが利用してくださっていますね。

個人の想い、「転職まではしたくない。でも自社にはない経験を積みたい」

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―― 個人はどんな想いを持って『Tonashiba』を利用していますか?

中村:多いのは、「自社ではできない経験をして、新しい知見・スキルを得たい」、「社外に出たとき、自分のスキルが通用するかを確かめてみたい」という理由です。

松田:オズビジョンの移転を成功させたてくれた彼女は、「自社だと積みづらい総務の知見を積みたい」と考えてオズビジョンに越境してくれました。自社では積めない経験を探している方は多いですよね。

五十嵐:オズビジョンのWantedlyに記事を投稿したところ、それまでで一番バズったと聞きました。「第三者目線」で見たことでその会社の魅力に気付けたんです。

―― 他社に越境したからこその効果のひとつですね。

佐野:自社では当たり前になっている習慣や文化が、他社から見たら特別に感じることがある。他社の人を迎えることで、初めてそれに気付くことができ、自社を発信する際の「コンテンツ」になります。

中村:そんなふうに、受け入れる企業側が自社の特性や魅力を再発見できるというのも、会社と会社の垣根を超える越境の効果の一つです。

宮先:普段は、仕事に合わせて自分をコントロールしていたりしますよね。でも、本来は逆であるべきではないかと思います。自分の強みを発揮する場所はどこかを探し、そこに合わせにいくほうがいい。

松井:個人が能力を開放する仕組みとして、Tonashibaを実験的に使ってもらえると社会的にも意味があると思っています。個人がそれぞれの能力を最大限に発揮したほうが、より生産性が高まり、経済が活性化する。何より人生が楽しくなる。本来、「働く」って楽しいことだと思うんですよ。でも、それを押し殺してしまっているところがあるな、と思っていて。

――自分を押し殺したままで働くのは辛いですね。

中村:今の会社は好きだけど、本来の能力を発揮できる場ではない、ということもある。だったら、会社では心地良い環境で好きな仲間と一緒に働いて、能力を発揮したり伸ばしたりするのはTonashibaを通じて他社でやって……と、そんなふうに両立・共存させることができれば、それもいい人生だよね、と思いますね。

松井:スキルを活かす&伸ばす目的以外では、「特に明確な目的はないけれど、何か新しいチャレンジがしたい。刺激を得たい」という人も多いんです。他社に行くと、使っているツールも異なりますよね。

五十嵐:チームのコミュニケーション手段一つとっても、Slackを使っていたりkintoneを導入していたり。そのツールを選んでいる背景には細かな考え方の違いがあったりして、意外な気付きを得られるんです。

佐野:自分が普段当たり前にできていることが、他社に行くとできる人がいない……など、自分自身の強み・スキルの価値を認識できるのもいいですよね。

宮先そう、どんなに美味しいラーメンも毎日食べていると慣れて飽きてしまうのと同じ(笑)。「気付けなくなる」ということを防ぐという点でも、『Tonashiba』を経験するのは有意義だと思います。会社のことでも自分自身のことでも、良い点も悪い点も「気付ける」ことが大事。

「多様性を活かす会社」になるために必要なことは「違和感・異物感」の投入

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―― 企業と働く個人の関係性は、この先、どのように変わっていくと思われますか?

松井:今後、マーケットで勝っていくのは「多様性を活かせる会社」だと思います。個々の強みを活かして伸ばすことを応援する企業は、働く人にとって魅力的。優秀な人材を引き寄せて、発展につなげられるでしょうね。

松田:「個」が強くなっていくはずです。これまでは「会社に所属する」という関係でしたが、逆になるような気がします。

佐野:企業と個人が「何度も出会い直す」関係が生まれるのではないでしょうか。プロジェクト終了と同時に会社を離れても、また新しいプロジェクトが持ち上がったときに再び参画する、といったように。僕もそうなんですが、「出戻り社員」は実際に増えていると感じます。

宮先:「雇用関係」というより「メンバーシップ」という要素がますます強くなっていくのでは。経営の考え方を重視すればするほど正社員を雇わなくなりますよね。実際に正社員ではなく必要な専門スキルを持ったフリーランスで組織を構成し、パフォーマンスを最大化する会社も現れています。

―― Tonashibaとして今後チャレンジしていきたいことを教えてください。

松井:「社会実験を続ける」。これはこの先もずっと変わらないですね。僕らの存在意義ですから。今までやったことがないことをやる。冒頭で触れたとおり、大手企業でもTonashiba導入の検討が進められていますので、それも新しいチャレンジとして楽しみです。

佐野:「誰かがやってくれないかな」と待っている領域ってありますよね。そこへ先駆けて踏み込んでいきたい。先端の事例を創り続けていきたいです。

五十嵐:僕らがやっていることって、「違和感・異物感の提供」ということなんですよね。

松井:企業内に「Tonashibaエンジン」を搭載することで、変革を仕掛けてみたいんですよね。例えば、僕らが「チームTonashiba」として企業に入って、化学反応を起こす。そんな取り組みにワクワク感を抱く人たちと、一緒に新しいことをやりたいと思います。

中村:異質な人と、異質な環境で、異質なことをやれば、自分がこれまで積み上げてきた「当たり前」が通用しない場面にも出会う。その瞬間の「あれ?」によって、リフレクション(内省)、リフレーミング(視点への変化、枠組みの見直し)が発生する。そんな新しい気付きや発見の機会を「社会循環装置」である『Tonashiba』でつくっていきたいですね。


松井健太郎(まつい・けんたろう)
Tonashiba企画/運営全般。普段は「毎日出社する会社が違う」スタイルで、主に人事関連の仕事をしたり、地域活性のNPOの運営を行う。2016年からフリーで働き始め、人と企業と仕事のより良い関係性を追求するためにTonashibaを立ち上げた。

佐野創太(さの・そうた)
Tonashiba 編集長。越境する中で身に付けたコンテンツをつくる力を応用して「おうね。」編集長、eumo note編集長を兼ねる複業家。フィンテックスタートアップ「株式会社TRUSTDOCK」の採用広報のメンバーでもある。また、ゴールデンボンバーやちゃんみなといったミュージシャンから、ビジネス書のベストセラー作家や経営者のインタビュアーでもある。趣味が仕事になったパターン。

松田光憲(まつだ・みつのり)
システムエンジニアからスタートし、上場準備を契機に管理部門へシフト。2社で2度のIPOを経験。社会人大学院の修了に合わせてオズビジョンに参画。オズビジョンとはハーフランス(業務委託)契約で、ワクワクした組織づくりを担当。

中村寛大(なかむら・かんだい)
越境学習エバンジェリスト。海外での越境機会を提供するタイガーモブ株式会社のCOO。学生インターン時の友人、佐野に誘われて松井と話をしているうちに、面白い仕掛けをしていると感じ、タイガーモブをTonashibaの運営母体に、自身も参画。

宮先慶徳(みやさき・やすのり)
2007年 (株)リクルート入社→2014年からwebマーケベンチャーのCOOをやりつつ、Rettyへ越境。その後Rettyにジョイン。セールス部門立ち上げからコミュニティマネージャーやら何から何まで→2019年に独立。CAMPFIREやスタートアップ4社を支援中。

五十嵐政貴(いがらし・まさき)
一般社団法人法人営業デジタル化協会を立ち上げて、協会の代表理事をやりつつ、名刺は常に両手両足分持ち歩いている。100年時代の働き方である「インディペンデント・コントラクター※」として、Tonashibaに参画中。※引用:『LIFE SHIFT ――100年時代の人生戦略』

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Tonashiba

取材・文/青木典子 撮影/渡辺 健太郎

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