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【Why? IBARAKI】結いプロジェクトに見る地域のファンづくり成功の秘訣
―結城市 野口純一さん

2018.09.14

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都市圏への人材流出や高齢化による人口減少は、地方の共通課題です。補助金支給から暮らし体験、縁結び支援まで、地方自治体は多様な移住施策を打ち出していますが、単なる引っ越しと違い、住む場所はもちろん、生活スタイルの変化をも伴う移住の促進は一筋縄ではいきません。そうした中、より緩やかなアプローチとして広がりつつある、地域の“ファン”づくり、すなわち「関係人口≒コミュニティ」を増やすことに成功しているのが茨城県結城市です。同市では官民共同出資による街づくり会社「株式会社TMO結城 ※」が地域活性化を目的とする「結いプロジェクト」を主宰しています。その発起人であり、結城商工会議所の職員としてTMOの事務局を務める野口純一さんにお話を聞きました。
※TMOとは、『Town. Management. Organization. 』(タウンマネージメントオーガニゼーション)の略称で、一般的には『まちづくり機関』と呼ばれています。

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結城商工会議所 経営指導員/株式会社TMO結城 野口 純一さん
1979年生まれ、茨城県古河市出身。大学卒業後(大東文化大・経営学)、都内アパレル企業での5年間の勤務を経て、2008年に結城市商工会議所に就職。「結いプロジェクト」を立ち上げ、株式会社TMO結城の事務局として市の地域活性化をけん引する

茨城の片田舎に2万人が押し寄せるイベントを企画

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結城市は中世城下町の街並みを残す趣ある街で、結城紬の名でご存知の方もいるかもしれません。TMO結城が主催する「結いプロジェクト」では、そんな街の魅力を生かしたイベント開催から、コワーキングスペースの運営、地方都市での働き方講座の実施まで、さまざまな取り組みを通じて人と人をつなぎ、地域活性化を推進しています。

中でも盛況なのが、伝統ある街並みを生かして、神社の境内や見世蔵、空き店舗などを会場に活用したイベントです。

野口―2009年に始めた「結い市」は毎年10月に開催する食とアートのお祭りで、今年で9回目を迎えました。初年度の集客数は500人程だったのですが、今では2万人にまで伸びています。その5年後には、「結いのおと」という音楽フェスティバルも始めました。次なる地域活性化のフックに音楽を選んだのは、私自身が音楽好きだったから。都内のアパレル企業で働いていたころから好きなファッションやサブカルチャーの要素も取り入れています。

▲結い市

▲結い市

結城市 健田須賀神社の中にはクリエイター達の出店が広がる

「結いのおと」は年々人気を増していき、開催5年目となる2018年度は4月7、8日の2日間に、「EVISBEATS」「KAKATO(鎮座DOPENESS×環ROY)」「tofubeats」「WONK」「ZOMBIE-CHANG」など、東京のクラブイベント顔負けの豪華なアーティスト陣を迎え、市内外から詰めかけた観客を魅了しました。

▲結いのおと

▲結いのおと

見世蔵をライブステージにした会場でパフォーマンスを行う韻シスト 見世蔵ステージには開場前に並ぶ人々も

野口―「結いのおと」を企画した際、地域の皆さんから街中での演奏に理解を得ることができたのは、「結い市」の成果を体感してもらえていたからだと思います。今年は関西から足を運んでくれたお客さんもおり、手応えを感じています。

変化のきっかけは伝統の街に新しい風を吹き込んだこと

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結城市はそれまでも地域活性化に取り組んでいましたが、歴史ある街ということもあり、従来の慣習の枠から抜け切れずにいたといいます。そんな中、神社をカフェにしたり、酒蔵を手工芸品店にしたりする「結い市」の“型破り”な企画はなぜ実現できたのでしょうか。

野口―結城市で働き始めてすぐ、伝統ある街だからこそ新旧を融合させたら面白いことができるんじゃないかと思うようになったんです。ちょうどそのころ、TMOを通じて、同い年で一級建築士の飯野勝智さんと出会ったのですが、彼も同じ思いを抱いていて。それが「結い市」の企画につながりました。企画にゴーサインをもらえたのは、私が結城市の出身ではなく、かつ、民間企業からの転職者という、“外の人間”だったからかもしれません。この市に新しい風を吹き込んでほしいという期待の意味が大きかったのだと思っています。

yuinowa 結城市にある築87年の呉服屋にリノベーションを施し、コワーキングスペースやカフェとして開放している

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結城市にある築87年の呉服屋にリノベーションを施し、コワーキングスペースやカフェとして開放している

外への魅力の発信と地域住民との信頼醸成でコミュニティをつくる

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「結い市」と「結いのおと」が当日の集客はもとより、中長期の地域活性化につながる施策として成功しているのには理由があります。それは、徹底した街の魅力発信と、住民との信頼関係の構築です。とりわけ、イベントを共に作り上げる参加者を地域の”ファン“として取り込んでいく点が特徴的だといえます。

野口―イベントの出店者や出演アーティストが、この街ならではの店やパフォーマンスを展開することが集客につながると考えているので、出店者らには事前の街歩きツアーに参加してもらい、結城市の歴史や良さを知ってもらうことを大切にしています。ツアーでは会場として使う物件をまわり、特徴や注意事項なども説明するんです。出店者や出演アーティストが家主さんの協力を得ながら自分のカラーを出せる空間を作れるよう、両者のマッチングを行った上で、直接の打ち合わせをセッティングするなど、手間暇かけて当日までに信頼関係を築いていくのです。

TMOが細やかなフォローで住民と参加者の連携を支えているからこそ、街全体を会場にするというイベントの魅力を最大限に引き出せる上、継続的な実施が可能となっています。

野口―お昼時の「結い市」では「私が店番をしているから昼食を取っておいでよ」と家主さんが出店者に声を掛ける姿が見られることも。単なる場所の貸し借りという関係性を超えて、いつのまにか一緒になってイベントを作り上げているんですよね。2日目が終わるころには、崩すのが惜しくなるほど一体感のある空間が出来上がり、こうした成果が「来年はうちも出店者を受け入れよう」とお隣さんへと輪が広がっていく――。その積み重ねが「結い市」を発展させてきました。

イベント成功の秘訣は“地方の上質な音楽祭”というブランディング

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「結い市」の出店者や「結いのおと」の出演アーティストは、全て主宰であるTMOからのオファーだといいます。「結いのおと」といえば、豪華アーティストのラインナップが魅力の一つですが、結城市のような地方都市がなぜ著名なアーティストを呼べるのでしょうか。

野口―私がもしミュージシャンだったら、出演すること自体がステータスになるような場でパフォーマンスしたいと思うんです。そこで意識しているのが、出演者の目線でアーティストのラインナップをそろえること。すると、「あのアーティストも参加するなら」って承諾を得やすくなり、自然と「結いのおと」のブランドが高まっていくんです。“地方の上質な音楽祭”という意外性を観客に提供できる点に面白さを感じています。

他方で、多くの観客にとってはコンサートのためにわざわざ結城市に足を運ぶのは大変なこと。野口さんは、集客のためには、「結いのおと」に対するアーティストの熱意を高め、ここでしか見られないパフォーマンスを観客に届けることが大事だと考えています。ライブ会場の工夫や、アーティスト向けの街歩きツアーの実施、結城紬を着てのパフォーマンスを提案が集客の仕掛けというわけです。

野口―とはいえ、最初からすべてがうまくいったわけではありません。1年目はチケットが思うように売れず、自腹を切りました。また、当時は今と異なり、アマチュアのパフォーマンス会場を設けていたのですが、周辺住民から苦情が出てしまって。外部のイベント運営会社にアドバイスを求めたり、出演アーティストの範囲を見直したりしながら改善を重ね、ようやくチケットの売り上げで運営費を賄えるまでになりました。先日、「結いのおと」に出演いただいたあるアーティストの依頼で、横浜でのコンサートの衣装として結城紬を貸し出したことがありました。アーティストが結城市に愛着を持ってくれたこと、そして彼らを通じて、これまで結城市を知らなかった人にも広く街の魅力を伝えられたことをうれしく思います。

▲結城紬

▲「結いのおと」で結城紬を着てライブをするkirim

関係人口づくりの先にある課題

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結城市とさまざまなかたちでつながりを持つ“関係人口”が増えた今、イベントの活気をいかに日常につなげるかが次の課題です。

野口―引き続き街の魅力向上に取り組みつつ、これまで都心でしかできなかったような仕事をこの街で創出することで、地元にとどまる人と新たな居住者を増やしていきたいと考えています。実際、「結い市」への出店をきっかけに移住を決め、この街で飲食店業を営みながら家庭を持った方がいる他、企業誘致の実績もでき、これまで撒いてきた種は芽を出しつつあります。今後はそれを根付かせる時期。創業支援や企業誘致に一層注力していくつもりです。時間はかかりますが、これからが楽しみです。

「結いプロジェクト」は、TMOを通じた行政・民間企業・地域住民のバランスの取れた協力体制に支えられてきました。また、人口5万人という市の規模感や街の風格も結城市ならではの成功要因といえるかもしれません。
一方で、野口さんは地域の特性に関わらず共通して重要なことがあると指摘します。

野口―まずは地域活性化の施策としてやってみたいことを考えるのが大切だと思うんです。私の場合は、それがマルシェや音楽でした。軸を持った上で、「じゃ、この地域ならどうやれるか」と掛け算して考え、そのために街の潜在性を使わせてもらう。街の資源だけを見ていても、面白いアイデアはなかなか生まれません。

今でこそ「結いプロジェクト」は創業や移住といった街づくりの本題に取り掛かれるようになりましたが、それは10年にわたる活動の積み重ねと試行錯誤の中で見えてきた道筋でもあります。

野口―商工会議所の経営指導員として採用された立場上、本来のミッションとは全く別のことをやっているように見えてしまうため、当初は人目を忍んで仕事をしていた時期もありました。振り返ってみれば、移住という場所の越境をプロデュースする上で、時には遠回りに思えても自分の情熱に従って“職の越境”をしたことも、間違いではなかったと感じています。


・取材協力:yuinowa
住所:茨城県結城市結城183
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・取材/文:湯澤絵里子
・撮影:長尾浩之

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