東京本社を「東京ガーデンテラス紀尾井町」(東京都千代田区)に移転したタイミングで、週休3日制の導入検討や全館フリーアドレス制と次々に働き方改革を打ち出しているヤフー株式会社。
大きな話題を呼んだ週休3日制の導入検討について伺った前編に引き続き、後編では全館フリーアドレス制、「どこでもオフィス」(リモートワーク)制の狙いについて、同社ピープル・デベロップメント戦略本部の湯川高康本部長に話を伺った。
コミュニケーション量の増加を定量計測する試み
— 貴社は東京本社移転に合わせ、全館フリーアドレス制を導入されたそうですね。その意図は、どこにあったのでしょうか?
湯川:フリーアドレス制の導入は、まさに働き方を変える一つの大きな目玉でした。現在、ヤフーでは全館、どこのフロアで業務しても構わないという方式を取っています。
導入の意図は、まさに組織の垣根を無くすことです。今回のオフィス設計ではデスクもあえて斜めに設置し、ジグザグにしか歩けないようにしています。それによって交差点を作り、人と人がぶつかるようにしているのです。結果、コミュニケーションが生まれ、新たな気づきやイノベーションが生まれてほしい。そういうコンセプトです。
部門間の移動という面では意図通りの結果が出始めています。次は、実際に様々なコミュニケーションが生まれているかどうかを見る局面かなと思います。
— コミュニケーションが実際に生まれているかは、定量的に計測されておられるのでしょうか?
湯川:はい、これは実際に実験をしており、定量調査を行なっています。一部のフロアで交通量とコミュニケーション量の2点を調査したところ、両方の点において、ジグザグに机を配置したフリーアドレスのほうが、従来よりも約2倍に増えたという計測結果も出ています。新社屋では、一部ではなく全館で行っているので、どのように効果を測定しようかと考えているところです。
現在は、社内Wi-fiに接続していると、誰がどこにいるのかわかる社内システムがあります。この仕組みを応用すれば、「生産性が高い人、パフォーマンスの高い人はどういう動き方をしているのか」のデータを収集し、分析するということが技術的には可能。
これを実際に導入するにはまだまだ課題がありますが、生産性の高い働き方、パフォーマンスの高い働き方というのを定量的に分析することで、従業員一人ひとりの働き方をより良いものにしていきたいと考えています。
— 逆に、フリーアドレス制を導入したことで困った部分はありますか?
湯川:やっぱり、上長からすると業務管理をどうしていいか、どう評価していいかわからない部分はありますね。しかしながら、たとえ1日中目の前の席に座っていたとしても1日中ずっと見ているということはないですよね。
例えば、目の前に部下がいれば話しかけなくともわかった気になりますが、フリーアドレスだといつ捕まるかわからない。また、目の前だと仕事をしたフリができても、見えないところで仕事をする以上は説明責任が生じる。従業員一人ひとりの意識もそういうふうに変わっていくことで、労務管理や評価もしていけるのではないかと考えています。
— フリーアドレス制の問題点としてチームプレーがやりづらくなるという懸念もあるようですが、そういった部分は実際に導入されていかがですか?
湯川:むしろ、顔が見えないからこそ活発なやり取りが生まれているという側面はあると感じています。チャットツールだと、ログが残るので言った言わない問題が生じないですよね。場にいなくても記録が残るし、資料も共有しやすい。ツールをうまく使いこなすことで、生産性の高い仕事はできるはずです。
イノベーションを生むための「どこでもオフィス」
— 「自由な場所で仕事をする」というところでいえば、リモートワーク制度もすでに導入済みですね。
湯川:導入してもう2年半ぐらい経ちます。弊社では、「どこでもオフィス」と命名し、海でも山でもどこでも仕事をしていいよ、という制度にしています。もともと、この制度もフリーアドレス制と同じで、新しい気づきやサービスを生み出すきっかけになってほしいという目的でできた制度です。
社内で業務することが多いとどうしても知った人とだけ話したり、担当領域の人たちだけの会話になりがちで、インプット量が減ってきます。社外に飛び出すことで普段会えない人のところで一緒に仕事をし、刺激を受けて自分の業務に還元してほしい。そういうきっかけとして使うものであり、在宅勤務というわけではありません。
もちろん、在宅で勤務すること自体を禁じているわけではなく、あくまでイノベーションを生むための制度活用をしてほしいということですね。
— ただ、必ずしも外で仕事ができるメンバーばかりではありませんよね? 社外で行なうと問題のある業務領域の方もいらっしゃると思います。
湯川:そういう声は確かにあります。例えば給与計算をしているメンバーは、取り扱うのはセキュリティレベルが高い情報なので、社外では使えません。だからといって「どこでもオフィス」が使えないかというと、そうではないですよ。
月に1回でも2回でもいい、直接的に業務と関わりのないようなセミナーを聞きに行ったり、社外の勉強会に参加したり、自分の仕事をより良くするための刺激にするなど使い方はいろいろあると思うんです。全職種、基本的にそういうことは可能だと思います。新たな気づきの機会として活用してもらいたいですね。
— なるほど。この制度の利用実績は、どれぐらいでしょうか?
湯川:現状ですと4月~9月の上半期ではだいたい毎月4割ぐらいの従業員が利用しています。平均利用日数は、1.6日という割合ですね。これまでは月2日までという制限がありましたが、2016年10月から5日に増やしました。
5日という数字には、一部の部署で「どこでもオフィス無制限」というトライアルをした結果などを元に決めています。
目指すのは、会社と従業員が対等な関係性を持つこと。
— こうした働き方改革で、どういった未来を目指しておられますか?
湯川:目指しているのは、「会社と従業員の対等な関係性」です。
一般的に、会社は雇っている側で従業員は雇われている側、上下があると思われています。そうではなく、会社は従業員に対し少しのルールとパフォーマンスを要求し、従業員は自立的に考えパフォーマンスを達成する。その対価として金銭的報酬がある。本来、会社と従業員は対等な関係であるべきなんです。
だから会社は、一方的に働けというのではなく、働き方の多様性、選択肢を増やすことで従業員一人ひとりがより高いパフォーマンスが挙げられ、才能を解き放てる環境を用意しなければなりません。
— そうすることで、お互いにメリットを追求していくことができるわけですね。
湯川:はい。ヤフーでは会社は、従業員の才能を解き放つ舞台だと考えています。ケガをするかもしれない、モノが落ちてくるかもしれない舞台だと役者さんは思い切り踊れないわけです。だから思い切りパフォーマンスを発揮できる舞台を、会社は整える必要があると思っています。
— 選択肢が増え、その選択も従業員に委ねるとなると、ルールもいろいろと整備していく必要がありますね。
湯川:ルールでがんじがらめにすると、従業員は自分で選択しなくていいので考えなくなります。そうではなく、極力ルールはシンプルにして、その中で従業員一人ひとりがどうやったら最高のパフォーマンスを挙げられるか考えてほしいですね。
極端に言えば、一人ひとりが自立し、ちゃんと会社として成長していけるパフォーマンスを出せるのであれば、ルールはなくたっていいんです。もちろん現実には法令があり、健康問題や就業規則もあるので全くルールがないという状況はありませんが。ルールがないと働けない、というのは寂しいと思いますね。
— 従業員一人ひとりが自分の頭で考えてパフォーマンスを上げていくのは、フリーアドレスやリモートワークで狙ってらっしゃる「新しい気づき」に通じるものがありそうですね!その気づきから新しいイノベーション生まれそうでワクワクします。本日は貴重なお話をありがとうございました!