日本のWebサービスは『三方良し』のバランスを意識すべきだ!連載第四回 松尾茂起(ウェブライダー)

2017.07.24

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Work Switch編集部です。「日本のWebサービスは**だ!」をテーマにした連載、第四回目の書き手はウェブライダーの松尾茂起さんです。京都のWebプランニングチーム「ウェブライダー」や音楽レーベル「京都音工房」で代表を務める松尾さんは、日本のWebサービスについてどう考えているのでしょうか?さっそくご覧ください。

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日本のWebサービスは『三方良し』のバランスを意識すべき

こんにちは。京都でWebマーケティングにかかわる仕事をしている株式会社ウェブライダー代表の松尾茂起と申します。最近は「沈黙のWebライティング」という本を書かせていただいたり、「Eternal Writing(永遠のライティング)」という曲を発表したりしています。

今回、「日本のWebサービスとは●●だ」という壮大なテーマで記事を書かせていただくことになり、正直、私のような者がそんな大きなテーマを論じていいのか、ビクビクしています。しかし、せっかくご依頼いただきましたので、清水の舞台から飛び降りる覚悟で、私が考える「日本のWebサービスの在り方」について書いてみたいと思います。

とはいえ、実は私、日本のWebサービスにはあまり詳しくありません。チャットワーク、はてなブックマーク、楽天、ぐるなび、食べログ、ぺこったー、Twitter、Facebook、出前館、出前館、出前館…。日々いろいろなWebサービスを使っているのですが、今や海外のWebサービスもガンガン日本に入ってくる時代。自分が使っているサービスが日本発であるかどうかに着目したことはあまりありませんでした。

よって、今回の私の記事では、日本のWebサービスにフォーカスを当てるというより、「日本という国でWebサービスを展開する際に、心に留めておいたほうがよさげなこと」を書き綴りたいと思います。そこでテーマとなるキーワードがこちら。

『三方良し(さんぽうよし)』です。

『三方良し』とは、「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」を表した言葉。近江商人が大切にしていた商売の考え方です。日本においては、この『三方良し』のバランスがとれているビジネスは大成するといわれています。今、私が感じているのは、日本のWebサービスに今後必要なのは、この『三方良し』のバランスをうまくとることなのではないか?ということです。

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Uber(ウーバー)に表示された「4.71」という数字の意味を知ったときの衝撃

私は最近「Uber」というアプリをよく使います。「Uber」とはハイヤーや高級車のタクシーを配車してくれるサービス。アメリカで生まれたアプリで、今、世界各国で展開されています。日本では、東京と京丹後、高尾で呼ぶことができます(※)。(※2017年6月現在)

私は仕事柄、いつでもどこでも仕事をしたいという性分の持ち主で、移動中も、アイデアが湧けばPCを開きます。以前は電車内でもよくPCを開いていたのですが、満員電車のときはさすがにPCを開くわけにはいかないので、時間帯によってはタクシーを利用し、その車内で仕事をするようになりました。よって、タクシーの配車アプリを使うことが多かったのですが、複数人で乗車した際、タクシーの車内を少し狭く感じることがあり、Uberも利用するようになりました。

Uberがオススメなのは、一般的なタクシーよりちょっと多く払えば(※)、ハイヤーや高級車を配車してもらえることです。車種が違うだけで、車内の空間が広く感じ、仕事がしやすくなります。また、ちょっとした高級感も感じられるので、テンションも上がります。さらには、ドライバーを選ぶことができますし、ドライバーと直接電話をしてやりとりすることもできます。(※2017年1月30日より、東京23区では初乗り料金が下げられ、加算運賃が値上げとなりました。そのため、長距離に関してはUberとタクシーのどちらが高くなるかは計算していません)

タクシーの場合、どんなドライバーが来るかわからないので、イヤなドライバーに当たると、険悪なムードの中で移動することになってしまいますよね。それを考えると、ドライバーを選べるUberは画期的なサービスだと思います。そんな便利なUberですが、先日、私はあることに気が付きました。それは、アプリのマイページに記されていた「4.71」という謎の数字です。

この数字、何の数字か調べてみたところ、なんと、Uberのドライバーが乗客につけた評価の平均点とのこと。Uberのドライバーは、乗客が降車したのち、「この乗客は時刻通りに待ち合わせ場所に来てくれたか?」「丁寧に乗車してくれたか?」「シートベルトはきちんと着用してくれたか?」といった視点で、乗客を評価することができたのです。

評価は5点満点でおこなわれます。もし、評価の点数が低い場合、その乗客は今後Uberを呼ぼうとしても、ドライバーから敬遠されてしまう可能性があるとのこと。これを知ったとき、思わず「これはすごい」とうなってしまいました。

ただ、よくよく考えれば、Uberは本来「CtoC(Consumer-to-Consumer)」型のビジネス。Uberは、契約ドライバーと乗客をマッチングさせるビジネスです。
つまり、ヤフオク!のように、出品者と落札者、相互に評価ができるシステムを導入していただけです。しかし、タクシー業界においてこのようなシステムを見たことがなかったので、驚いてしまいました。

この相互評価のシステムは、「ドライバーも乗客もマナーを守ってね、でないと、Uberという便利なシステムを使えなくなっても知らないよ」という注意喚起につながっています。それがUberの乗車時の快適さにつながっているのだと知りました。

また、ドライバーと乗客のマナーがよくなれば、必然的に運転時のマナーもよくなります。ドライバーや乗客のイライラがなくなるだけで、危ない運転をする車は減り、事故も減るのではないでしょうか。これってまさに、「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の『三方良し(さんぽうよし)』の考え方ですよね。

ただ、Uberの国内での展開はあまりうまくいっていないようです。「一般の人が無許可でタクシー業を営んではいけない」という法律が存在し、競合にあたる日本のタクシー業界もUberに神経を尖らせているからです。Uberが流行れば流行るほど、乗客の取り合いになっちゃいますからね。

とはいえ、Uberも黙っていません。タクシーが走ってない過疎地などのエリアでUberを走らせられないか、試行錯誤しているようです。タクシーが走っていないエリアでUberが走るのであれば、『三方良し(さんぽうよし)』が加速しそうですね。Uberは好きですが、日本のタクシーも好きなので、どちらにとってもいい結果になってほしいと思っています。

「世間良し」の視点が不足していたために閉鎖に追い込まれたメディア

さて、記憶に新しい方も多いと思いますが、2016年末にMERYというキュレーションメディアが閉鎖されました。MERYは、若い女性向けにファッションや美容に関する情報を届けていた人気のメディア。このメディアが閉鎖された大きな理由は、ほかのサイトからのコンテンツの無断転載が多かったからです。

たとえば、あるサイトがイラストレーターにしっかりと報酬を払って描いてもらったイラストを無断で使用していたり、外部のプロカメラマンが仕事で撮影していた写真を無断で使用していたりと、コンテンツをつくる人たちにとって見逃せない行為が多数ありました。弊社がイラストレーターに発注したイラストも、無断で使われていました。そういった行為に対する批判が強まり、閉鎖を余儀なくされた形です。

ただ、その一方で、普段からMERYを使っていたユーザーからは「MERYが見られなくなって困っている」という声が多数寄せられました。また、一部の関係者の間でも、「若く前途のあるメディアが閉鎖に至るのは残念だ」という声があがっていました。この一連の騒動を、商売の本質である『三方良し』の考え方に当てはめてみると、いろいろなことが見えてきます。

MERYの場合は「売り手良し」「買い手良し」は達成できていました。ユーザーはMERYのことが好きだし、MERY側もユーザーの増加に伴い、広告収益をあげられていたからです。しかし、「世間良し」の観点ではどうでしょうか。

前述したとおり、MERYがおこなっていた行為は、世のコンテンツクリエイターにとって見逃せない行為でした。世間という括りからすると、コンテンツクリエイターからの抗議は小さな声だったかもしれませんが、その声はだんだん大きくなり、やがて、ある種の世論となりました。

私の持論ですが、世の中、どんな人・どんな企業にもミスはあると思います。
よって、大切なのは、失敗したときの誠意ある対応です。ただ、MERYの場合は、著作権者からの抗議が幾度となくあったにもかかわらず、誠意ある対応が不十分だったように感じます。よって、「世間良し」の壁を越えられずに、閉鎖が決まってしまったのではないでしょうか。

「ユーザーではない人」のことも考えてみる

先ほどのMERYの件とつながりますが、日本のWebサービスのみならず、世界中のWebサービスにおいては「ユーザー第一主義」という考え方が浸透しています。私も自分の書籍で「ユーザー目線が大事」とさんざん言っているのですが、「ユーザー第一主義」とは以下のような考え方です。

・ユーザーに喜んでもらうために、もっといい商品・サービスにする。
・ユーザーに喜んでもらうために、もっと便利にする。

これは素晴らしい考え方だと思いますが、この考え方にはひとつ大きな弱点があります。それは、「そのサービスのユーザーではない人たち」が蚊帳の外に置かれやすいということです。そこにサービスの炎上リスクが潜んでいます。

『三方良し』の考えでビジネスを語ると以下のようになるでしょう。
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1、売り手良し・・・サービスの運営側にメリットがある
2、買い手良し・・・ユーザーにメリットがある
3、世間良し・・・サービスの直接のユーザーではない人たちにもメリットがある
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先述したMERYの件では、上記の「3」の視点が欠けていたのかもしれません。
逆に考えれば、あれだけユーザーから支持されたサービスですから、「3」の視点を大切に再始動すれば、復活することも考えられます。

さて、イノベーションという言葉には、従来のサービスの改良を進める「持続的イノベーション」と、従来のサービスの価値を破壊して新しい価値を生み出す「破壊的イノベーション」があるそうです。今、IT業界で生まれているサービスの多くは、後者の「破壊的イノベーション」でしょう。

ただ、破壊的イノベーションの場合、結果的に誰かを傷つけてしまうことが多くあります。ビジネスにおいて競争は必要不可欠ですから、誰かが傷つくのは仕方がないとも思いますが、傷つかなくてもいい人までを傷つけるのは社会に貢献するサービスとはいえないのではないでしょうか。

よく日本人は「世間の目」を気にしすぎてなかなか行動に移せないといわれます。ただ、「世間の目」を気にすることが必ずしもダメかというと、そうではありません。「世間の目」を気にするということは、自分とまわりの人の良識を照らし合わせて、最適解を導くプロセスだからです。

IT業界には「ユーザー第一主義」をポリシーに掲げる企業がたくさんあります。
「ユーザー第一主義」は本当に素晴らしい考え方です。ただ、ユーザー第一主義に囚われすぎると、『三方良し』のバランスが崩れてしまうリスクがあるのではないかと思うのです。

イケイケドンドンのIT業界。だからこそ、たまには立ち止まって、まわりに目を向けてみる。今後、日本で成功するWebサービスというのは、売り手・買い手・世間の三方にしっかり気を配れるサービスなのかもしれません。究極の『三方良し』、実現できたら素敵だろうなあ。

むむむ、私もがんばるしかない。

<了>

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