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インサイトレポート

ウチの社長は15歳! 特許を持つ女子中学生とその父親に聞く、“家庭から生まれるイノベーション”とは

2018.11.02

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「家族の困った」を解決するために数々の発明を行っている中学生がいます。しかも、その発明で特許を取り、起業までしてしまったというから驚きです。そんな発明少女と、それを支えるお父様との会話から、アイデアやイノベーションを生むヒントを探ります。

小学生でTEDxに出演! 世界中で話題になった発明少女

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愛知県安城市。人口18万人のこの街に注目すべき少女がいます。彼女の名前は、神谷明日香(かみや・あすか)さん(15歳)。地元の中学校に通う中学3年生です。

彼女が衆目を集めたのは、小学6年生のときのこと。『空き缶分別箱』という装置を作り、特許を取得。テレビや新聞に取り上げられ、プレゼンテーション・イベント『TEDxKyoto』にも出演。その動画は世界中に配信されることになりました。


▲Meet a 12 year-old patent holder | Asuka Kamiya | TEDxKyoto

さらに中学2年になると「株式会社やくにたつもの、つくろう」を父の神谷豊明(かみや・とよあき)さん(43歳)とともに起業。学業を優先させるため、実質的な経営は父の神谷豊明さんが行っていますが、彼女は社長の立場で活動を続けています。

「こう聞くと、まるで頭の良い真面目な子っていうイメージを持たれちゃうんですが、本当の私は、そういうキャラじゃないんです。友達にも『すごい子かと思ったけど、喋ってみるとバカだよね(笑)』ってよく言われちゃいます。私、どちらかというとアウトドア系で、家で勉強をするよりも友達と外で遊んでいるようなタイプなんです」

そんな活発な少女が、なぜ発明や起業に目覚めたのでしょうか。
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夏休みの自由研究から生まれた発明

明日香さんが最初に発明をしたのは、2013年の小学4年生のとき。夏休みの宿題のひとつである自由研究の課題で、『トイレットペーパー出しすぎ解消スタンド』という装置を作ったのがはじまりでした。

 ▲トイレットペーパー出し過ぎ解消スタンド

▲トイレットペーパー出し過ぎ解消スタンド

「当時、パパとママがあることに困っていました。保育園に通っている弟がトイレットペーパーを引っ張り出しすぎて、それが床にどんどんたまっていっちゃったんです。それを見ていて、トイレットペーパーをちょうどいい長さで止める、そして切れる装置が作れないか?と思いました」

明日香さんは、父の豊明さんと一緒に仕組みを考えました。装置に紙やすりを付け、その摩擦でトイレットペーパーが適切な長さで止まり、切れるようなシステムです。

▲ちょうど良い長さで止まるまで、何度も実験をくりかえした

▲ちょうど良い長さで止まるまで、何度も実験をくりかえした

「完成したときは本当にうれしかったです。しかも学校で賞をもらい、その後、先生の手引きもあって、全国区の発明イベント『市村アイデア賞』(主催・公益財団法人市村清新技術財団)の佳作に選ばれたんです。まさかこんなことになるとは思っていなかったので、すごく驚きました!」

この成功体験は明日香さんの心に火を着けました。以降、毎年の夏休みの自由研究は、彼女と家族の一大イベントになっていったそうです。

ついに特許を出願することに

2014年の小学5年生の夏休み。明日香さんはある装置を開発しようとしていました。それが先に紹介した『空き缶分別箱』です。

▲今も大事に保管してある、空き缶分別箱

▲今も大事に保管してある、空き缶分別箱

この装置はスチール缶とアルミ缶を分別出来るもので、とあるキッカケで作られました。

「私のおじいちゃんはスーパーマーケットの経営をしているですが、空き缶のスチール缶とアルミ缶を分別するのが大変そうでした。そんな姿を見ていて、空き缶を自動で分別することはできないか?と考えたんです」

▲実験用に集められた空き缶の山

▲実験用に集められた空き缶の山

自動に分別というとAIなどの最先端を想像してしまいますが、明日香さんが考えたのは「磁石を使う」というシンプルなアイデア。

「小学3年の理科の実験で習った『スチール缶は磁石にくっつくけど、アルミ缶はくっつかない』という知識が、そのまま使えるんじゃないかと思いました。でも、やってみたら意外と難しかった。そこで試行錯誤を繰り返しながら、パパと一緒にいろいろと実験をし続けました。そうしたら、空き缶投入口の下に“磁石のついた紙のプレート”を付けると解消されることがわかったんです。そして動作の検証後、ホームセンターに材料を買いに行って、2〜3時間後に箱は完成しました」

▲本文中に登場する磁石の付いたプレート。これが特許取得の理由になった

▲本文中に登場する磁石の付いたプレート。これが特許取得の理由になった

こうして出来上がった『空き缶分別箱』ですが、その後、思わぬ展開が待ち構えていました。

「パパの知り合いの弁理士さんが『空き缶分別箱』を見て、特許を取ることを勧めてきたんです。作るきっかけになったおじいちゃんも『取っちゃえ、取っちゃえ』って推してきました。当時、私は小学5年生だったので特許がどういうものかはわかっていなかったんですが、単純に『おもしろそう!』って思いました」

特許出願の作業をしたのは、父・豊明さんと弁理士さん。

「特許を取るにはお金がかかります。でも、せっかく作った夏休みの工作も、いずれは壊れてなくなってしまう。でも特許を取れば記録として残る。作ったものが公の機関に一生残るわけですから、これは明日香にとっても大きな自信に繋がるんじゃないかと思ったんです」

▲特許証と市村アイデア賞の盾

▲特許証と、市村アイデア賞の盾

イメージキャラクターとしての社長へ就任

その後、明日香さんは妹のために『本が倒れない本棚』、再びおじいちゃんのために『ペットボトル分別装置』などを発明。中でも『ペットボトル分別装置』は名古屋大学に通う学生たちに物理的な検証をしてもらい、2つ目の特許を取得することになります。

▲本が倒れない本棚

▲本が倒れない本棚

▲2つめの特許となった、ペットボトル分別装置

▲2つめの特許となった、ペットボトル分別装置

そして、2017年9月13日に『株式会社やくにたつもの、つくろう』を設立することに。当時、中学2年生だった彼女は、なぜ会社を作ることになったのでしょう。その理由を、同社の代表取締役専務でもある父・豊明さんはこう語ります。

「私は娘・明日香の動きを見ていて、小中学生の中には、世の中の役に立つアイデアを持っている子がいる、という現実を知りました。そして、そういう子は他にも沢山いるはず。ならば、その子たちのアイデアを実現化するお手伝いが出来るんじゃないか?と考えたんです。具体的に言うとアイデアを元に特許を取ったり、商品化のお手伝いをするということ。子どもたちは自分のアイデアが具体化していくプロセスを見ていくことで、社会と接することが出来、自信がつきます。その自信は、大人になって社会に出て仕事をはじめたときに役に立つはずです。また、こういった小さなアイデアをどんどん実現化していけば、より良い社会が実現するのではないかとも考えました。明日香も同じ思いを持っています」

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現在、『株式会社やくにたつもの、つくろう』では、全国の小学生たちの特許出願、商品化のコンサルティング・サービスを展開。『空き缶分別箱』の仕組みを学習教材化した『空きかん分べつスライダー』を、クラウドファウンディングで調達した資金を元に商品化。さらに『空き缶分別箱』そのものを商品化するために、関連企業と相談をしながら、そのプロトタイプを製作中だそうです。

▲学習教材の、空きかん分べつスライダー

▲学習教材の、空きかん分べつスライダー

▲空き缶分別箱 商品化プロトタイプ

▲空き缶分別箱 商品化プロトタイプ

発想の原点は「家庭の中」にある

小学生のときから、様々な発明をし、特許まで取得してきた明日香さん。しかし、アイデアを思いつき、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら装置を開発するには、根気や努力が必要です。明日香さんはそのマインドをどこで学んだのでしょう。

それはどうやら、彼女の家庭環境に起因しているようです。実は、父の豊明さんも特許を取得している発明家だったのです。

「私は以前、飲食店をやっていまして、そのときにワインのシニアソムリエの資格を取得しました。しかし、後継者が育たず、苦心していました。そのとき、『ソムリエの知識を自動化することが出来ないか?』と考え、アプリを開発したんです。このアプリは料理の属性に基づいてピッタリのお酒を導き出すことができます。さらに高級ワインの味をデータ化/数値化し、似た味の低価格帯ワインを探すことも出来る。このシステムさえあれば、自分に合うワイン、その料理に合うワインを安価で見つけることが出来る。これで特許を取得させていただきました」

▲特許技術「味覚値処理装置、及び、プログラム」をもとにしたアプリ

▲特許技術「味覚値処理装置、及び、プログラム」をもとにしたアプリ

豊明さんは、このシステムを開発するためにワインの味覚を毎晩のように研究していたと言います。そのうしろ姿を、幼い頃の明日香さんは見ていたというのです。

「毎晩、パパが理科の実験みたいに試験管みたいなものを持って、ずうっとワインの味の検査をしていたのを覚えています。ある液体に別の液体を入れると色が変わったりするのを眺めてました。なんか不思議だな、でもすごいなって」

また、豊明さんいわく、「自分がキッチンに立つときは、いつも明日香が隣りにいた」と語ります。

「幼い頃から一緒に料理を作っていましたね。彼女に一番最初に教えたのが、お味噌汁の作り方。出汁を入れて味噌を入れて、味見をしてもらうんです。で、『何が足りないと思う?』と質問をする。すると明日香から『もう少し味噌を入れたほうがいい』などの意見が出てきます。じゃあ、それを入れてみたらどうなるか?を試してみる。私たちはキッチンで、そういう実験を延々繰り返していました。明日香が発明するときの試行錯誤のプロセスを学んだのは、そのときだったのかもしれないですね」

▲料理の経験が、実験にも役立っている

▲料理の経験が、実験にも役立っている

また豊明さんには、家庭がある意味において会社と同様の“共同体”であるという感覚もあるそうです。

「企業にお勤めされている方にはちょっと変だと思われるかもしれませんが、自分にとっての家庭とは、落ち着ける場所というだけでなく、みんなで何かを生み出していく『コミュニティ』という感覚もあります。私の父もスーパーマーケットを経営していますし、私自身も様々な事業を展開していますので、一番身近な家族に新しいアイデアやビジネスについて話す機会がけっこうあるんです。その血なのでしょうか、明日香もその意識を共有しているような気がします」

すべてのアイデアやイノベーションは、一番身近な社会である「家庭」の中から生まれてくるーー。この考えは神谷家だけでなく、どんなご家庭でも参考になるかもしれません。

ちなみに神谷家の家訓はこうだそうです。

「とにかくやってみる! やりゃあなんとかなる!」
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神谷明日香(かみや・あすか)
2003年、愛知県安城市生まれ。「株式会社やくにたつもの、つくろう」社長。
小学4年のときに作った「トイレットペーパー出しすぎ解消スタンド」を皮切りに数々の発明を行う。「空き缶分別箱」「ペットボトル分別装置」は特許を取得。新聞、TVなどにも紹介され、発明少女として絶賛される。
現在、中学3年生。将来の夢は管理栄養士。

神谷豊明(かみや・とよあき)
1975年 愛知県安城市生まれ。株式会社カルチベイトジャパン代表取締役
飲食店経営中にワインのシニアソムリエの資格を取得。唎酒師としても活動。
「株式会社やくにたつもの、つくろう」では代表取締役専務を努め、娘・明日香さんのサポートを続けている。

株式会社やくにたつもの、つくろう
公式HP http://yaku-tatsu.com

取材・文・撮影/尾谷幸憲

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